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Michael Breckerの名盤 (番外編2):Definitive Town Hall 1990/ Michael Brecker のアルバム評(とおまけ)

前回(その6)で"Now You See It….(Now You Don't)"を採り上げたときに、ポールサイモンのツアーに行く直前のマイケルのバンドについて書いた。要は、記録(と記憶)が残っているマイケル、カルデラッツオ(p)、ジェイ・アンダーソン(b)、アダム・ナスバウム(ds)のカルテットに、なんとウェイン・クランツ(g)!!!が入って短期間活動したという。私的には初耳で、(ポールサイモンのツアーを止めて)そのバンドで活動していたら、聴いたことのない新しい音楽が生まれていたのではないか、と評伝を読んで一人盛り上がっていたのだった。
と思ったら、そのバンドのライブ音源が、つい最近(2週間前!!)ブートレグとして発掘された(!!!)ということで、早速ポチして入手しました。中年音楽狂さんタイムリーな情報を誠にありがとうございますw しかも、この方、このブートレグが録音されたその場に居たらしい。世の中狭い。

というわけで、1990年10月9日、New YorkのTown Hollでオーディエンスにより録音されたブツとのこと。

左側が問題のブツ。右側はなぜかおまけでついてきたDVD
(その6でYTをリンクしたカルテットのフルコンサートと思われます)。

"Definitive Town Hall 1990"を聴いて

改めてメンバーと曲目を。

Michael Brecker (ts, EWI)
Joey Calderaszzo (p, key)
Wayne Krantz (g)
Jay Anderson (b)
Adam Nussbaum (ds)

Disc 1
1.Itsbynne Reel(8:20)
2.Minsk(10:13)
3.Choices(11:59)
4.Band Introduction(1:12)
5.Meaning Of The Blues(10:03)
6.Dogs In The Wine Ship(6:55)
Disc 2
1.Two Of Two(3:46)
2.Sea Glass- Peep (27:22)
3.Original Rays(13:12)

Disc 2のTwo of Twoは、ウェイン・クランツのソロパフォーマンスですね。それ以外はマイケルのリーダー3作から。Original RaysではEWIのソロパフォーマンスが炸裂してるし、後半のソロもテナーじゃなくてEWIで、しかもウェイン・クランツとの掛け合いやってる。
この時点での新譜であるNow You See it..からはPeep、Minsk、Dogs In the Wine Shopを採り上げている。Minskはウェイン・クランツの独自のコードワークを使ったバッキングが格好良い。Peepは速いフォービートでドラムとサックスのデュオなどあり盛り上がる。一方、Dogs In the Wine Shopは、ナスバウムが基本ジャズの人ということもあり、なんかバタバタしてしまってちょっとどうかなという感じもあるな。
というわけで、レパートリー的には新譜の曲が増えているものの、音楽的な内容としては基本的には例のイケイケリーダーバンドから継承している段階。このメンバーとして成熟して、音楽が変化していくのはこれから、というところだったんだろう。上に書いた通り、Minskのウェイン・クランツのバッキングを聴くと、前のバンドにはなかった尖った要素を感じる一方で、ジョーイ・カルダーラッツォとはコードワーク等でぶつかる可能性もあり、また、アダム・ナスバウムのドラミングがジャズに寄り過ぎていたりと、早晩、メンバー変更があったのではないかとも想像できる(例えば、ジム・ビアード(kb)入れるとか、アダムナスとデニス・チェンバース(ds)を入れ替えちゃうとか)。歴史のIFであるが、いろいろ思いを巡らすと楽しいし、一方で、やはり例のポールサイモンツアーによる「失われた二年間」が惜しいな、と感じてしまうのだった。その後マイケルが1990年代半ばにリーダーバンドでの活動を再開させてからは、このアルバムで演奏しているような初期三作の曲は封印されていたしねえ。

