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上場準備中の労務管理で注意すべきこと(中編)

おはようございます。こんにちは。こんばんは。自称バックオフィスデザイナーの乙津です。
今回も前回に引き続き、上場準備中の労務管理のポイントを書きたいと思います。
労務管理って論点が多すぎるというのと、当たり前なのですが、法令の話がメインなので書いていて楽しくありませんし、筆が全く進みません。
ですが、超大事な論点ですので、引き続きお付き合いください。

それでは以下目次です。

1.労働時間の原理原則と36協定(サブロク協定)
2.割増賃金の正しい計算
3.年棒制と割増賃金の関係
4.管理監督者の取扱い
5.裁量労働制の取扱い

1.労働時間の原理原則と36協定(サブロク協定)

労働時間の管理なのですが、まず労働基準法で定められている原理原則を見てみましょう。
労働時間:一週間で40時間以内かつ一日8時間以内
休日:一週間で少なくとも一日
8時間以内を強調していますが、これがとても大事です。割増賃金(残業代)のところで詳しく説明しようと思います。
原理原則が上記となっているため、これ以上労働者に働いてもらう場合はあらかじめ労使間(会社と労働者代表(詳しくは前編参照))で書面による協定を結び、所轄の労働基準監督署に届ける必要があります。これが一般的に言われている労働基準法第36条に則った協定、36協定です。
36協定を締結したからと言って無制限で残業をさせていいわけではありません。労働基準法では労働時間の延長の上限を以下のように定めています。
一週間:15時間
二週間:27時間
四週間:43時間
一ヶ月:45時間
二ヶ月:81時間
三ヶ月:120時間
一年間:360時間
一ヶ月の上限が45時間、一年間の上限が360時間は覚えておきましょう。
では上記の上限を超えてしまうことが見込めている場合はどうすればよいのでしょうか。もう残業させてはいけないのでしょうか。上場準備中の管理部門なんて一ヶ月45時間とか無理ゲーなんですけど。。。
安心してください。決算期や繁忙期などのために特別条項付きの36協定を結べば、合法的に定められた上限を超えて労働者に残業をしてもらうことが可能になります。
手続きの流れとしては
①36協定の余白に「〇〇の場合には、1ヶ月の時間外労働を○○時間まで行わせることができる」といった内容の文言を書き加える。
②以降通常の36協定の手続きと同じ
となります。
「やったー!これでいくらでも残業させられる!」と思ったそこのあなた。世の中そんなに甘くありません。
特別条項付きの36協定は以下の注意点があります。
①特別条項で上限を拡大できるのは「年6回」まで
特別条項は、あくまでも決算などの繁忙期や緊急対応を乗り切るための特別な例外対応というのが大前提なので、上限の拡大は年6回までとされています。(それでも年間半分あるのはおかしいと個人的には思っていますが。)

②特別条項は上限を超えてまで残業しなければいけない事情が予想される場合に限られる
とりあえず残業枠は大きいほうが安心だから枠を広げよう、といった場合には特別条項を利用することは認められていません。「○○の業務で逼迫することが予想されるため」という場合に限られます。

③上場準備観点では特別条項においても過労死ラインは意識する
なんとなく気がついた方もいるかと思いますが、特別条項でどこまで上限を拡大してよいのかという点については労働基準法上定めがなく、実質青天井です。(2019年4月から青天井ではなくなります。)
「やったー!これで年6回までならいくらでも残業させられる!」と思ったそこのあなた。世の中そんなに甘くありません。(二回目)
上場準備観点でいうと過労死ライン(一ヶ月単位100時間まで、二ヶ月連続する可能性があるならば80時間まで)を超えた特別条項だと主幹事証券会社からほぼ確実に突っ込まれます。
過労死ラインを超えるような特別条項の設定はやめましょう。
ではどのような特別条項がいいのでしょうか。
私は実務上いつも以下のような特別条項にしています。(業態によって変わると思いますが、大体この内容でクリアできると思います。)

