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PPP的関心2023#11【ヒトモノカネの流れを生む、動態保存的ストック活用】

最近秋田県で一緒に仕事をしているデザイン会社・シービジョンの登録有形文化財を使って地域活性化に貢献する仕事を日経の記事で目にしたタイミングで、別記事でも偶然に登録有形文化財を使った飲食店開業のニュースを目にしました。ということで、今回のPPP的関心は、優良な不動産ストックに新しい利活用方法を挿入することでストックの維持と周辺のヒトモノカネの循環に好影響を与えることについて。

*写真は文化財繋がりで思い出した…2022年に訪れたニッカウヰスキー余市蒸溜所で筆者が撮影した風景。

まちづくりの成果は、不動産を使いこしなしエリア価値を向上させること。

以前のPPP的関心【公的不動産も不動産。生み出す収益・効用を最大化する使い方を考える】でも書いたように

不動産でお金(カネ)を生むことは、すなわち活動(コト・モノ)と人(ヒト)をその場に与えること
公共(公的な)不動産でお金を稼ぐ(もちろん、不当に或いは提供価値以上に対価を得るという意味でなく、適正にな対価を稼ぐという意味です)ことには、ルール制約があること以上に、そもそも積極的に取り組むことを躊躇する考え方が優先される場合が多いのではないかと思います。
しかし、不動産が活用されていることは、場(地域)にヒト・モノ・カネの新たな流れを創造することです。つまり、お金という経済的価値の創造だけではなく、その場所の活力、地域の魅力を発掘、引き出し、創造することでもあると思います。
以前のPPP的関心 の記事より抜粋

という考え方に立つと、登録有形文化財であっても生態的に保存をするのか動体的に利活用をしながら保存をするのかによって建物自体の維持保全効果や地域への波及効果は違ってくる。
ちなみに、今回目についた記事の対象の建物はいずれも国の登録有形文化財ということですが、その利活用について文化庁は「重要文化財(建造物)の活用について(通知)」を出しています。

最近は所有者等や地域住民,地方公共団体などにおいて,文化財に対する関心が高まるとともに,それを積極的に活用したいという希望や意欲が高まっている。特に,現代社会の中で機能し続けているものが多い近代の建造物や,居住等に用いられている民家等の文化財では,継続的な使用を可能とし活用していくことが文化財としての保存の前提となる。また,保存のため公有化される文化財建造物も増えているが,公共の施設として活用されることが期待される。このように,文化財(建造物)が価値あるものとして後世に伝えるべきものであることについて理解を広げ,深めるためには,文化財(建造物)の保存とともに活用を適切に進めることが大切である。
 一方,文化財の保存に対する配慮を欠いた利用は,結果として文化財の価値を損なうおそれもある。言うまでもなく,文化財建造物は,一度失われてしまえば取り戻すことのできない固有の価値を持っている。とりわけ,重要文化財である建造物は,数多くの歴史的な建造物の中でも典型的な存在であり,活用に当たっては文化財としての価値を損なうことのないよう特別に配慮する必要がある。したがって,重要文化財の活用に当たっては適切な基準ないし考え方が示されることが必要である。
「重要文化財(建造物)の活用について(通知)」文化庁 より抜粋

公共施設(公的不動産)としての使いこなし

文化庁通知にも示されているように、保存のために公有化される有形文化財もあります。以下のリンクで見た小田原市の例もその一つです。

神奈川県小田原市が所有する国登録有形文化財「豊島邸」で2023年2月23日、民間提案制度による飲食店が開業した。箱根・小田原地域で複数の飲食店を展開するJSフードシステム(小田原市)が、うなぎ料理専門店「豊島鰻寮 一月庵」を運営する。
新・公民連携最前線 記事より

小田原市の所有となっている建物の利活用と保存について、民間提案制度を使って10組以上の提案を受け取り、その中から上記の提案が採択されたそうです。

先ほどの記事にあった飲食店としての使い方に注目が集まりそうですが、それ以外にも建物の一部をギャラリーとして地域の文化活動の拠点としたり、主屋の使い方として地域住民の集会所としても使うことで地域コミュニティの形成にも貢献する案が評価されたのではないか?と考えられます。

建物を動態的に保存するか、静態的に保存するか

小田原の事例は、もともと小田原の資産家であった方の個人住宅であり建物の機能・目的は個人(家族)の安全や安心のための空間だと考えるとある意味で閉じた空間であったものを、新たな使い方として地域や市民に開かれた空間として食と文化の交流拠点化するという、同じ空間を全く違った使われ方に変えてゆくものです。

建物が建てられる際に与えられる機能・目的は当初の機能・目的が求められる間はもちろん変わることはないと思いますが、小田原の例で言えば個人(家族)のあり様や関係、財産としての期待が変わったと思われ、つまりは建築時に期待された機能や目的は終わったということです。もちろん、これは良い悪いの話ではなく、時の流れとともに当たり前に生じることだということです。時代が移れば生活者の価値観、嗜好、風俗は変わるわけで、肝心なことは当初に期待した機能や目的に過剰な固執をすることではないと思います。
当初の役割や期待機能・目的に固執せず、「建物は使われてこそのもの」だとすれば、期待機能や目的の変更を臨機応変にしながら「使い続ける」ことこそが最良の保全だという、(例えとしては上手くない様な気もしますが…)動態的保存という考え方がもっと広がると良いなと思った次第です。


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