というわけで、ブートレグに興味お持ちの方はこちらから。まあ、所詮ブートなので、ナニな方はナニなのでナニをナニしていただければナニですw

【おまけ1】ウェイン・クランツ(g)について

折角なので、ウェイン・クランツについてちょっと。
今でこそ、コンテンポラリージャズ/フュージョンギタリストの世界で孤高の地位を築き上げたウェイン・クランツであるが、当時はまだ駆け出しだった、と思って今調べたら、1956年生まれというから、このアルバムの録音時(1990年)は、、、30代半ばか(ついでにいうと、誕生日が私と同じでビックリwww)。結構歳いってたんだな。
マイケルのバンドに入る一年前(1989年)にレニ・スターン  (g,マイク・スターンの奥様)のアルバムで弾いてますね(これがデビューかな?)。ちなみに、私がドイツにいた1991年に、ミュンヘンでレニ・スターンバンドを観たのだが、その時も確かウェイン・クランツがいた。マイケルバンドが無くなったのでそっちで仕事貰ったかw ちなみに、そのバンドはギター二人にボブ・マラック (ts)、リンカーン・ゴーインズ (b)ドン・アライアス (Perc, Ds)だったと思う。今考えると凄いメンバーだ。ウェイン・クランツ、ライブの前は知らなかったが正直レニ・スターンよりもギター上手くてw 異常にキレのいいプレイをするギタリストだなと思ったものだ。でもそれ以上でも以下でもなく。
その後(?)New Yorkの55 barで毎週やってたトリオ演奏で徐々に有名になっていくわけだが、やっぱり私をノックアウトしたのは1995年録音のこれですね。実際に聞いたのは2000年代後半だったと思うけど、あまりの格好良さにビックリしました。

なんか、本当に独自なプレイだよねえ。その後、なぜか一時Steely Danバンドのメンバーになったりしたけど、基本的にはトリオ演奏を続けていて、何回か来日もしてますね。やっぱりKeith Carlock (ds)、  Tim Lefebvre (b)とのトリオが良いです。これは教則ビデオで2時間ぐらいあるけど、ファンクとかロックのリズムの上でいかに自由な音楽ができるかを追求してる感じが実に面白いですな。ここにブレッカーがいたら、とか考えるとさらに楽しくなるわけです。

https://youtu.be/P1BSGcKsLBQ?si=ahiqn6sLr8t9u_Tz

【おまけ2】ジム・ビアード(Key)について

さて、今回採り上げたブートレグとは何の関係もないんだけど、ジム・ビアードについてもちょっと。何を隠そう、"Now You See It…(Now You Don't)"の影のキーパーソンはこの人だと思うのだ。同アルバムでは、Ode to the Doo Da Day, Quiet Cityの二曲を提供している。聴いてもらうとわかるが、この二曲だけ明らかにテイストが違って、マイケルのアルバムに新風を吹き込んでいる。さらに、改めてCDをチェックしてみると、アコースティックなカルテットで演奏されるThe Meaning of the Blues以外、すべての曲でシンセサイザーを弾いているようだ。
この人、キーボードプレイ的にはジョーザヴィヌル系統で、80年代の半ばからシーンに登場する。私が一番初めに聴いたのはジョン・マクラフリンの新生マハビシュヌオーケストラだったかな。その流れで、サックスのビル・エバンス一派とか、ジョン・スコフィールドのデニスチェンバース入り凶悪ファンクバンドとか、その後はウェインショーターのバンドにもスカウトされたりと、とにかく一流どころからモテモテだった。1960年生まれだそうだから、20代半ばでモテモテ。
ライブでのキーボードプレイも良いのだが、作編曲家としても実に個性的。特に自身のアルバムではエスニックなパーカッションとシンセサイザー(さらにオーケストラ)をうまく融合させてクールで緻密(ザヴィヌルみたいに大雑把じゃないw)で極めて独特なサウンドをプロデュースしていた。マイケル的にはライブバンド要員というより、この人の感性で新しい音楽をやってみたかったんじゃないかと思っている。Now You See it…のプロデュースは朋友ドン・グロルニックだったが、ポールサイモンのツアーなかりせば、次作はこの人(ジム・ビアード)プロデュースでビックリするような音楽が出てきたんじゃないかなあ、とか夢想してしまうわけです。

ジム・ビアードがシーンにデビューした頃のマハビシュヌオーケストラでの演奏。キレてる。

1990年に出てきた自身の初リーダー作"Song of The Sun"。私的には大名盤。1曲目(マイケルフューチャー)と2曲目(ショーターフューチャー)はとにかく素晴らしい。こういう音楽やりたい(できない)。

ジム・ビアード、あまり派手ではないですが、活動を継続してますね。ウェイン・クランツ同様、一時期Steely Danのメンバーだったり。最近は当時からの朋友ジョン・へリントン(g)とのアコースティックなデュオアルバムとか大人な感じの音楽が中心みたいです。
こんなのも見つけた。ジム・ビアードの曲をヴィンスメンドーサがアレンジして、狭間美帆が指揮するという超豪華企画。作曲家としても認められているということですな。

改めて、アルバム"Now You See It… (Now You Don't)”の前後には、マイケルとこんな才能とのコラボレーションも隠れていたわけで、パーマネントな活動につながっていたらどんな音楽が生まれていたんだろうと考えざるを得ないわけであります。

というわけで、番外編2はここまで。

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