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第21回文化庁メディア芸術祭に行ってきた #01

http://festival.j-mediaarts.jp/?_ga=2.100940417.1415404749.1529897147-1476313803.1528767525
6月23日に国立新美術館で開催していたメ芸に行ってきたので、自分用のメモとして考えたことや感じたことを書きます。

下半分はゲーム体験のデザインについてです。

個人的に興味深かった受賞作品は以下。

▼アート部門
・アバターズ
▼エンターテインメント部門
・人喰いの大鷲トリコ
・INDUSTRIAL_JP
▼アニメーション部門
・夜明け告げるルーのうた
・YIN
▼漫画部門
・ねぇ、ママ
・甘木唯子のツノと愛

「アバターズ」と「人喰いの大鷲トリコ」は製作者のトークイベントにも参加してきた。
展示ではそれぞれの作品について、現代のメデイア芸術としてなぜ評価されたかという視点がきちんと示されており、納得感と新しい価値観も得られた。
例年よりボリュームがあり、展示空間をふんだんに使ったものも多く、作品の幅も広かったように感じる。
諸々、感じたことなどを自分なりの順序でまとめてみたいと思う。


個人的に「描きたい思いがガンガンに溢れているもの」に心惹かれる


アニメーション部門より「夜明け告げるルーのうた」

大きなプロジェクターで本編が上映され、その前のスペースでは設定資料や原画などが展示されていた。
「四畳半神話大系」などの湯浅監督による、様々な妖怪・モンスターのようなキャラクターたちの設定画が鉛筆と水彩絵の具でがしがしとノートに描かれ、それぞれの個性がよく現れている。また、映画の中のワンシーンがいわゆるアニメ的なダイナミックな構図で描かれている。
自分もアニメや漫画を描くことが好きだが、絵でしか描けない(瀧本幹也さんなどは写真でも実現してみせるが)ようなダイナミックな構図やファンタジックな背景の画が頭に浮かび、ストーリーなどはどうでもいいから「とにかく描きたい!!」という欲求に駆られることはよくある。
むしろ、そのシーンを描くために周りを肉付けしていくようなことがほとんどである。
そういったエネルギーを勝手にその設定資料から感じて心が踊った。

マンガ部門より「天木唯子のツノと愛」

作者の久野遥子さんもアニメーション作家として活動しており、2013年のメ芸ではアニメーション部門で「Airy me」という作品で受賞していた。
当時多摩美大に通っていた彼女の絵は高校生の時から好きでよく見ていたが、質感やアングル、勢い、空間の描き方にとにかく「描きたい」という思いが溢れていた。Airy meなんてとにかくそれが何倍にも膨れ上がり、確かなデッサン力や色彩感覚、少々グロテスクな印象も交えながら表現されていた。

エンターテインメント部門より「人喰いの大鷲トリコ」

クリエイティブディレクター上田文人さんのトークイベントを聴いた。
彼も元アニメーターであり、「こういうシーンを描きたい」という思いを(特にモーションについて)強く持っている人で、これまでの「ICO」や「ワンダと巨像」でもそういった思いからゲームを構成していったという話があった。
「トリコ」では、巨大な動物が少年との絆を深め、苦手なもの(ゲーム中では色ガラス)を乗り越えて少年を助ける場面を描きたかったというところから、懐いていくプロセスや苦手なものをゲーム上で障害物として組み込んでいくプロセスなどを構築したという。
そういった意味でもこの作品は「あたらしいアート表現の方法」として高く評価された。

これらの作品を見て、自分の中で「描きたいという強い思いから発生した作品」が好きだということに気づいた。好きというか、自分の思考に近いからそういう形で誰かの価値観を変えるような強い力を持った作品を見ると嬉しくなるといった感じなんだろう。

ゲームの体験をデザインすること

エンターテインメント部門より「人喰いの大鷲トリコ」のクリエイティブディレクター上田文人さんのトークイベントを聴いた。
http://festival.j-mediaarts.jp/works/entertainment/the-last-guardian/
贈賞理由を下記に引用する。

"この作品が目指しているのは、架空の動物に対する心の絆という、これまでのゲームの文法とはまったく異なるゲーム体験である。そのため、プレイヤーがトリコを動物として違和感なく感じられるよう、惜しみなくAI技術がつぎ込まれている。身近に実在する動物をモデルとしたモーションや質感は、コンピュータが動かしているCG映像に過ぎないという認識を突き崩し、信頼関係を築ける存在としてトリコを意識させる。また、ゲームメカニクスはアクションアドベンチャーだが、先の展開を自然と視界に入れるカメラワークは、操作性が犠牲となることを上回る良質なナラティブ(物語)を提供している。さらに重要なシーンでは、スローモーションを使った演出が行なわれるが、アクションのタイミングや間合いによっては失敗する場合もある。しかしこの失敗も、より印象に残るナラティブとして見せるなど、これは日本でしかつくることのできない、新たなゲームのかたちと言える。(遠藤 雅伸)"

