見出し画像

印刷部数の決め方ガイド〜技術書典7に向けて

技術書典に初めてサークル出展する方に向けて、印刷部数をどうやって決めたら良いのか? 需要をどうやって予測したらいいのか? ということを順序立てて解説していこうと思います。

なお、ここに書いていることはすべて一サークル主がまとめただけの非公式のものです。

情報源は

・技術書典5〜6の公式アンケート調査結果
・運営主催の事前イベントでの公開情報
・サークル主たちのブログ記事・ツイート等
・自分の経験(技術書典5、6にサークル参加)

の4つです。

結論は最後にまとめています。

売れ行きを左右する要因

まず、売れ行きを左右する要因たちを挙げてみます(だいたい重要度順)。噂レベルのものも含めるともっとたくさんありますが、はっきりと分かっているものだけを挙げます。これらは互いに関連し合っています。

・イベント当日の天候
・イベント全体の来場者数
・SNS・ブログでの事前告知
・サークルのジャンル・セグメント
・本のテーマ設定
・ノーチェック買い(衝動買い)の比率

このうち、一番上と一番下を除いた部分がある程度被チェック数で予想可能な部分です。

最大の攪乱要因は天候

多くのイベントと同じように、技術書典も当日の天候で客足が左右されます。過去、台風とバッティングした際には統計値から見てもそれなりに参加者数が減少したようです。全体の集客数は個々のサークルの集客力と関連しているので、自ずと私たちの頒布数にも影響してきます。シビアに重要度だけで考えると、私たちサークル主が当日に向けて最もやるべき売上向上策は「てるてる坊主を作ること」なのです。まあ、本気でてるてる坊主をつくる人はいないとは思いますが、それくらい天候の影響度が大きいということです。

では、どうにもならない天候要素を除いた上で、私たちは何を手がかりにしたらよいかというと「被チェック数」になります。

「被チェック数」はアテにはならないが手がかりにはなる

過去の統計結果とサークル主の聞き取り結果から、最終被チェック数は当日の来客とほぼ同じ程度になるらしいことが分かっています。もしあなたのサークルが一品種のみを扱っている場合、最終被チェック数と同じだけ印刷すれば、ちょうどイベントが終了する頃に完売するという計算です(複数品種の場合は分散すると考える)。

私の経験では、

・技術書典5の最終被チェック数214 →80部が1時間半で完売
・技術書典6の最終被チェック数610 →400部+委託100部が3時間で完売
・技書博の最終被チェック数48 →実績51部

なので、当日の来客は最終被チェック数よりやや上振れするという感想を持っています。

ここで注意したいのは、最終的にサークルチェックした人が全員スペースにやってきて買っていくわけではないということです。サークルチェックしても買わない人はいますし、サークルチェックしなくても当日買ってくれる人はいるわけで、経験則的にその上下のブレがだいたい被チェック数と同じくらいになりそう、ということなのです。技術書典の主宰さんも事前イベントでこれを裏付ける統計結果を出したときは言葉を選んで「どうやら相関がありそう」ということを言っています。

結局いくら刷ればいいのか

最終被チェック数が重要な手がかりになると言うことは分かったのですが、残念ながら最終被チェック数はイベント当日にならないと分かりません。サークル主が知りたいのは“入稿日までの時点で”“どれくらい刷ればいいのか”ですよね。

というわけで、私は前回技術書典6のときの自分の被チェック数の時系列データを断面で切り出して、最終被チェック数の予想をツイートすることにしました。だいたい毎日21時過ぎに更新しています。

この予想値のよい点は、被チェック数が描く上昇曲線が考慮に入っているということです。

被チェック数はイベント当日に向けてどんどん増加率が上昇するという特性があります。もし私が一般参加者だったとしてもサークルチェックは直前にすると思うので、当日直前にチェックが集中するのは自然なことだと思います。ですから現在の数字で線形近似をするなどして予想しても、実際の最終値はそれよりもずいぶん上になります。私はこの予想ミスを何とかしたいと思って、上昇分込みの予想を公開するようにしました。

上昇曲線の増加率は前回の私の被チェック数610を基準にして、単純に割った数字を使っているだけなのでもしかしたら少ない被チェック数では別の曲線を描く可能性もあります。

この予想が本当に合っているのかどうかは私自身も当日を迎えて皆さんからのフィードバックをもらうまで分からないのですが、ひとまずは現時点で一番まともそうな手がかりとして活用してくださればなと思います。

偏差から考えるサークルの位置

Twitterではみじんこ組さんが、ツイートされた被チェック数をサンプル化して時系列グラフにするという試みを行っています。こちらも印刷部数の規模の感触をとらえるために有効なデータだと思いますので、考慮に入れるとよいと思います。

サンプル一覧をみるとだいたい全体の中で自分が高めか低めかが分かると思いますので、そこから前回アンケートの新刊持ち込み部数の全体統計値「新刊1品種あたり:平均155部、最頻値 100部、中央値100部」という数字を当てはめて(規模拡大を考慮してx1.2〜1.4くらいはしてもいいかも?)想像するという方法を採れます。複数品種ある人は複数込みでの数値「サークルあたり持込平均(初参加サークルに限った場合):200部」という数字も参考になります。ただしこの数字は初参加が初執筆と一致しないことや、委託の存在を考慮する必要があります。

現在の被チェック数がちょうど全体の真ん中くらいなら120部〜140部くらい持ち込んでみると、あながち大外れと言うことはなくなります。ただ、サンプル自体が「Twitterでつぶやくだけの数字がある」人に偏っている可能性はあります。

在庫は良いこと? 悪いこと?

