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浦賀和宏「こわれもの」

浦賀和宏「こわれもの」(徳間文庫)。今年2月に物故されたミステリー作家の新装版。
 主人公は、陣内龍二。売れっ子漫画家で、インターナル誌に「スニヴィライゼイション」というSF漫画を描く。彼には桑原里美という婚約者がいた。しかし突然の交通事故で世を去ってしまった。そのことがショックだった陣内は、物語の人気ヒロインであるハルシオンを、漫画の中で死なせてしまう。これをきっかけに、ハルシオンおたくだったファンたちに大バッシングを受ける。そんな彼に、神崎美佐という女性から手紙が着く。里美の交通事故死を予告した手紙、鶴見に住む48歳の婦人。彼女は、陣内に里美の交通事故死を予告した手紙を出していた。消印は里美の死の2日前だった。つまり神崎美佐には、死の予知能力があったのだ。陣内に迫る、発狂的なハルシオンおたくの青年。彼は陣内の殺人を企てる。そんな中で、神崎は陣内に死の予知を告げる。予知された1日を、恐怖に怯えて過ごす陣内。そして、その1日は悪意に次ぐ悪意が連続して、陣内を襲う。そしてエンディングは、予想すら出来なかった大団円。
 ミステリーの醍醐味は、作者がいかに読者の思惑を裏切るか。読書の予期する犯人やエンディングと、いかにかけ離れた結末を用意できるかに力量が問われる。そういう意味で、作者と読者の駆け引きである。この小説には、読者の推理を惑わし、覆すための罠があちこちに仕掛けられている。自分には思い持つかなかった動機と顛末。すっかりしてやられた。作者は腕のいい詐欺師であり、迷路に誘い込もうとする道案内だ。このような見事なフィクサーが、若くして夭折したのが惜しまれる。
https://www.tokuma.jp/book/b512065.html

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