私もこの作品を一部プレイし、動画サイトで全体を見た。
発売当初(2016年)からとても気になっていた作品でもある。


まるで本物のように誤認・錯覚をしていくプロセスが感動につながる

ゲームって本当にすごいと思っていて、なぜならフィクションの世界の人物の経験を追体験できるものだから。
ある意味でプレイヤーは主人公となり、ストーリーを経ていく中で価値観が大きく変わっていくものだ。

とても長い時間の中でコントローラーを通してキャラクターを操作し、自分で物事を選択して進んでいくということは、ドラマや映画の人物に共感するといったことよりも深い体験になると思う。
しかし、深く長い体験であるからこそ、操作に違和感を感じないで続けられることや全体のデザインの統一感、心地よさ、音楽との同期など本当に様々な要素が関わってくる。
どこかで違和感を感じた瞬間にプレイヤーは現実に引き戻されてしまうのだと思った。

講演の中でも多用された「ナラティブ」という言葉がある。

「ナラティブ」とは、出来上がった物語の流れを一方的に追うのではなく、それを受け取る人の反応によって物語が変化していくような双方向的な語り方のことを指す。
語り手と受け手との距離が近く、むしろ受け手が主体となっていくようなものだ。
これは例えば新しい商品やサービスの企画、デザイン思考、「自分事化」みたいな話などでもよく出てくる言葉だが、非常に「ゲーム的」な考え方だと思う。

上田氏は、日本人は「ナラティブ」を受け取ることが上手で、世界観の見立てや入り込みが自然にできると言っていて、
プレイヤーがモニターのむこうに本当にその世界があるかのように錯覚し、入り込んでいくように設計することに抵抗が少ないそうである。そして制作の軸としてそこを一番大事にしたという。
こういったような、プレイヤーの感動から導くゲームデザインの手法を「エクステティクスデザイン」と呼ぶらしい。初耳。


自己主体感をつくる

講演の中で中心となったのは、「いかに自己主体感をつくるか」といった話だった。
そしてその自己主体感をつくるためにどんなことをしたか、という話が紐付いてくる。

ゲームはプレイヤー主体で進んでいくものではあるが、きちんとストーリーとして導きたい方向がある。
ここで一方的にプレイヤーの自由を制限せず、意図する方向に進んでくれる可能性をどれだけ高められるか。
トリコではそういったことが非常によく設計されていると上記引用の遠藤 雅伸氏が話していて、
例えばムービーの中だったりの画面の端に、ストーリーの先に出てくるものを微妙に入れていくことでプレイヤーの無意識に働きかけて導くようなことをいくらか入れているらしい。
道にライト一個を置く位置を変えるだけで、意図とは全く違う方向へ進んでしまうのもよくあることだから、とにかく何度もテストプレイを重ねなければいけないのだという。


自由度が高いような気にさせる

そして面白かったのは「レベルのデザイン」の話。
「レベル」とはゲームの難易度のようなことである。

「誰でもクリアできるけれど、誰がやってもギリギリになるのが理想」という言葉がとてもわかり易いと思ったのだが、
意図する方向へ導くためにも、敵や障害物のレベルの調整が非常に難しいのだという。

例えば高くおそろしい崖を置く場合。
それがおそろしすぎると、プレイヤーが自分たちの思ったとおりに進んでくれない。
そして安全すぎると、一気に興ざめするプレイヤーが出てくるのだそうだ。
失敗がないこと、安全が保証されていることはリアルではないからである。
だから「トリコ」では、プレイヤーがいつでもトリコの背中に乗ったり降りたりできるし、エサをあげるときもちゃんと食べてくれなかったりする。そういう"失敗のリアルさ”があることで、よりプレイヤーの中で成功への探究心が高まっていく。
そうして、自由な世界の中でもプレイヤー自らが選択肢を絞っていくのだという。

また、今後はプレイヤーの挙動によって難易度が変化するといった手法や、ゲームオーバーがなくても緊迫感やリアル感を演出する方法を模索していきたいという話もあった。
生き物がたくさん死んだり、争いが起こらずとも進んでいくゲームとしても「UNDERTALE」や「Moon」といった作品は有名だが、それはこれからの時代にとても合っているなと思う。


「アバターズ」に関してのことをまた次回に書いてみようと思います。

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