フリーランスは「集客を外注化している」という話

未だに一部の世界では話題になる、「フリーランスがいいのか、会社員がいいのか論争」ですが、突き詰めて考えると、これらはESBIクアドラントの左辺での対立でしかないわけで、ナンセンスであるとも言えるわけです。

そんな次元で二項対立させても、クアドラント右辺のビジネスオーナー、あるいは投資家からすると、「資本主義の俎上で買い叩かれている」だけの存在でしか、どちらもないわけですから。

………と、このテーマを「資本主義の世界では共に負け組」なんて結論で吐き捨ててしまうのは、それこそナンセンスですから、今回はヒントになる話をしたいと思います。

それは、「フリーランスは集客を外注している」ということです。

この視点、実は多くのフリーランスが仕事をする上で、欠いている視点なんですよね。

僕の場合、スキル(と時間)の切り売りをしている分野は「翻訳」という世界です。

この世界でフリーランスとして仕事をしていくのであれば、求人を出している翻訳会社(や特許事務所)に書類(履歴書と職務経歴書)を送って、トライアルという「採用試験」を受けて、その上で合格すれば登録(契約)、という流れになります。もちろん、登録できたとしても、仕事を継続して頂けるとは限りませんから、トライアルに合格して、実際に仕事を何件か請ける、という段階が、フリーランスとしての「出発地点」になるのが実情です。

(この辺り、クオーターや半年で特定の仕事仕事をクライアントと契約して請ける、あるいはプロジェクトごとに仕事を請ける、というフリーランスとは、取引の流れや業界の慣習は違っているかもしれません)

さて。

時々、フリーランスでそれなりに結果を出した(ようにネットで振る舞っている)人が、仕事をしてお金を稼いでも満たせない自己顕示欲や自己承認欲求を満たすために「俺は有能」「フリーランス最高」のようなポジショニングをして回っていますが、よくよく考えて下さい。上で説明したとおり、(少なくとも翻訳業という世界においては)フリーランス自身が「集客」して、クライアントを獲得することはまずありません。

「集客」というのは、ほぼ「営業」と同じ意味ですが、「営業」だと、フリーランスとして(仲立ちする)取引先を開拓することが含まれるので、ここでは「上流と直契約を結ぶ」ことを意味するために、敢えて「集客」という言葉を使っています。

翻訳業の場合(あくまで、この世界の話です。他の業界のことはよく分かりません)、翻訳会社や特許事務所が、大元となるクライアントに対して、様々なパッケージを提供しているわけです。知財の世界で言うと、特許出願から権利保護など、クライアントのニーズや要望に応えるべく、様々な「商品」が用意されているわけで、翻訳者というのは、あくまでその「パッケージ」の一部分を形成する、パーツでしかないわけです。

恐らくこれは、デザイン系やIT系のフリーランスにとっても当てはまる場合が多いのではないでしょうか。デザインやイラストの世界でも、丸ごとのパッケージがあって、そのプロダクトを提供する中の、1つのプロセスをフリーランスのデザイナーやイラストレーターが担う、ということが普通ではないでしょうか(そもそも、大手企業が一フリーランスと直契約をするということは、まずないはずです)。

ということは、ビジネスという枠組みで捉えると、フリーランスという立ち位置は、「集客を外注化(取引先が代行してくれている)」と考えることもできるわけですよね。

上でも書きましたが、この考えは非常に大切です。だって、フリーランスの取引先が集客(クライアントの確保)をしてくれないと、フリーランスは仕事ができないわけですから。

別にこれは、「そういう立ち位置にいることを理解して、もっと謙虚になれ」ということを言いたいわけではありません(いやもちろん、取引先に対して傲慢になるとか、フリーランスという立場にいることをドヤるのは、良くないですよ)。

そうじゃなくて、フリーランスというのは、あくまで「自分の得意な(マネタイズできる)スキルを取引先に売っている」だけであるわけで、それ以上でもそれ以下でもないんです。

そして、自分の苦手な、あるいは構造上取り組めない仕事は、代わりに周りに外注してもらっている。

この2点は、フリーランスとして仕事をする時にわきまえておかないといけないことではないでしょうか。

もちろん、逆の立場で、フリーランスに発注している会社の人が、「俺たちが仕事を取ってきているんだぞ、良く思え」なんて風に言ったり、そんな雰囲気を出してしまうのもよろしくありません(とはいえ、実際にはよく聞いてしまうのですが…)。

大切なのは、フリーランスとして仕事を請ける人も、フリーランスに仕事をパスする立場の人も、お互いがいないと仕事が成り立たないわけですから、そこは互いに尊重しあわないといけません。その上で、理解できない部分とか、不当な扱いを受けていると感じるのであれば対策を考える必要がありますが、そもそもその前に、という話って、よく抜け落ちています。

なんだか、きれいごとのような話になっていますけれどね。

ビジネスって、相手のことを考えないと成り立たないわけじゃないですか。

それを理解できない人たちって、本当にフリーランスとして生きていっているんだろうか、と思うんですよね。

「集客の大切さ」というのは、自分でスモールビジネスを始めてから痛感したものです。そういう意味では、上で書いたようなことを肌感覚としてフリーランスが理解できるようになるには、いつまでも「下請け」ばかりで仕事を続けるんじゃなくて、小さくてもいいので、自らキャッシュポイントを作っていく取り組みをしたほうが、学べることも増えるのではないでしょうか。

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