文学座『女の一生』を観ました。

    言わずと知れた杉村春子の代表作『女の一生』である。と言いたい所だが、私の頭の中では杉村春子と『女の一生』は繋がっていなかった。古そうなタイトルだなぁくらいは思っていたが。おかげで何の先入観もなく観ることができた。
 太平洋戦争直後の焼け野原から物語は始まる。みんな燃えてしまったとたたずむ女性。それが布引けい(山本郁子)である。そこに訪れたのは主人公の嫁ぎ先であった大店(おおだな)の次男・栄二(上川路啓志)だった。
 両親を亡くした後、叔母の家の厄介者として虐待を受けて生活していた少女けい。我慢しきれず逃げ出して、この大店の庭先に入り込んでいたところを家人に見つかる。店の未亡人で女主人・しず(赤司まり子)は一度は家に帰そうとするが、けいの境遇を知ると彼女を引き取ることにする。けいは栄二とお互いに惹かれあうが、しずは彼女の商才を見抜き長男・伸太郎(大滝寛)と結婚させる。けいは栄二への恋心を諦めることになり一人号泣するが、そこからけいが生き生きと動き出したように見えた。仕事も家族も世界情勢も、さまざまな情報をその頭に叩き込み、つぎつぎに対応していく。ただ、人の細やかな心への対応はあまり上手くなかったのか、娘の子どもとしての甘える心にもあまり頓着しなかった。代わりに店の主人で夫である伸太郎と娘・知栄の信頼関係は厚くなっていった。もともと商売に向いていなかった夫は家を出る。娘も夫の家に行ってしまう。それでも強く唇キリッと結んだけいの表情が印象的だった。
 主役を演じた山本郁子は、庭に入り込んだ頃から、長男と結婚するように言い渡されるくらいまでの若い頃の演技は、無理にはじけた感じがして見ているとつい体に力が入った。けいが大人になってからの彼女は本当にすばらしかった。誰とでも対等で、口角をクッと上げて作る笑顔から彼女の強さと才能を強く感じた。目は笑っていない。あの表情が私はとても好きだった。女主人・しずからも強さは感じたが、伸太郎とけいとの結婚は母の部分が強く出た場面であった。妹たちは「女性としての幸せ」を求めていた。手広く仕事をこなすけいは女の部分をあまり感じさせなかった。その点がすごく好きな部分だった。現代であれば一人の大人として十分幸せだっただろう。ただこの時代に彼女のような生き方は幸せだっただろうか。人の目にはどのように映っただろうか。
 娘が独立したあと、けいが一人で住まう家に長年別居していた伸太郎が現れお互いの気持ちを語り合った。彼はこの時代でなければ、商才に長ける妻を上手くサポートしていくことを良しとして生きていけたのではないだろうか。彼はけいの才能を認めていた。けいも伸太郎から認められたことをとても喜んでいたように見えたし、けいから夫を蔑んでる様子は感じられなかったのでずっとお互いを尊重していたのかもしれない。感情を言葉にして相手に伝えることは少ないという印象のこの時代に(本当はどうかわからないが)、こうやって言葉で伝えることが人にとって必要であることが伝わってきた。この場面は感動した。
 物語のラストは冒頭のシーンに戻る。若い頃お互いに心惹かれあっていたけいと栄二だが、すでにそんな感情はないことがわかる。ただ親しい人を懐かしむ二人。そういえば、1980年代の昼ドラによくあったような気がする設定だが、ドロドロしていなかった。最初から最後までどの登場人物も、演技が気持ち良くはまってスッキリとした感じがした。

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文学座『女の一生』

作:森本 薫 
補訂・演出:戌井市郎による 
演出補:鵜山 仁

出演:赤司まり子、山本郁子、松山愛佳、前東美菜子、中原三桜里、松本祐華、石川 武、大滝 寛、今村俊一、鈴木弘秋、上川路啓志

[東京公演]10月23日[火]→28日[日] 会場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
[地方公演]1月→2月 中部・北陸
         11月→12月 中国・尼崎
http://www.bungakuza.com/onnanoisyou2018/index.html

(金沢市民劇場例会 https://www.facebook.com/金沢市民劇場-211156305744294/ )
日程: 2月10日(土)18:45~
    2月11日(日)13:30~ ※こちらの日程で観劇しました
場所:石川県音楽堂邦楽ホール

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観劇記録

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