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照下土竜「ゴーディーサンディー」

徳間SFコレクション電子復刻第2弾。照下土竜(ひのしたもぐら)「ゴーディーサンディー」(徳間書店)。第6回日本SF新人賞受賞作。表紙イラストは安倍吉俊。
 機動隊爆発物対策第6班の心経初(しんぎょうはじめ)。いつも気のいい青年・青水定一とコンビを組んでいる。2人への憂鬱な出動指示は、公安一課の片口通から発せられる。彼らの仕事は、監視システム「千手観音」によって発見された擬態内臓つまり人体に仕込まれた爆弾を解剖除去すること。そのことで多くの人々の命を救い、施術された人物の確実なる死を意味する。それがたとえ少年少女であっても。自局内で起こった自爆テロを取材した、関東テレビの橘京家。心経初は、彼女に心惹かれる。しかし事件の裏側には「名無し屋」と呼ばれるアイロニックなフィクサーが暗躍していた。殺す者と防ぐ者。その間にも、愛が通うこともある。
 冒頭から連続する肉裂き血湧く、人体解剖の連続。血を見るのが全くダメな自分は、このような光景をリアルに見れば失神嘔吐間違いなし。そのような凄惨な現場の処理を、主人公の初は淡々とこなしてゆく。医術を持ちながら警察領域に踏み込んで、生体解剖に手を汚す彼らに世間の目は冷たい。「何のためにやっているのか?」という問いに「仕事だから」と答えるしかない立場。心をコントロールしながらでないと続けられない過酷な仕事。責務と情愛に揺れる心象風景を、著者は切れ味鋭くワンカットで描く。日本では少ないが、中東や欧米で頻発する自爆テロ。オリンピックが開催されれば、日本でも日常茶飯事となるやもしれない。この物語で影絵のように描かれるシュールな光景は、著者による日本の未来透視図でもある。
https://www.amazon.co.jp/dp/B08H1YH1BM/


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