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PPP的関心【続・PFS(成果連動型民間委託)について・その2。結果が出始めたPFS】

以前にも何度か書いたPFS(成果連動型民間委託)について、改めて「結果が出始めたPFS、SIB」という記事(古い記事(2020年12月9日付)ですが)を読んでみましました。以前も書いたように

  1. PFS制度活用において大切なことは、「小さいけど将来に有益」な課題の「因果を明確に捉え」て解決策の設計ができるか

  2. PFSを活用した公共(公的)サービスは「予算措置の有無=やったか、やらないか」から「成果指標の明示と結果=できたか、できないか」というように公共(公的)サービスの評価基準を変える

  3. マイクロエリア(地区)単位の小さな課題への予算配分が優先順位的に劣後しがちであった従来型の予算の割り付けで対象にしにくかった地域課題の解決に対する策としても有効

と考えていますが、これまでに「実施された取り組み結果に対する評価」はどうだったのでしょうか。今回は、改めて記事の紹介と記事を読んで考えたことについて書いてみます。

記事。「結果が出始めたPFS,SIB(2020.12.9)」

以下、記事の紹介と結果に対する評価についての内容を紹介します。

浦添市、行動経済学(ナッジ)活用で大腸がん検診受診者40%増

■沖縄県浦添市は、2019年8月から20年1月にかけて、厚生労働省のPFS(Pay for Success:成果連動型民間委託契約方式)のモデル事業として実施した大腸がん検診受診勧奨事業で、受診者数前年度比40%増の成果を挙げたと発表
■厚生労働省の「令和元年度保健福祉分野における民間活力を活用した社会的事業の開発・普及のための環境整備事業」を受託して実施
■人口約11万4000人の浦添市民のうち、40歳以上75歳未満の国民健康保険加入者(約1万7000人)を対象に、大腸がん検診の受診勧奨を行った。
■事業の結果、浦添市の大腸がん検診受診者数は、2018年度の2632人から2019年度の3661人と、前年度から1029人(約40%)増加した。PFS事業の成果指標とした17年度比500人増の目標を超え、満額の950万円(最低支払い額450万円、成果連動分500万円)が支払われている。
■勧奨を行った人の受診率は30.2%で、携帯番号未登録などで勧奨が行われなかった人の受診率14.7%の約2倍となった。また、「過去6年間受診歴なし」の未受診者で比較すると、受診率は約6.5倍に増加したことが分かった。

新・公民連携最前線(日経BP)より

八王子市の大腸がん検診受診率向上SIB、3目標のうち2つを達成

■八王子市は、2017年度から19年度に実施したSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)事業「大腸がん検診受診・精密検査受診率向上事業」の最終報告書を公表
■事業は、大腸がん検診の受診勧奨と、精密検査の受診勧奨の2段階で実施
■まず17年度に、前年度の大腸がん検診未受診者から1万2162人を選定、過去の問診結果に基づいたオーダーメイドの受診勧奨を送付。さらに、検診で精密検査が必要と判定された全員(3119人)のうち、受診が確認できない人に対して、おのおのの検査結果を示して大腸がんリスクを訴える受診勧奨を送付
■17年度の大腸がん検診については18年度に成果を測定。目標上限の19%を上回る26.8%を達成し、上限額の244万1000円が支払われた
■精密検査については19年度に成果を測定。こちらは目標下限の79%を超える82.1%(目標上限値87.0%)で、達成度に応じた296万円(上限額488万円)が支払われた
■3つ目の成果指標として早期がんの追加発見者数(1人以上)を設定したが、これは目標に達しなかった。
以上の合計で、市の予算上限額976万2000円に対し、実際の支払いは540万1000円

新・公民連携最前線(日経BP)より

■成果指標の設定については課題も指摘
→大腸がん検診の成果指標には勧奨を行った人の受診率を用いたことについては、本来の目的に照らせば前年未受診者全員の受診率を用いる必要がある
→早期がんの発見者数は年度ごとの変動が大きく、成果指標には適さない
■SIB事業の在り方などについても、事業者の資金力で対応できる程度の事業規模であれば、SIBによる資金調達は不要
■さらに、今回のように医療費削減効果が明らかな事業は、民間の資金を募るSIBではなく、広域行政(国や都)がPFS(Pay For Success:成果連動型民間委託契約方式)事業として実施することを要望

新・公民連携最前線(日経BP)より

結果とその評価について考える

ピックアップした事例では、浦添市の例では設定した指標はクリアしたことで上限支払い額を民間が受け取っていますが、八王子市の例では、そもそもの設定に基準や指標そのものに対する懸念が示されています。

この差には、冒頭にも示した「因果の明確な捕捉」における不足があったのではという懸念や、(事実は不明ですが)制度理解の差もあったのではないかという心配を持ってしまいます。
書かれている通り、早期発見は診断の「結果」であって、その結果が生じる過程にある健診受診率との因果(あるいは相関)の有無を捉えていれば指標の対象として馴染みにくいことは想像可能です。

あるいは、浦添市の事例でも、17,000名を対象として2000名以上の受診実績がある取り組みで、500名という目標設定は妥当であるか?という基準の合意は議論が分かれそうな点です。
この点については、今回の取り組みがモデル事業ということなので、得られた知見(勧奨を行った人の受診率と勧奨が行われなかった人の受診率は約2倍の差が生じるといった「事実」)を生かし、今後は他の類似事業についても「合理的な」設計がされていくきっかけにすることが重要だと思います。

いずれにしても「因果を明確に捉えて解決策の設計ができるか」というPFS(SIBを含む)の基本的な考え方が取り込まれているか否かで、結果の評価が変わるということが確認されました。

最近の内閣府のPFS事業事例集

上記記事は過去の事例でしたが、内閣府による「PFS事例集」も公開されていて(内閣府で把握したPFS事業事例の一部だそうです)、記事の事例以降の施策(最新と思われるものは事業開始年度が令和元年のよう)も見つけることができます。

令和元年を事業開始とする取り組みも、期間が数ヶ月のものもあれば複数年にわたるものもあります。
数ヶ月のものであればすでに事業は終了しているはずですので、上記の記事のような結果に関する公表がいずれされると思います。

結果の公表については、引き続きみていきたいと思います。

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