見出し画像

PPP的関心2023#20【かみのやまランドバンクに学ぶ。地方・小規模都市の空き家対策】

先日「NPO法人かみのやまランドバンク」を訪問しました。ランドバンクについて改めて学びたいと考え、たまたま知人のネットワークで見つけた鏡氏にお願いして現地をご案内いただきました。
単なる情報収集・発信や土地整理や建物改修という不動産業的な取り組みにとどまらず、むしろ「不動産業+まちづくり会社」という領域で活動が行われていました。今回の記事は視察記録(要約的メモ)として。

写真は映画館跡地の広場活用(候補)地と特区で実現した街中ワイナリー。当日は休日で中まで拝見できず残念でしたが、かみのやまの強力コンテンツである地元葡萄のワインをアピールし周辺に波及効果をもたらす質素な建物ながら重要な拠点です。

「ランドバンク」とは

ランドバンクとは、「ランドバンキングと呼ばれる方法で土地開発をおこなう団体や企業」を指すそうで、低利用・未利用状態の不動産(空き家や空き地)をその周辺不動産も含めて大規模に買い取り地域一帯をまとめて活用・再生する手段を実行する団体ということです。1970年代のアメリカで導入、発展してきたもので、当初は多くを行政がその主体を担っていたそうです。

参考
・「米国におけるランドバンク及びコミュニティ・ランド・トラストの活用による都市住宅市場の再生手法の研究
・「米国のランドバンクの動向について
・「コンパクトシティ実現手段としての日米ランドバンクに関する考察
・「アメリカのランドバンクの財政と土地寄付受け入れ
など多く先行研究や調査報告から学ぶことができます。
一応これも…
ランドバンキング-ウィキペディア(Wikipedia)

かみのやまランドバンクの成り立ちと取り組みの特徴

かみのやまランドバンクは令和元年6月、民間が(地元の不動産会社経営者が理事長として)発起人となり、そこに行政も協力して設立されました。その活動目的は「エリアを定めて、集中的に処分や活用しにくい空き家の解体や空き地の整備を進め、官民一体で再編整備し、土地の価値を高めて子育て世代の定住促進・交流人口の増加などを目指し…」とあり、そのため「法律や相続問題などの専門的な知見が必要なことから…専門家が集まり、各分野の課題解決を図りながらアイデアを出し合い、地域の魅力を高め、空き家問題が深刻化する前にスピード感を持って対応していく…」体制で運営されています。

現地でお話を伺いながら実際に街中を拝見する中で理解できたこと、印象に残ったことは” 不動産業的取り組み「プラス」"の意図を持つ大切さです。
「プラス」とは何か
副理事長の鏡氏(上山市役所)曰く「ランドバンクは行政的には拡大のためではなく使い直しのための再開発事業を担う土地開発公社ですが、それだけでは不動産は開かず(利活用は進まず)、使い手を支援するようなまちづくり会社としての動きが必須です。だから、かみのやまランドバンクは” 土地開発公社+まちづくり会社 ”といったNPOなんです。」という言葉に現れています。

鏡氏はこのようなこともおっしゃっていました。
「ランドバンクといえば”小規模連鎖型区画再編事業”のイメージをまず思い浮かべる場合が多いと思いますが、実現への道のりは遠いし思った通りには行かないことが多い。例えば、不動産所有者の決断タイミングが相続であったりする場合は時期を意図的に揃えることは不可能だし、また区画整理して評価上の価値を再興させても地域需要を掘り起こせないあるいは域外からの需要を取り込めないようなローカル・スモール市場では、土地区画整理事業的なことだけに注力しても現状を変えるのに時間がかかる。」
「だからランドバンクの本質は” 地域の可能性 "を見出すことから始め、その手段として不動産業的な整理をすることだと思います。」