さて、被チェック数からある程度最終値が見えたとして、仮にその最終値と同じだけの人が来ると想定できたとして、印刷部数を確定させるために忘れてはならないことがあります。それは「最終的に在庫を持ってもよいか、何が何でも持ちたくないかをあらかじめ自分の中で決めておくこと」です。これは自分の中の目標設定のようなものです。

なぜこれが重要なのかというと、イベントに参加し終わった後の満足感や後悔に直結するからです。自分の中のクリア目標を「より多くの人に届ける(それがたとえ在庫リスクを被ってでも)」なのか「自分が一番楽しむことを優先する(後腐れなくイベントを終えたい)」のかのどちらかにするかあらかじめ決めておきましょう。それによって印刷部数を上に調整するか下に調整するかが変わってきます。

例えば今回の私の最終チェック数予想はだいたい200前後。既刊と新刊、委託新刊が1つずつあるので、合計200程度にするのがよいですが、今回の私は何が何でも完売させないと決めて、残ったら次回イベントに回すつもりで新刊200+既刊200+委託20=420程度の持ち込みを考えています(もうちょい増やすかまだ迷っています)。

私のように、刷りすぎ上等! 在庫抱えてもオールオッケー! それより完売ダメ絶対! みたいな方は、最終被チェック予想にさらに安全係数を掛けて上振れに備えましょう。

これが初回参加だと、おそらく次回イベント参加なども考えてないと思いますので、早々に完売させてシャンシャンで終わらせるのが良いかもしれません。その場合は最終被チェック数予想の7掛け程度にしておけば「在庫の山が〜!」なんてことは確実に防げます。

「完売しました」というのは見方によっては嬉しくもあり、残念でもあるのです。

刷りすぎても手はある

技術書典の運営さんはサポートの方向性として「刷りすぎても大丈夫」なようにイベントを準備しています。とらのあなやBOOTHといった委託販売の引き取りスペース(ダイレクト入庫サービス)を用意してますので、当日たくさん在庫が残ってもとりあえず委託しておいて、通販状況を見ながら後で考えるということもできます。心強いですね。

ただし、委託には多少のコストがかかってくる点には注意してください。

50〜300部程度なら印刷費から決めるのもアリ

被チェック数についてのノウハウがまだ今ほど蓄積されていなかった技術書典4とか5のときは、とにかく爆死(在庫の山と大赤字のダブルパンチ)を防ぐために、何がどうなっても確実に売れるだろうライン(≒入稿時点の被チェック数)を想定し、その最低売上で賄える印刷費から部数を決めるという方法を採用する方が多くいました。これは私は今も有効だと思います。ただ、400部を超えるような場合は一冊あたりの印刷費が途端に下がって不当に上振れしてしまうので、多くとも結果が300部になる程度ならこの方法を使うと良いと思います。

完売リスクを電子で埋める考え方もある

技術書典5で80部の冊子が1時間半で完売した私ですが、ダウンロードカードの準備があったので冊子完売後も70枚ほど売れました。このように、ダウンロードカードを準備して冊子の完売リスクに備えるという手もあります。ただし、やはり紙で欲しがる人が相当多いので、それなりに売れ行きは下がります。あるいは、ダウンロードカードさえも準備せずBOOTHのダウンロード販売サイトに誘導する(QRコード等を用意する)方法もローコストで可能です。

そもそも著者がリスクを引き受けるのが同人

結論に入ります。

・最終的には天候という運要素に左右される
・被チェック数はアテにならないが手がかりにはなる
・最終被チェック数予想から算出する、偏差から推定する、印刷費から決めるといった方法がある
・刷りすぎてもこわくない
・在庫リスクをとるか、完売させることをとるかを決めておく

これである程度、安心して考えられるようになったのではないでしょうか。あとは公式のサークルページを充実させて、SNSで自分の本の良いところをツイートしまくりましょう。ブログにもまとめましょう。大丈夫。それらの結果は被チェック数というバロメータでトラッキングできます。安心して原稿してPRに務めましょう。

最後に重要なことをひとつだけ。

技術書典には多くの人が同人出版という形で参加される予定かと思います。同人出版の醍醐味は「すべての出版リスクを著者が引き受ける」ことです。あなたの悩んでいる印刷部数、これは結構貴重な悩みの機会です。これも含めてイベントだと思って隅々まで楽しんでみてください。当然ですが、最終責任は自分です。他の誰も在庫や赤字の責任は取ってくれません。ですから、予想値は予想値だと割り切って、最後は自分の考えで自分の本の印刷部数を決めてあげてください。

当日みんなが笑顔で参加できることを願って!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?