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コード「7600」

「無線機故障、ライトガンで着陸許可」というニュースをラジオが伝えていました。へ~ぇ 珍しいな、点検以外でライトガン使うなんて。4月18日夕方のことです。

その機体はエアバスA350-900の JA02XJ、場所は新千歳空港とのこと。(冒頭写真は2024年2月に撮影した当該機)


▲ 16時55分、FL150(flightradar24 の図に加筆)

当該機は日本航空521便、羽田発の新千歳行。この飛行航跡は午後5時少し前、まもなく千歳進入管制区に入るところです。フライトレベル(FL)150で降下を止め、レベルオフしたところ。

いつから無線が使えなくなったのか分かりませんが、札幌航空交通管制部(札幌ACC)から千歳アプローチへのハンドオフは支障なかったのでしょうか?


▲ 17時06分、コード7600(flightradar24)

ビーコンコード「7600」が出されました。これは special purpose code の一つで “COMMUNICATIONS FAILURE” と定められており、“Radio Failure” とも言われます。航空機に無線通信の障害が起きたときパイロットが機上のトランスポンダにこの数字をセットすると、管制官のレーダー画面上に表示が出て 無線が使えない状態であることを知らせます。

ちなみに、「7500」は “UNLAWFUL INTERFERENCE”(ハイジャックなど非合法な妨害活動)、「7700」は “EMERGENCY”(緊急事態)を意味します。


▲ 17時10分、降下開始(flightradar24 の図に加筆)

FL150で千歳VOR/DMEに向かって北上しました。札幌ACCから、descend and maintain FL150 の指示を受けていたのでしょう。Contact CHITOSE APPROACH の受信まで、できていたのかもしれません。

無線が使えない状態になると、管制塔を目視して指向信号灯(ライトガン)の光を確認する必要があります。

管制塔には、「航空機と無線通信ができない場合に、航空機等に向けて照射し、必要な信号を送ることで指示を伝える(航空局資料)」ためのライトガンが常備されています。「赤、緑、白の3色の投光により信号を発する灯火であり、(同)」不動光(steady)、閃光(flashing)、交互閃光などを使い分けて異なる指示を出すことができます。不動光は5秒間以上点滅しない光、閃光は約1秒間隔で点滅する光、そして交互閃光は異なる色を交互に点滅させる光のことです。

このとき管制塔から送った光の信号は、おそらく「緑色の閃光(FLASHING GREEN)」だったのだろうと思います。その意味は、「飛行場に帰り着陸せよ、Return for landing (to be followed by steady green) 」です。

FL150で飛行していたこのとき、管制塔にどれくらい近付くと光の信号を見分けられたのでしょう? 航空法施行規則では、ライトガンの光度は6000カンデラ以上であることとされています。数値ではピンときませんが、明るくシャープ(1°~3°)に絞り込まれた光。2人のパイロットそれぞれが点滅する緑の光を確認した上で、降下を開始したはずです。


▲ 17時32分、滑走路へ進入(flightradar24 の図に加筆)

千歳VOR/DME(CHE)の上空で、旋回しながら高度を下げました。管制塔が見える向きのときに、ライトガンによる指示を確認していたのでしょう。

次に出された光による指示は、「緑色の不動光(STEADY GREEN)」だったはず。「着陸支障なし(Cleared to land)」という意味です。このころ周辺の到着機は太平洋上で待機させられ、離陸機はすべて止められていました。


▲ 17時32分ごろ、滑走路へ進入(flightradar24 の図に加筆)

着陸滑走路は01R。最終進入は滑走路の延長線ではなく、図のように少しひねり込んでいました。千歳VOR/DME上空からの着陸です。


▲ 新千歳空港に着陸したA350、JA06XJ(2022年3月撮影)

この写真は当該機ではありませんが、無事着陸できてひと安心。


▲ 17時38分、後続機たち(flightradar24 の図を編集して加筆)

JAL521便が無事に着陸すると、洋上で待機していた到着便4機が進入を始めました。わずかな遅れで済んだようなのは幸いでした。

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その後の報道によれば、当該機の「通話ボタンが内部で押されたままの状態になっていた」(Aviation Wire, 2024年4月19日)ことが Radio Failure の原因だったようです。PTT (Push-To-Talk) スイッチが押されたままになると連続送信状態になり、受信ができなくなります。また、周辺の航空機もその周波数の電波が使えなくなるので、他の周波数に切り替えるなどしたのかもしれません。

3台以上搭載している無線機が全滅するような障害は、本来なら起きない想定のはずなのですが…。

そんなときのためのライトガン。昔からあるシンプルで信頼性の高い手段は、必ず残しておくべきなのです。


※ やぶ悟空による推測が多く含まれており、事実と異なる可能性があります。

※ 写真はすべて、やぶ悟空撮影

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