「四半期決算、本決算等の決算期、当社の製品に対するクレーム等が発生し顧客や関係者への対応のため、繁忙期における受注等の営業活動のため、臨時かつ緊急に業務を行う必要がある場合には、労使の協議を経て一ヶ月に70時間、一年間を通じて720時間まで延長することができるものとする。ただしこの場合、限度時間を延長できる回数は年間6回までとする。」

またこの特別条項は36協定に記載されていればいいわけではありません。実際にとある部署が上限を超えそう、となった場合は事前にその旨を通知することが必要です。(紙でなくても可)
実務上は労働者代表に対して下記理由により、特別条項を発動すると言ったメール等を送信することにしています。(BESTなのは労働者代表と協議しその結果を議事録等で残しておくことなのは言うまでもありません。)

2.割増賃金の正しい計算

36協定を提出し、一週間で40時間以内かつ一日8時間以内を超えて残業をさせた場合、会社は所定労働時間を超えた分は一定の料率を乗じた割増賃金を支給しなければいけません。
所定労働時間は一週間で40時間以内かつ一日8時間以内を限度として会社が決めることができます。
つまり所定労働時間が7時間(例:始業10時、終業18時、休憩1時間)の会社の場合、1時間残業した場合は法令で定められている「一日8時間以内」の範囲内のため割増賃金の対象にはなりません。(就業規則で所定労働時間以上働いた分は割増賃金の対象となるのような記載があれば別)

また、最近は聞かないのですが、割増賃金を15分(or30分)以下は切り捨てで支給している会社がありますが、これは完全に違法です。
割増賃金は実績を1分単位で支払うか、切り上げるかで計算しなければいけません。
とここまで書いておいてですが、実は割増賃金を切り捨てても問題ない場合があります。それは
「時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれを一ヶ月単位で集計し、その合計値に端数が生じた場合、30分未満なら切り捨ては可能。」
です。
しかしながらこの場合、切り捨てのルールだけを導入することはできません。切り捨てルールを導入する際は切り上げルールも導入しなければいけません。
どのようなことかと言うと「一ヶ月の時間外労働が6時間20分、深夜労働が7時間42分」の場合

時間外労働を30分以下を切り捨てて6時間として計算する場合、深夜労働は切り上げて8時間として計算しなければいけない。

となります。昨今では勤怠管理システムで分単位でデータが取得できるので、このようなルールを導入しなくても分単位での割増賃金の計算が可能ですので、原理原則通り分単位での支給をオススメします。

残業以外では休日出勤があると思います。こちらも結構知られていないと思うのですが、運用によっては割増賃金を支払わないといけません。その運用とは一般的に「代休」「振替休日」の運用です。
代休とは「休日出勤をした後で代わりの休みを取ること」であり
振替休日とは「あらかじめ休日出勤することがわかっているため同じ週の別日の休みを取ること」です。
ややこしいのですが、代休は休日出勤している事実に変わりはないため、割増賃金を支払わなければなりません。
一方、振替休日は同じ週の別日に休日を指定することで割増賃金は発生しません。しかし振替休日が翌週となりその週の労働時間が40時間を超えると割増賃金の計算が必要です。

このような労務周りは運用がうまくいっていないと実は支払わないといけない割増賃金があったとかになりかねません。
割増賃金の請求の時効は2年です。(今後5年になりそうとも言われています。)
割増賃金の遡及請求も一時期のブームは去りましたが、一生懸命上場準備をしてさあ、上場申請通った!の後に元従業員から割増賃金の請求があり、その事実が主幹事にタレコミとして入るなんて悲劇があったりなかったりと言われていますので、正しい割増賃金の計算を行えるルール作りと体制を整えるようにしましょう。

ちなみに2019年1月現在の割増賃金の計算は以下になります。(一部中小企業は猶予期間あり)

