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黒崎視音「警視庁心理捜査官」新装版

黒崎視音「警視庁心理捜査官(上・下)」(徳間文庫)。2011年にテレビ化された作品で、第1回の吉村爽子は田畑智子で、以後作品では菊川怜、雛形あきこに引き継がれる(ちなみに柳原明日香はずっと泉ピン子)。今回は新装版で改めて文庫化された。https://www.amazon.co.jp/dp/B08Y8H7P4X/
 殺しを専門とする警視庁捜査第一課で、特殊犯罪を受け持つ第二強行犯特捜四係に属する27歳の吉村爽子巡査部長。彼女は刑事の中でもプロファイリングの技能を持つ。童顔にして少女のように小柄な爽子だが、その性格はよく言えば謹厳実直、悪く言えば愛想のない素気なさ。その役割の特殊性と、場に似合わない可憐な風情から、同僚刑事から軽侮と共に疎外される。蔵前で起きた若い女性の凄惨な殺人事件。陰部を凶器で傷つけて、晒し者にするような犯行現場。異常犯罪者をプロファイリングした爽子だが、現場はそれを無視して怨恨の線で容疑者を逮捕する。しかしそれを爽子にアリバイを指摘されて、捜査は白紙に戻る。このことによって面子を潰された刑事たちの白眼視の中、爽子とペアを組んだ藤島直人巡査長だけは彼女の正しさを信じて、心を通わせる。女性の先輩刑事である柳原明日香警部が、陰になり日向になり二人を守る。そうこうするうちに、第二、第三の犯行が連続し、その間に警察を挑発するような新聞広告まで打たれる。さらに上層部の不可解な介入が、円滑な捜査を妨げる。暴走する犯人を止めることはできるのか。
 心にトラウマを抱えた吉村爽子の、感情と記憶の揺れがこの物語の主旋律である。そのメロディラインに、目に見えない真犯人の異常な欲望と残忍さが、執念深い蛇のように絡みついてゆく。そしてもう一方の軸には、警視庁内部の厳しいセクト主義と激しい功名争いが爽子の前に立ちはだかる。その不文律は社会正義とは別次元の厳しい掟だ。そんな不毛の荒野を前にして、それでも被害者の無念を晴らし、容疑者を追い詰めるという点で、刑事たちの意識は共通している。罵倒され続けながらも、実績を上げて容疑者を追い詰めてゆく爽子たちの背中を押す姿に、正義を求める警視庁の心を見た。

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