かみのやまランドバンクの取り組み成果

本来であれば視察で見聞したことを自分の言葉で書くのが良さそうですが、よくまとまった報告書がすでにありますので、(おおいなる)手抜きですがその報告書の紹介で「現場の紹介」は代替させていただきます。
NPOの不動産業的取り組み「プラス」の実践によって変化が顕在化し始めている事例については「かみのやまプロジェクト」と称して地域やNPOと連携している明海大学 不動産学部(千葉県 浦安市)の小杉先生(先生はNPOの副理事長でもあります)の研究室から報告書が出されています。
かみのやまランドバンクエリアの取り組み 2018-2022(2022,9)」では実際に再利用された空き家空き地事例だけでなく、上山市による制度やまちづくりファンドなど取り組みを支える仕組みについても紹介されています。

ローカル・スモール都市の現実?を踏まえた体制

今回の視察でも聞きましたが、空き家や空き地をどうにかしたいという相談やこの場所で何かしたいという相談まで、多くの場合「市役所(役場)」に来るのが実情なのだそうです。これが人口3万人をすでに割り、20年後には2万人程度になるとも予測されている上山市の実情です。言い換えれば、地元不動産会社には直接の相談はほぼ来ないということです。

都市部であればまず不動産会社や空き家に関連するサービスを提供している事業者宛に相談が入るという流れもありえるのでしょうが、この点で(現実を踏まえた役割分担として)官民連携による組織の成り立ちが必要だったしよかったのだと思います。
行政が主体者の一部として関わることで、処置に困る側も使いたい側も情報窓口が役所だからという信用によって話もテーブルに乗りやすくも得やすいことに加え、役所の中でも補助金政策の策定や利用の許認可をはじめ庁内の合意形成を進めやすくなるというメリットもあるそうです。

ローカルスモール型ランドバンクの可能性

書きすぎると「ネタバレ」的になってしまいますので程々にしますが(笑)不動産の流動性という点では確かに課題が顕在化しているわけですが、地域の不動産の「上」でどのような「事業」を展開するか?についての可能性が埋もれた状態になっていることも課題だと思います。
その意味で、かみのやまランドバンクの不動産業「プラス」がもたらす地域への関心力、発掘力には大きな可能性を感じました。

冒頭の街中ワイナリーもそうですが、駅前の観光案内所にもワインカーブという地元のワインを紹介してくれるお店が1ヶ月ほど前にできたそうです。ここでお店の方が紹介してくれた地元のワインを語るストーリーが気に入り即座に買い求めましたが、この地のワインは強力コンテンツです。 

この強力コンテンツを、例えば移住体験(ワーケーション推進)などの施策と絡め(就労体験にワイナリーを組み込むとか)ながら、かみのやまワインの認知と体験(味わう)を地道に広めるプログラムを作ろうとしたり、また高原ゆ(高地トレーニングやスポーツ団体のリカバリー認定施設にもなっているそうです)というこれまた強力なコンテンツを活かしたクアオルト構想【クア/ Kur / 治療・療養、保養のための滞在)とオルト/ Ort / 場所・地域】といった特徴的な資産を使って地域ブランディングを進める構想など、まさに地域資産への関心力、発掘力、活用構想力があるからこそ可能性が膨らむのだなと実感しました。

人が来なくなった(いなくなった)ということは魅力がなくなったことだと謙虚に認識することからだと鏡氏は言います。
例えば、上山市に公営競馬があったころは外から人が来たし競馬関係者もこの地に泊まる理由もあった。しかしそれはもうないのです。
昭和天皇が初めて民間の施設にお泊まりになったその旅館も建物は現存し特に昭和天皇が宿泊された部屋は文化財にもなっているそうですが、残念ながら今は廃業したままでまだ(次の利活用に)開かれていません。

大事なことはこうした現実をきちんと受け止め、改めて何が残っているのかを発掘することです。行政主導でただ「空き家をひっぺがす」ようなことをしても「その後」の使い方も想像できないままでは「次への」合意もしようもないとこの視察でよくわかりました。
そのような状況で、当地では例えば新しく入ってきた飲食事業者と観光業者が連携、集う機会を通じ、新しい「連携」を模索しているなど「その後」の使い方の想像に向けた、広い意味での官民連携も始まっているそうです。

良いご縁をいただきましたし、今後もかみのやまランドバンクの動きに注目していきたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?