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なんで越境したいんだっけ?

「越境」という言葉をここ1年くらいでよく見かけるようになった。
どこで最初に見かけたのか、聞いたのかは覚えていないが、普段聴いているTakramのポッドキャスト「TakramCast」ではよく出てくるワード。

驚いたのは池上彰氏が『知の越境法』(2018/光文社新書)という本を出したときだ。越境というワードをTakramがよく使っていることもあって、越境はイノベーションを狙うベンチャー系企業のワードかと思っていたのだが、池上彰氏まで使う言葉になったんだな…と、こそばゆいというか、まあ感慨深いものがあった。

NHKは公務員みたいに数年単位で異動があり、最初は地方局からスタートし、いろいろ流転していくのだが、池上さんの場合は単純な異動も含めて越境と言い換えている。地方では人材も予算も少ない分、取材をひとりで行う必要がある。記事を書き、写真を撮り、ときには映像を自分で撮影して編集する、みたいなこともやっていたという話だったと思う。それがいつの間にかキャスターもやり、子供に解説するために社会部だった池上さんは様々な分野の勉強をする必要に迫られる。

池上さんのことはここまでにしておいて、個人的に最近キーワードになっている、「越境」について、「そういえばなんで越境したいんだっけ?」ということを改めてまとめておく。考えられる理由は2つ。

1.職業寿命が短くなるから
2.新しい発想は異分野の組み合わせで生まれるから

1つ目の職業寿命が短くなるから、は普遍的な話かどうかわからない。単純に、自分がいまイラストレーターとして活動しているとき、まあここまで7年くらいやってきてはいるけど、それが続けられるかわからない。タッチは飽きられるものだ、という諦めがあるし、消費者としてイラストに接してきた感覚として、一世を風靡したイラストがどんどん飽きられて次のイラストにとって変わられるのを見てきた。例は出さないけど。
そんなわけで、これから自分がイラストレーターを続けられるのか?という不安は常にあり、常にイラスト以外のなにかを模索している。そのヒントが「越境」にあると思っている。イラストレーターとして仕事がなくなったときに「さあどうしよう?」を考えるんじゃなくて、いまのうちからジリジリと移動する先を知っておくということ。

2つ目の「新しい発想」についてはフランス・ヨハンソン著『アイデアは交差点から生まれる』(2014/CCCメディアハウス)を読んだことに由来する考え。

ジェームス・ヤングの『アイデアのつくり方』(1988/CCCメディアハウス)の影響なのかなんなのか、「アイデアは組み合わせだ!」と多くの人が言うようになった昨今、まあそれはそうかもしれないなあと思いつつ。それはアイデアの1パターンでしかないんじゃない?と思いつつ。

古来よりアイデアが生まれた場所は、さまざまな人が行き交う交差点だった、というのがこの本の主張。原題は「メディチ・エフェクト」で、メディチ家のなんたらかんたら。

ぼくはフリーランスで、おそらく今後も会社員になれない身(させてもらえない)だろうと自覚しているので、常に自分が生活していくためにはどうしたらいいかだけを考えている。イラストレーターの仕事を探すようになったのも、そうやって導き出された結果だ。
『アイデアは交差点から生まれる』では、アイデアを生むためには交差点になる必要がある、みたいなことが書かれているんだけど、個人としては「交差点としての会社」に行けると思っていないので、自分の中に交差点をつくったほうがいい。だから越境して、ほかの分野の知識や技術を獲得しようといつも思っている。思いすぎてイラストの腕が上がらないという本末転倒感も感じてはいる。

もしかしたら「越境」という言葉には、越境してそのまま元いた場所には戻らない、というイメージがあるかもしれない。でもそういうふうに捉えるよりは、越境して境界線をなくすというほうが可能性があるだろう。陣取り合戦的に、領土を広げていく考え方だ。ただしそうやって領土を広げれば、メンテナンスに労力がかかるようになるので、いずれどこかを捨てなければならなくなる。

ぼくはイラストの仕事以外にもモーショングラフィックのディレクション、国際情勢にまつわる英日翻訳の仕事を掛け持ってやっている(た)のだが、こないだ翻訳の仕事はやめてしまった。翻訳をするために国際情勢を細かなところまでウォッチするのがしんどくなってしまったからだ。働きのメンテナンスは越境する上で必須になる。

さて、タイトル「なんで越境したいんだっけ?」の結論がスッキリかつダラダラと2つにまとめられたところで、この記事を終わりにします。越境については個人的に課題もあり、成果もあるのでまた書くかもしれない。書かないかもしれない。

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