[第3回・前編] チケット転売は禁止するべきか --- 部分均衡分析

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第3回<後編>はこちらです。
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第3回目は、チケットの高額転売問題をきっかけに、行列(や抽選)と市場の特徴の違いを余剰・公平性・善の腐敗など様々な視点から分析しました。同じサービスを、お金を払うことで優先的に早く受けることができる「ファストトラック」の実例をクラス内で質問してみたところ、
・東京ディズニー・シー内のホテル宿泊(ミラコスタに泊まると15分早く入園できる)
・Amazon Prime(会費を払うと早く荷物が届く)
などの意見が出ました。

マイケル・サンデル『それをお金で買いますか』の第1章「行列に割り込む」には、米国における様々なファストトラックの例と共に、行列方式が機能しなかった(「行列の失敗」)例も紹介されています。「並び屋」と呼ばれる人々が行列に並び、獲得した商品やチケットを(利潤目的で)転売することによって、結果的に「行列に並ぼうとする意志」ではなく「お金を払おうとする意志」によって財が配分されてしまうことがしばしば起きているのです。最近ニュースになった米マクドナルドの「四川ソース」についてはこちらを参照。

【板書】左上のスピーカーで一部が隠れていますが、「ファストトラック」です。並ばずに遊園地の人気アトラクションにのれる優先パスを
・お金で売る(USJ方式)

・公平に配る(TDR方式)
の「どちらが望ましい配分方法だと思うか?」とクラス内で質問したところ、8割以上の圧倒的多数が前者のUSJ方式を支持していたのにはかなり驚きました。(経済学部生なので市場に慣れている、大阪在住なのでUSJ方式に親しみがある、といった理由などが考えられるでしょうか。いずれにしても、USJ関係者の方には朗報かもしれません。笑)

以上の実例を踏まえた上で、次に「望ましいチケットの販売法」について理論的に検討しました。どんな財・サービスであっても、基本的に経済学者は経済厚生を重視して(ii) 市場を推す傾向が強い一方で、公平性を重視する他分野の専門家(例えば前述のサンデル氏)は、財の種類や特性によっては、市場ではなく(i) 行列・抽選の方が望ましいと考えます。では、(iii) 行列+転売というハイブリッド版はどうでしょうか。実際のチケット高額転売で起きている状況はこの(iii)にかなり近いと考えられます。最初に格安の定価を付けて(需要が供給を大きく上回っている状況で)チケットを販売して、転売市場で定価よりもはるかに高い価格でチケットの売買が行われているからです。この(iii)は、(ii)の市場に近いものの、転売行為に伴うコストや無駄が発生したり、転売価格が高騰したり、と市場よりも劣る仕組みのように思えますが、本当にそうでしょうか。

講義の後半では、一見するとメリットがほとんど無さそうに見える(iii) 行列+転売に実は隠れた大きな利点があることを分析しました。キーワードは「保有効果」「所得制約」です。<後編>では、この内容について触れて行きたいと思います。


チケット転売問題に関する私の論稿もぜひ合わせてご参考ください。以下は2017年6月17日の朝日新聞「耕論」に掲載された記事の草稿になります。
・ゆがむチケット転売 --- ファン選別し優先販売をリンク


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