8時間を超える時間外労働 25%以上
休日労働 35%以上
深夜労働 25%以上
時間外ありかつ深夜労働 50%以上
休日出勤かつ深夜労働 60%以上

深夜労働25%以上を強調しましたが、これもよく間違われるのですが、22時から翌日5時までの時間帯に労働させた場合、会社は8時間を超えていなくても深夜労働として25%以上の割増賃金を支払わないといけません。これも盲点だったりしますので、注意してください。

3.年棒制と割増賃金の関係

最近あるのかちょっと手元に情報がないので、なんとも言えないのですが、年俸制の場合、残業代を支払わなくてもいいと勘違いしている方が昔はよくいましたが、そんなことは全くありません。
管理監督者に該当する場合は、時間外労働時間に応じた割増賃金を支払わないといけません。
ただし以下の要件を満たした場合、年棒以外は支払う必要はありません。
①年俸に時間外労働等の割増賃金が含まれていることが雇用契約書上で明記されている。
②割増賃金相当部分と通常の労働時間に対応する賃金部分とに区別することができる。
③割増賃金相当部分が法定の割増賃金以上支払われている。
③の要件を満たすのが難しいと思われるので、大体厳密に確認すると違反していることが多いです。
個人的には月給制とほとんど同じ管理をしなければいけない(時間外労働の時間管理義務があります。)のにもかかわらず罠が仕組まれていたりするので年棒制はオススメしません。

4.管理監督者の取扱い

管理監督者も一時期世間を騒がせたこともあり、その取扱いには注意する必要があります。
管理監督者の定義は皆さんよくご存知かと思いますが「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な関係にある人」です。
よく言われているように管理監督者に該当するかどうか、というのは肩書や職位ではなく、その人の職務内容や責任や権限や勤務態様や待遇などの実態により判断します。
そのため部長や課長などの一般的な管理職の場合であっても、相応の権限や待遇がない場合には、労働基準法上の管理監督者としては認められません。
以下の内容について実態を見て判断されることが多いと思います。
①人事関連について十分な意思決定権を持っているか。(採用決定権、解雇権、人事評価決定権等)
②労働時間に関する十分な裁量があるか。
③賃金について一般社員より優遇された金額を支給されているか。(役職手当等の支給、時間単価等)
実態を見て「微妙・・・」な場合は管理監督者の各種条件等について見直しを行う必要があるかもしれません。少なくとも役職などで決まるものではありません。

5.裁量労働制の取扱い

裁量労働制も昨年世間を騒がせたこともあり、その取扱いには注意する必要があります。
よく勘違いされているのが、裁量労働制はすべての労働者に適用できるわけではなく、「業務の性質上その遂行の方法を労働者の裁量にゆだねる必要がある」と労働基準法上で定められている業務に限り適用することが認められています。
最近はないかもしれませんが、「プログラムの設計・作成」をするプログラマー(コーダー?)は裁量労働制の業務ではありません。
従業員のほとんどが裁量労働制という会社を稀に見ますが、実態を見るとそうではない、ということがあります。
実態を見て「微妙・・・」な場合は裁量労働制の各種条件等について見直しを行う必要があるかもしれません。
また実は裁量労働制に該当しないと言った場合、2年間訴求して割増賃金を支払わないといけなくなるかもしれません。(本人が言ってくるかは別としてそのような労務管理上の潜在リスクがあるかもしれません。)

さて、いかがだったでしょうか。
上場準備を進める上で労務管理は本当に過年度含めて徹底的に管理しなければいけないことの一つです。
こちらはあくまで経験則に基づいた内容になりますので、こっちの方が大事では、このような観点もあるのでは等のツッコミは大歓迎です。

上場準備に苦労する管理部門の方に少しでも有益になりそうな情報をこれからもアップしていきたいと思っています。
次回で終わりたい。。。もう少しお付き合いください。

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