製紙業界の未来を考える:電子化の逆風と次世代資源としての期待

近年の日本では、大手企業を中心に文書の電子化が進める動きが活発になっている。また、デジタル庁の発足を皮切りに、行政文書や公共サービスの電子化も同時に進んでいる。

このようにして、IT技術が日常生活に普及している一方、紙の消費量は年々減少することは感覚的に理解できる。実際に、日本製紙連合会のデータによると、2000年あたりから年々減少傾向にあることが分かる。(日本製紙連合会 | 製紙産業の現状 | 紙・板紙 (jpa.gr.jp)

紙の種類別に見ると、印刷・情報用紙の消費量は単調減少といってよい状況であり、文書やサービスの電子化が寄与していると考えられる。
これは労働人口が年々上昇している状況(就業状況の変化 (mlit.go.jp))に反した動きで、記録媒体が紙からデジタルに置き換わっている流れは加速しているといえる。

では、文書の電子化が進むからといって、紙の需要がなくなるのかといえばおそらくの答えはNoだろう。教科書、漫画、新書、ビジネス書、写真集など、近年出版された多くは電子書籍が利用可能であるが、いまだに紙の本の需要は根強い。
また、物流では包装用紙や段ボールが多量に消費される。ここ数年のネットショッピングの利用拡大も紙需要を一定レベルで下支えすると考えられる。(家計消費状況調査2021年インターネットを利用した支出の状況 (stat.go.jp)2023年 紙・板紙内需見通し報告

このように考えると、現状の産業構造から考える限りでも製紙業界が淘汰されるという可能性は低い

では、統計から見えるものから、より将来ベースの話をしていこうと思う。

産業革命以後のCO2排出量の大幅な増加に伴い、地球温暖化による気候変動リスクの増大が国際社会の大きな問題となっている。

産業革命の発端となったのは、蒸気機関による人間の範疇を大きく上回る動力装置の発明であり、そのエネルギー源として化石燃料が使われるようになった。これにより、もともと小規模ながら存在した工業技術は目覚ましい発展を遂げることになった。

さらには、20世紀になってからは、ナイロンを始めとした合成樹脂の発明により、石油化学製品が日常生活に欠かせないものになっている

一方、製紙業界では、一部燃料として石炭を使用するものの、大部分は木材が原料となっている物質を製品(紙)の原材料なりエネルギー源なりに利用している。(資源エネルギー庁 エネルギー統計

実際、製紙業界以外の産業分野は、木材などのバイオマスや再生可能エネルギーの利用方法を模索している現状である。これに当てはまるのは必ずしも製造業だけでなく、小売り、旅客などのサービス業も、省エネや「環境」のブランド化など、商機になりうる要素は転がっている。

そうはいっても、CO2排出削減目標と今日の現状は大きく乖離しているため、産業全体が削減目標に準ずるとするならば大きなサプライチェーンの代替などの大きな産業構造の変化は避けられないと考えるべきだ。(IEA Energy Technology Perspective 2023
そして、この構造変化が喫緊の社会的な課題解決として推進されれば、今後のサプライチェーンの構築には熾烈かつ過酷な競争が見込まれることは想像に難くないであろう。

製紙業界は、産業の性質上、木材という再生可能資源をベースとしたサプライチェーンが既に構築されているという強みがある。
さらには、バイオ工学の研究は、ここ20年ほど盛んにおこなれている。木材といった他の製品製造に利用が見込まれるものだけでなく、今日の製紙産業では残渣(ゴミ)として厄介ものにされているものを原料にした化学品製造が、学術研究を中心に多数報告されている。(例えば、Liu Z et al. (2021), Abdelaziz O. Y. et al. (2020)など)

したがって、既にサプライチェーンを持ちながら、既報の科学的知見に基づいて新たな経済的な価値を創造しうるという強みが、製紙業界にはあるのではないかと考えている。


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