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居候

Fictions Vol.2

育ちがいいとひと目でわかった。

最初から気を許していたわけではない。
なんとなく、側にいて、そのまま出て行かないから、いつの間にかそうなった。なし崩し的に、というのはこういう時のためにある言葉だと思った。
媚を売るわけでもなく愛想が良いわけでもない。

ただ、隣にいた。
お互いに、そうだった。

思いもよらない居候との同居生活が、始まった。

ヘンなヤツだと思ったけれど、そのことにとても、救われた。
何の理由もなく、ただそこに居たいからというだけの理由で、そこに居てもいいんだ、ということを全身で示している存在に、生きていてもいいんだと全部を無条件に肯定してもらえたような気がした。

出会ったころ、ちょっと弱っていた。
彼も、私も。

私は、ものすごく仕事をしていて、好きだったはずのお酒にも興味を失って、ただただ、目の前のことをこなすことに自分の全てを費やしていた。

たぶん、何かを、忘れようとしていたんだ。
今は、そうだと分かる。

大切なものをなくして以来、後悔ばかりしていた。
もっとこうしていたら。
もっとこうだったら。
もっと、、、

できたはずのないことばかりだ。
だって、あたしはあたしでしかいられなかったのだから。
でも、
それでも、

繰り返さずにはいられなかった。
そう、もし、あたしが、あたしじゃなかったら、と。


居候は、そんなこと、知ったこっちゃない、という顔でお日さまの光を堂々と独り占めして、ムクムク大きくなって、長々と寝そべって昼寝をし、ときどき横目で、ふてぶてしく世の中を見ている。
たまに、信じられないほど甘えた、可愛らしい様子を装って何かをねだったりする。

そんな、プライドのないことでいいのか?

と苦笑いしながら、それでいいんだと教えてもらったことに気付く。


再び晩酌をするようになって、人並みの元気を取り戻した頃。

もしかしたら、役目を終えたとばかりに、彼がいなくなってしまうのではないかと、ふと、不安に思ったことがある。

でもそうではなかった。

むしろだんだん、どちらが居候か分からないような態度になっている。

少しは恩返ししろよとばかりに、最近では気が向くと図々しく膝の上に陣取ったりしている。

ザラザラした舌で舐めてくることもある。


ずっしりと重い。
関わってしまったことが生々しく感じられて、少し、心地よい。

そう、きみのおかげで、今がある。


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