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私信のようなもの

2019/0422

カルディのシナモンロールを温めすぎた夫に苛ついてしまった。小腹がすいたわたしのために、夫はレンジで冷凍のそれを温めてくれた。どうぞ、と手渡された白い皿の底が熱くて、思った以上に大きい声が出てしまった。夫もわたしの声にびっくりして、あ、あ、とうろたえた。夫はシナモンロールが乗ったその白い皿の底を確かめて、特に真ん中が熱い。と呟き、皿をテーブルに置き直した。こちらにどうぞ、とエスコートされ、本当はソファから動きたくなかったのだけど、そのかしこまった所作から夫が申し訳なく思ってること、そう思わせてしまったことに、わたしもゴメンねの気持ちがあったのでテーブルに座って熱々のシナモンロールをたべた。夫はわたしの向かいに座り、テーブルの上に乱雑に置かれてた舞台関係のチラシ束を見ていた。おもむろに、その束からみつけたダンスカンパニーを検索し始め、YouTubeで見つけた公演記録を見せてくれた。なかなか面白そうだなあと思いつつ、シナモンロールを頬張っていると、冷めていなかった激熱の部分にあたってしまった。(うちの電子レンジが古いのか、均等に温まらない。)わたしは声にならない叫びを上げた。わたしはちょっと大袈裟だったかもしれない。夫はハッとして、わたしの横に座った。それからシナモンロールの激熱部分に息をふーふー吹きかけた。顔をみると、ものすごくしょんぼりしていた。180センチの大きめの男が、その恵まれた体の全てを、カルディのシナモンロールを冷ますことに費やしていた。

夫はわたしが不機嫌になることを極度に恐れている。極度にっていうのは言い過ぎかもしれないけど、それでも、わたしがそうならないように、日常の立ち振る舞いには気を使っているのではないか、と思う。(こんなこと書くと、わたしが俗に言う恐妻のようだけど、そうではないと信じている)夫は寝ている時でさえ、私を気にしている。夫が隣で寝ている時、不意に息苦しくなって、大きく深呼吸をしたことがあった。吐きだした息がはぁ、と寝室に響いた。夫の、わたしの不機嫌を感じ取るセンサー的なものに、それは漏れなく引っかかったようで、次の瞬間、彼は飛び起き「大丈夫か、何かあったのか」と口も頭も追いついていない状態ながら、私のことを心配したことがあった。わたしが何か思い詰めて吐きだしたため息だと思ったようだった。翌日、そのことを話したら夫は自分が飛び起きたのも、わたしのことを心配したのも覚えていなかった。脳を介さず、体が危機を感じたのか。わたしの或る部分が夫の生命ひいては精神を脅かしている可能性があるということがこの一件でわかった。

夫の恐怖を、聞き出せない。原因はたぶん私にもある。私のこと、そんなに怖がらなくていいんだよ、と簡単に言えないし、そんな一言で解決するような話じゃない。私がなにかしら不機嫌に陥って、苛烈に怒っても、あなたのことを嫌いになるわけじゃないんだよ。そんな時は、わたしも理性的に話せるように努める。し、わたしが間違ってたら勇気を出して教えてほしい。

わたしが楽しいとおもうことを、夫も楽しんでくれていたら、それ以上の幸せはないのだけど、わたし達は同化しなくていい。夫婦だからといって、同じにならなくていい。同じになるという凶暴を身につけないように生きていこう。


最後に、夫の短歌を紹介します。

ぼくたちはまた会いたくなるのだろうだから一晩寝かせたカレー




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