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西尾潤「マルチの子」(徳間文庫)

西尾潤「マルチの子」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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 徳間書店の中では、赤松利市と並んでエグい小説の書き手。この作品はマルチ商法にのめり込んでゆく女性の破綻を描く。賢い姉、愛らしい妹に比べて、みすぼらしい自分。承認欲求というコンプレック克服への強烈なエネルギー。連続して展開してゆく、ノンストップなスピード感。だからこそ次々とハマってゆく、底なしの落とし穴が実感できる。マルチ商法に騙される方も騙される方だが、実は騙している方も自覚がない。そこは新興宗教の世界に近い熱狂と陶酔の渦だった。そしてエピローグで明かされるヒロインの実態と能力。自らが見た世界と、外から見た自分。虚実は第三者によって詳らかにされる。
 この作品は自らの体験談と「あとがき」で著者は明かしている。その「あとがき」で挙げる、マルチ商法にハマる人の3つの特徴。1️⃣自分に満足できていない人、2️⃣勉強熱心な人、3️⃣自己評価の低い人。言い得て妙である。儲かるはずが、借金の山。博打の損は博打では返せない。覚醒剤はやめようとしても、やめられない。マルチの借金もマルチでは返せない。この3つは共通である。私の身の回りにも、進退極まった人が何人もいる。自宅が在庫の山になった人。奥さんがハマって、旦那が会社に居れなくなった人。同じ過ちを犯して欲しくないという、著者の切なる願いがこもっている作品である。


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