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即興小説#1

テーマ:誰かとドロドロ
ワード条件:暗黒の瞳
時間:1時間

《白と、黒の恋人たち》

【2018,12,24,16:44】
足元に、死体が転がっている。

何故だろう。
私はワクワクしてしまう。
仰向けになった「それ」は、一向に微動だにしない。

「ねぇ」

私は、話しかける。
既に聞こえてはいないであろう屍に。

「✕✕✕✕…」

日が翳り始めた黄昏時。
場違いな格好の私。
黒づくめの私。

話しかけても返事は来ない。
ただ、そこにあるだけだ。

私は、夕日に背を向けて歩き出す。
過去の自分と決別するために。

【2018,12,24,11:57】
彼とは12時丁度に約束をしていた。
今年のクリスマスは三連休で、恋人たちは楽しい思い出と共にデートをする。
私、槙野洋子もその1人だった。
付き合ってもうすぐ半年。
今年7月の初めに付き合い始めた彼は、バイト先の後輩だった。

足元に転がる小石を見つめる。
待ち合わせ時間までもう少し。

顔を上げ、あたりを見渡す。
渋谷駅。ハチ公前。
待ち合わせの人でいっぱいだ。
これだけ人がいるのに、どうしておしくらまんじゅう効果は得られないのだろう。

今日とて、外はべらぼうに寒い。
カサカサとなる両手を擦りながら、彼を待つ。

彼はきっと、時間ぴったりに来るだろう。
彼はいつもそうだ。
遅れることは無いから言及したことはないが、ちょっと複雑な気分でもある。

彼女が待ってるんだから、少しは早く来いよ。
そんな軽口は押し殺しておく。

これから楽しい時間が始まるのに、初っ端から壊す訳には行かないのだ。
デートの時は毎回、この自問自答を繰り返している気がする。

自分勝手なのだろうか。

女なら、誰しもそうだと思うのだが。

さて、そろそろ約束の時間だ。

彼が、来た。

あれ?
隣の女、だれ?


【2018,12,24,11:50】
「ねぇ、いいじゃん!あそぼーよー」
直人が困惑している。
そんな顔もかわいい!

「前から言ってただろ?今日はバイトの先輩達と遊びに行くって」

聞いてた。
でもおかしくない?
今日イブだよ??

「今日が1番楽しい日じゃん!夜は楽しませてあげるからさー」

直人はこれに弱い。
さあ、来い。

「…。ここまで来ちゃったから、とりあえず行かないと」

そんな!

「…まあ、聞いてみるよ。何人今日来るか知らないし、来る人少なかったら断ってもいい」

そう来なくっちゃ!

「ちょっと遠目から待ち合わせ場所見てみるか…」


【2018,12,24,12:03】
スマホのバイブが鳴る。

一瞬、彼が見えた気がするのだがすぐ引っ込んでしまった。
隣に女の人がいた気がするのだが。

人違いなのか。
いや、でも…。

とりあえず、電話に出なければ。
彼から、だろうか。

スマホの画面を見る。
彼からだ。

触れるように、通話ボタンを押す。

「…はい」

「すみません!時間すぎてしまってますよね?先輩」

「うん、12:06だね」

「ちょっと家族の方でトラブルがあって、今から実家に戻らなくちゃならないんです…。本当に申し訳ないんですが」


「今日、来れないの?」

「はい、本当にすみません!」

「うん、分かった」

「すみません、もう切ります!✕✕✕✕。」

「まって、最後なんてい…」

通話が切れた。
一方的過ぎやしないだろうか。

この喧騒の街の中で30分も待った私は、これからどうすればいいのか。
時計を見る。
渋谷には大きな表示時計がビルにある。
高見から見下ろすそれは、12:09を指していた。


【2018,12,24,16:44】
家に帰って、深呼吸をする。
家内も、冷たい空気が漂っていた。

ズルズルと、足を引き釣りながらリビングへ向かう。
しんどかった。

手間取ってしまった。
私としたことが。


※※※※
待ち合わせ場所から少し離れたラブホ街。
そこに彼と女はいた。

私は後ろからそっと近づく。
裏道に入ったところで、チャンスだと思った。

彼に、声をかける。
驚いた顔をした彼。
そんな彼もかわいい。

「先輩、なんで…」

なんでって。
決まってる。

「あなたと、隣の女を守るためよ」

人が数人通れるくらいの路地。
昼間でも薄暗い。

彼らの後ろから、ヤク中の大男が千鳥足で歩いてくる。
手には包丁を持って。

「ひっ!」

2人が気づく数秒前。
私は、手に持ったサバイバルナイフを握りしめる。

一気にに彼らの前に出て、男を切りつける。
男の体から、鮮血が吹き出す。
かなりグロい。
そんなことを気にしてる場合ではないのだ。

「早く逃げて!直人!」
「でも、先輩!」
「早く行け!私はここでやらなくちゃならない!」

直人は逃げた。
そう、それでいい。

一瞬、直人を見て男に向き直す。
よそ見をしていたのが悪かった。
相手が目の前に迫ってきていた。

身構えた私の身体は、男は蹴りで宙を浮く。
次の瞬間には、アスファルトの湿った匂いを感じた。

「ごほっ…」

痛い。
あぁ、骨1本はいったなこれは。

ゆっくりと立ち上がる。
男が殴りかかろうとする。
その拳にナイフを突き刺す。

悲鳴ともわからない声が響いた。

男が悶絶している。
もういい。
逃げよう。

そう思って後ろを向いた途端、彼女がいた。

「…何しているの?死ぬわよ」

彼女は怯えている。男に。そして…。

「私が怖い?」

こくん、と彼女が頷く。
それはそうだろう。
こんな黒づくめな女、怖いに決まってる。

「早く逃げた方がいいわよ。あいつから。そして、私からもね」

私は駆け出した。
もう、やり残したことは無い。

後ろを振り返る。
当然、彼女も逃げていると思った。

ここは渋谷の繁華街で、逃げる場所は沢山あるのだ。
私についてきていなくたって、どこかには逃げただろうと。

だが、彼女はそこにいた。
悲鳴をあげることもなく。

男に滅多刺しにされ、ぐたりと横たわっていた。
男は満足したのか、大通りに出て雄叫びをあげた。

この声に反応した何人もの人が、彼を見て悲鳴をあげ、逃げだした。

喧騒が、ちがう騒がしさに変わる。
私はその合間を縫って、倒れた彼女を背負ってタクシーに乗り込んだ。

元々手配してあったものだ。
運転手は私と、血だらけの彼女を見てぎょっとしたが札束を見せると何も言わず走り出した。


※※※※
足元に、死体が転がっている。

何故だろう。
私はワクワクしてしまう。
仰向けになった「洋子」は、一向に微動だにしない。

「ねぇ」

私は、話しかける。
既に聞こえてはいないであろう屍に。

「私はやっぱり怖い?…」

日が翳り始めた黄昏時。
場違いな格好の私。
黒づくめの私。

話しかけても返事は来ない。
ただ、そこに私がいるだけだ。

悪魔に魂を売った私と、過去の私。
彼を助けようとした私と、彼とデートを楽しもうとしてた私。
どっちが本物なんだろう。

私は、私が怖いと言った。

ふと、近くにある化粧台の鏡を覗く。

そこには、黒く、深い、暗黒の瞳が映っていた。

fin

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