見出し画像

「かわいい子」になれなかった「そうでない子」の話。

幼稚園から高校まで、例外なく、男は女を分類する。「かわいい子とそうでない子」に。「かわいい子とぶさいくな子」という分類ではない。「かわいい子」ではない子は全員、「そうでない子」だ。(姫野カオルコ『彼女は頭が悪いから』)

「そうでない子」の生きづらさを引きずっているのは私だけではないと気付いたのは、随分と大人になってからだった。一度気づくと、「そうでない子」だった女性にそこら中で出会うようになる。一見静かな人も、明るい人もいる。その場に存在することへの不安から出るぎこちなさ、私なんかどうせと線を引く行為、自分を積極的に貶めて笑いを取るあのノリ。妙に姿勢が良い人を見ると、同じだなぁと思って私も背筋を伸ばしたりする。

「そうでない子」の私は、そうでない子として振る舞うように要求されてきた。だから私は身の程をわきまえて、与えられた役割を全力で演じなければならない。学校は私の世界の全てで、そこで上手くやらなければ生きていけないと思っていた。時には空気になり、時には一人でぽつんと後ろを歩いたりする。私も男子とのカラオケに誘われたいなんておこがましい。ブサイクに告白されたら迷惑だから自分から告白なんてしない、アドレスも聞かない、話しかけない。与えられた役を演じようとしない子はみんなと一緒に悪口を言った。

人前で鏡をじっと見るのが苦手だった。鏡をずっと見ていいのは可愛い子だけだと思っていた。自分で自分のことを可愛いと思っている、誰かにそう思われることが何より怖かった。

今でも「そうでない子」として振舞っている人を見ると、そんなに自分を貶めたりしなくいいんですよ、あなたはもう十分美しいですよって優しく言いたくなることもあれば、普通にイラっとしてしまうこともある。自分の容姿や30代の女であることをネタにしているとき、あなたは他人の容姿や他の若くない女性たちについてどう思っているんですか、と聞いてみたくなってしまう。

中学生くらいの頃からぼんやり、早く30歳になりたいと思っていた。当時は自覚がなかったけれど、強制参加させられる見た目のレースから、とにかく早く降りたかったのだと思う。30歳にもなれば顔以外のところで勝負できるんじゃないか、そうすれば私は私の人生を生きられるんじゃないか。それは当たってもいたし、外れてもいた。顔だけじゃない、女として生きている限り逃げられないことは他にもあると、何度も分断されて気が付いた。

コンタクトにすれば「かわいい子」になれると思っていた。中学を卒業して、念願のコンタクトにして、でもなんというか、普通だった。特に誰からも可愛いとは言われなかった。

同じように、髪を染めたら、髪を巻いたら、エクステをつけたら、肌が白くなったら、メイクをしたら、つけまつ毛をしたら、ピアスを開けたら、ファッションを変えたら。何かを変えたら可愛くなれると思っていた。その度に小さく傷ついて、でも気付いてない振りをする。何かを変えれば可愛くなれる、「かわいい子」になれる可能性が私にもまだあると信じたかった。誰のための「かわいい子」か考えもしないくらい、それは私の中で絶対的な価値だった。

大人になって、海外に出て、「かわいい」だけでは測れない美しさがあると知った。色んな人の美しさを見つけられるようになって、それは自分に対しても、ゆっくりだけど同じだった。「私こっち向きで撮った方が可愛いからこっち向きにする」と素直に言えるくらいには、与えられてきた役割を放棄できた。「かわいい子」にはなれなかったけど、私は私なりに自分の顔を少し受け入れている。決して可愛いとは言えないような素の顔で写真に写っていても、落ち込まないくらいには受け入れられていると思う。

いつも自分に与えられた役を演じられているか不安で、他人からどう見えているのかばかり気にして、とにかく何もかもがぎこちなかった。そりゃそうだ、それは私じゃなかったのだ。

色んなことを手放して、今は遊びに行く時以外は大体すっぴんに眼鏡で、髪を染めるのも随分前にやめた。それでも新しい眼鏡を探しに行く度、これを掛けたら可愛くなれるという眼鏡がどこかにあるんじゃないかと思っている自分を見つけて、まだ諦めてなかったのと苦笑いしてしまう。一度染み付いたものは簡単には落とせない。

それでももうすぐ、30歳になる。一つだけ決めたことがあって、それは「かわいい子」も「そうでない子」も、女性が女性として生きていく上で抱える生きづらさが少しでも減るような、分断するのではなく繋げるような、そういう仕事をすること。それが分類されてきた、そうでない子の復讐だと思っている。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

note.user.nickname || note.user.urlname

美味しいものを食べる代として使わせていただきます🍴

56

Yuka Masuda

ごはんのことばかり考えているフロントエンドエンジニア in パリ。フェミニスト。

コメント4件

ゆかさんこんにちは。突然失礼します。
私は学校の教員なのですが、例えばこのエントリ
「かわいい子」になれなかった「そうでない子」の話。
など生徒にぜひ聞かせたい、読ませたい、というものがあるのですが、出典を明確にしたうえで生徒に紹介することは構わないでしょうか。お考えをお聞かせいただければと思います。
こんにちは、もちろん大丈夫です!
ありがとうございます!
なんとも切ない。僕なんかブサイクだけど、自分の顔が好きです。小さい頃から、ずっと。目も一重で細くて。でもそうじゃなきゃ、自分じゃないような気がして。逆にまん丸で二重だったら気持ち悪いかも。世界に一つしかない顔。好きです。気にしなくていいと思う。慰めるつもりもなにもありません。なんだか胸が痛くて。勝手に書いちゃいました。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。