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北方領土のヘリコプター輸送

今回はヘリコプターの話ですが、まずはこれまでの記事で取り上げてきた、北方領土の飛行場をまとめましょう。(写真は北海道警察の AW139ヘリコプター、2021年10月、やぶ悟空撮影)

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▲ 北方領土の飛行場(AOPA Russiaのマップに加筆)

2021年時点で北方領土で使われている飛行場はこの3つです。民間航空の旅客機が発着するのは、択捉島えとろふとう国後島くなしりとうにそれぞれ1空港、ヤースヌイ空港メンデレーエフ空港です。択捉島には軍専用のブレヴェスニク飛行場もありますが、ヤースヌイ空港が軍民共用とされ、スホーイSu-35S戦闘機が3機配備されています。

そのほかの島々

色丹島しこたんとう歯舞群島はぼまいぐんとうには、飛行機が発着できる飛行場はありません。

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▲ 色丹島と歯舞群島のヘリポート(AOPA Russiaのマップに加筆)

ただし、ヘリポートは用意されています。AOPA Russiaの情報では、3,000人以上が住む色丹島しこたんとうに2か所、歯舞群島はぼまいぐんとうの島々には計5か所あるようです。歯舞群島には国境警備隊員以外の住民はいないそうですから、軍の人員や物資の輸送用なのでしょう。

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▲ 色丹島のヘリポート(AOPA Russia のマップに加筆)

色丹島には、Mi-8ヘリコプターによる定期路線があるそうです。色丹島と国後島を結ぶ路線は週に2回(土曜と日曜)、色丹島の穴澗あなまから国後島のメンデレーエフ空港へ、そして折り返し色丹島へ戻るスケジュールとのこと(SKR.SU 2021/9/30)。

また2019年春には、択捉島~色丹島という路線が、加えて国後島~択捉島の路線も同時に開設され、色丹島、国後島および択捉島の3島がヘリコプター路線で結ばれたそうです。最大20人が搭乗可能なMi-8 MTV-1ヘリコプターが使用されているとのこと。(citysakh.ru 2019/3/1)

色丹島民にとって、船以外の貴重な交通手段ですね。冬期間も通年運航しているのでしょうか?

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▲ 色丹島の Krabozavodskoyeヘリポート(Googleマップ)

色丹島の穴澗あなま(ロシア名:クラボザボツコエ)にあるヘリポートは新たに整備されたようで、旧ヘリパッドがすぐ北側に見えています。少し広くなりましたね。離着陸の方位は、道路に沿った0422です(AOPA Russia)。

今年10月16日、ロシアのフスヌリン副首相が ここ色丹島を訪れました。15日から17日までの3日間にわたり、グリゴレンコ副首相とともに択捉島を訪れており、その滞在中のことです。日帰りじゃなかったんですね。サハリン州知事らを伴ってヘリコプターで色丹島の穴澗に渡り、3時間ほど滞在したと報道されていました。穴澗にあるこのヘリポートを使ったのでしょう。


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▲ 歯舞群島の志発島にあるヘリポート(Googleマップ)

こちらは歯舞群島はぼまいぐんとうです。Googleマップにヘリコプターが写っているヘリポートを見つけました。Mi-8ヘリコプターのようです。島々の中で面積がいちばん広い島、志発島しぼつとうの西浦泊で、国境警備隊がここに常駐しているようです。地理院地図を見ると、平坦な島ですが南の海岸線がやや高めで、いちばん高いところでも標高28メートルしかありません。

ドクヘリ、領空侵犯

昨年、2020年10月2日のことですが、Mi-8ヘリコプター1機が知床岬の沖合を領空侵犯しました。航空自衛隊は戦闘機を緊急発進させて警告を行ったと発表しています。その写真を見ると、ヘリコプターの登録記号は「RA-24139」、Mi-8 AMT Hip でした。黄色の機体に赤のラインがあり、赤の十字が描かれています。ロシアで緊急医療輸送を行うドクターヘリでした。

北方領土も含まれるサハリン州のドクターヘリは忙しく、2021年の出動回数は272回にのぼる(2021/10/22記事)とのこと。計算上は毎日1回平均ですが、悪天候で飛べない日などを考慮すると出動が複数回になる日が多いはずです。担当エリアの広さも大変ですね。

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▲ 北方領土からサハリンへの緊急輸送(ロシアのAIPの図に加筆)

そんなドクターヘリが北方領土からサハリンへ患者を輸送する際には、できるだけ最短距離で飛行しようとするはずです。択捉島や色丹島からの出発なら真っすぐユジノサハリンスクに向かうことができますが、国後島のメンデレーエフ空港だとそうはいきません。日本の領空を避けるため、しばらくは北北東に針路をとる必要があります。意図せずか意図的にかは分かりませんが、Mi-8ヘリコプターの領空侵犯はおそらくその辺りで発生したんじゃないでしょうか。許されることではないけれど、ショートカットしたくなるパイロットの気持ちは理解できる気がします。

Mi-8、売ります

ついでにもう一つ、ミル・ヘリコプターの話題を。2021年10月、サハリン州政府は所有しているMi-8ヘリコプターのうち1機を売りに出しました。2015年製造のRA-22336Mi-8 MTV-1 だそうで、ずいぶん新しい機体ですね。日本円で6億5千万円ほど。しかし、残念ながら入札に参加する企業はなかったようです。(SAKHALIN.INFO 2021/10/26、2021/11/3)

使用頻度がそう多くないのなら、売却したほうがよいでしょうね。かなり前のことですが、節税対策にと使いもしない高価なヘリコプターを導入する日本企業が相次いだバブルの時代がありました。本当に必要としているところがあるのに、活用されないまま留め置かれる道具はかわいそう。そんなことを、ふと思い出してしまいました。


※ 記事の内容は作成当時のものです。


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