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【エンタメ日記】『傷物語 ーこよみヴァンプー』に圧倒された編 2024/01/24~01/28

2024/01/24(水)

【にがおえ】中条あやみ

どんなに納得できていなくても完成させて公開する


2024/01/26(金)

【邦画アニメ新作】『傷物語 ーこよみヴァンプー』尾石達也監督

新宿バルト9・スクリーン2で鑑賞。
原作は西尾維新『物語』シリーズのうちの1作で、かつて3部作として公開されたアニメ劇場版を再編集したもの。斬新な映像処理がバンバンに詰め込まれていて、全てに触れていったらキリがないのでひとつだけ。現実のスケールを無視して巨大に描かれた学校や廃墟や地下鉄の駅などの建築物から、概念としての”東京”を大胆に再解釈している。その頂点として今は亡き国立競技場を最後の舞台にしているのも皮肉が効いていて、新陳代謝を繰り返しながら肥大していく”東京”という都市を過激なイメージにして表しているようだ。そう考えると、肉体の切断と再生が高速で繰り返される、アニメでしかできないグロテスク描写もまた、ある意味では都市のメタファーとしても読み取れそうである。

【ミステリ小説】『可燃物』米澤穂信・著

去年の積み残し。いろいろ忙しくて後回しにしていたが、やっと読めた。
群馬県警を舞台にした警察ミステリの連作。事件のことだけをただ考える堅物刑事を一人称にすることで、文章から余計な情報を徹底的に削ぎ落としている。「ロジックにこだわるばかりで人間が書けていない」という本格ミステリにありがちな批判を、ロジックにこだわる人間の思考だとすることで躱すばかりか、ロジックにこだわる人間と、それに気を使う周囲の人間の、双方の緊張感が充満することで、事件そのものも重厚に感じられていく高度な技法。遭難したスキーヤーを刺殺した凶器の謎など、ミステリとしての面白さと新しさが充分にあるのは言うまでもない。


2024/01/27(土)

【邦画新作】『違う惑星の変な恋人』木村聡志監督

新宿武蔵野館・スクリーン1で鑑賞。1日3回の上映だが、ボクが観た回以外はどれも舞台挨拶付きのため満席だった。いつも言っているけど、舞台挨拶が多すぎるのも考えものではある。
木村監督の前作『階段の先には踊り場がある』は、愚直なほど正統派の今泉力哉フォロワーとして興味深かったので今作も期待していたが、あまりに残念な結果に陥っていた。夢みたいな会話をしたあとに「この会話、夢みたいですね」ってセリフにしちゃダメでしょう。それぞれの恋愛感情が交差したうえでの終盤、全員が集合して「誰が誰を好きなのか」と整理を始める。つまりストーリーをシナリオへ、さらにはプロットまで遡って解体していくわけだが、それは面白いのか? それぞれの行為の向きを単純な矢印で図案化していくわけで、「人の感情は簡単に説明できない」とする今泉作品へ喧嘩を売っているのと同じだ。作り手にそんな野望があるとは思えないが。あと、今泉作品の核をなすようなエントロピーの低い淡々とした会話劇って、役者にも高度な技術が必要とされるのだが、名指しはしないがメインキャストでひとり、まったくモノにできてなくて下手な棒読みでしかなかったのも気になった。

【邦画新作】『カラオケ行こ!』山下敦弘監督

TOHOシネマズ新宿・スクリーン7で鑑賞。本当は『哀れなるものたち』を観るつもりだったが、TOHO新宿も新宿ピカデリーも満席だったので断念。そんなに人気なのか、ヨルゴス・ランティモス。
とにかく、思春期の中学生たちによる微妙な関係性から滲み出てくるおかしみが、とても良い。それぞれの”おとな度”の違いによってキャラ立ちしており、多感な中学生の心情を軽やかな笑いと共に秀逸に描いている。ただ一方で、令和の時代にヤクザと中学生が交流する展開を成立させるための、完全なファンタジーにする処理は足りなかった。というか、コメディであるヤクザ側のシーンが非常に弱い。山下監督、これまでも戯画的なコメディはあまりやってきていないし、実は苦手なのかもしれない。

2024/01/28(日)

【洋画旧作】『夜の大捜査線』ノーマン・ジュイソン監督

週1本は配信やソフトで旧作を観たほうがいいかなと思い、ノーマン・ジュイソン監督への追悼を込めて『夜の大捜査線』をU-NEXT鑑賞。
時は1960年代、ミシシッピ州の小さな町で地元の資産家が殺される。人種差別が強く残るアメリカ南部なので、ある男が黒人というだけで警察にしょっ引かれる。しかし男はフィラデルフィアの優秀な刑事であることが判明。上からの指示で渋々ながら捜査協力をすることになる。
現在からの視点になってしまうが、強制的に黒人とコンビを組まされた白人が、黒人の聡明で理知的な態度に触れることで偏見が是正され、少なくとも個人に対しては敬意を抱くようになるという展開は、人種差別問題のエンタメ化として安直に感じる。この映画が公開された1967年当時だから、これだけでも衝撃を与えたということだろうか。ミステリとしては「あいつが怪しい→やっぱり違った」の繰り返しなので、やや単調。人種差別どうこうの前に、いきなりやってきた見知らぬ刑事に殺人犯かと疑われたら、まあ普通に怒るだろう。

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