やじこ

言葉と短歌

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ちっぽけなフィッティングルーム

フィッティングルームを出たら春がいて短い丈もいいねとわらう 転んだと思ったきみはしゃがんでて四月のような跳躍力で だんだんとずれていくのがわかるでしょ春の言葉はあぶなっかしい 牛乳とパンを頼まれていたのにパンと卵を買って帰った 世界には25人のぼくがいてとくにねむたいぼくがぼくです 下水から溢れた意味の洪水も逆さにすればやわらかな雨 帰りますって書いてから二年間帰っていない人のため息 エンジンが止まり世界は黙り込む鼻水をすする音だけ響く さびしさやうしろめたさ

    • 丸めたティッシュくらいの柔らかさ

      たくさんのいい人たちに囲まれてそれは違うと言えなくなった 天国は遠いんだってそれだけで憂鬱なのにバスも来ません 明日食べるパンとか落ちたペンだとかどこまでぼくかわからなくなる 微笑んだような気がして人類は揺らめくものを見つめてしまう 食パンは死ねないくらい柔らかく誰も飛ぼうとしなければいい 細マッチョ的なフォルムで湯をわかす新品のガスコンロの炎 「いや、ぼくはあんまり飲めないんですよ」扉の閉まる音が聞こえる ぼくたぶんきみになれない 傘の柄が折れてしまった木曜の

      • 負けないまぶた

        邪魔者として道にある倒木に倒れたわけなど聞いてみる朝 スピードを出せば寒いよ だけどこのままじゃ春まで辿り着けない 乗っているだけの電車で側道を走る車を追い越している 玉手箱開けず仕舞えば誰ひとり語らなかったほうの太郎だ はじめからなぜか信頼してくれて煮干しを一匹分けてくれます さみしい、と冬は泣いたりしませんがカーテンの裏にこぼれた結露 何年もかけて集めたハチミツできみと小指を光らせている ことごとく裏返しだよ靴下もシャツもパンツも

        • 臆病なメッコ

          生まれつき臆病だったシマウマがかすれた縞を塗り直してる 空中で二回転半ころがって気づけばきみのとなりに着地 きっと夢みたいな言葉かけているあいつが若いワニとは知らず 充電が必要そうな顔をしてああワイヤレスだったねきみは コンビニを出ればシーンは切り替わり  大事なことは何だったっけ その花を見ればマリメッコと思うマリとメッコが飛び跳ねている 強いって言われるために編み出したポーズ誰にも見せずに春だ これはいいこれはだめだと決めたのに迷

        ちっぽけなフィッティングルーム

          星を捕る人

          安心なイソギンチャクはいませんかぼくと一緒に暮らしませんか 立ったまま眠る男の取り壊し工事が膝から始まっている しあわせな私のためにこの帽子一杯分の海をください しなかったことをノートに羅列してお昼ごはんにポテトを食べる シロナガスクジラはちょっと大きすぎぼくの網ではすくえなかった 心臓にいくら投げても届かない衛星軌道に入ってしまう 背中からぱっくり割れて虹色の羽化がはじまる気配の猫背 古ぼけたボールが床に落ちていて投げても波に押し戻される 球場を後ろ向きのま

          星を捕る人

          生真面目なソフトクリーム

          勇敢な人は右手に先端の尖ったソフトクリームひとつ 右胸の古い家屋が壊されてまた安い駐車場ができた 駅前で見かけた銀のたてがみが生真面目なことばかり言ってる 地球から採取してきた植物の中に紛れて一輪の傘 本人も知らないとこで店長に謝っているコピーロボット 変わらないべつに何もという顔で趣味の話を続けるゾンビ 矢印じゃなかったようで ただのシミだったみたいで 電車がこない だからって傘は忘れたわけじゃない雲の上では必要ないし 地球よりずっとゆっくり落ちてくる月の雨

          生真面目なソフトクリーム

          飛んでるほうが好き

          足が地に着かない年のはじまりにいっそ月まで泳いでみるか 寒い日にそれは突然やってきて知らない朝を残していった がに股のコウモリはぶら下がるより飛んでるほうが好きなんだって 手も足も出ないくらいに偶然はちりばめられてスープが冷める だからって捨てちゃ駄目だよ歯磨きの丸めたチューブみたいな背中 すべらないように歩けばすべらないわけではないと白くまが言う たくさんの愛をもらったそんな顔してる中身は何か知らずに 今ここで叫ばないという決断を下してぼくは歩き続けた 教室

          飛んでるほうが好き

          毒のない名刺交換

          屋根のない観光バスがやって来てぼくは異国の朝になります 私にも社団法人日本鳩レース協会にも吠える犬 腕を組み見知らぬ秋のおじさんと並んで次の電車を待った バラバラにならないように休みなく街を縫合する列車たち せっかちな犬に生まれた友人は見境もなく恋をしている 街中をくまなく探してみたけれど脇役なんていないじゃないか のぞけないのを好いことに雲の上にくだらないものばかり集める 天国へ続く階段踏み外したけど踵の骨折で済む 毒のない嘘

          毒のない名刺交換

          楽しげな沈黙

          楽しげに光っているのは夕立に閉じ込められた車たちです 大声は出しちゃだめだよ驚いたあの子が海へ帰ってしまう 改札の手前で少し立ち止まり空の広さを確かめている あるんだよどこかに夏のあいだだけ青の時間が長い信号 「飛行機と星を見分ける方法は?」「並んで飛べばきみも星だろ」 親しみを込めて名前で呼んでみる 風は返事をしませんでした しっぽからささやいてみるチョココロネあの子に声を届けておくれ ★★ 寂しいという感情を3Dデータで公開

          楽しげな沈黙

          猫舌に勝てない

          ひとくちで丸呑みにしたさよならがお腹の中で余計さみしい 病院の待合室に空がありぼんやりと皆それを眺める 太陽の角度をいじり人類を指定の影に追い込む遊び 加熱してあるからこれは安全な夢だお腹もゆるくならない 熱帯夜を乗り切る秘訣「羊たちの毛は短めに刈っておくこと」 触っても熱くないのに光ってて穏やかだけどちょっと寂しい 人類は影に集まる習性がありと天使の自由研究 猫舌のきみに勝てない冷めるまで待てば良いこと知っているから 言い訳を

          猫舌に勝てない

          むずかしい流星

          夏はそこまで来てるのに足音が聞こえないのは土砂降りのせい? 雨の日もサンダルはいてあの人は花の名前を知っているひと 飲み干した海の匂いを思い出し満足そうなきみの横顔 死にきれぬ者たちの手が掴むのにほどよい細さの足首ですね 上履きのかかとも踏み潰せないまま大人になって良いのでしょうか むずかしく考え出すときりがなく5個いっぺんになめた流星 靴底は外側ばかりすり減ってあなたの顔のような足跡 何気ない天気の話もできなくて足が遠のくおじさんの

          むずかしい流星

          バターにもなれない

          歯磨き粉出荷停止の報道に浮き足立ったシロサイの群れ 神さまが一本くらいと引き抜いたビルに住んでたきみに会いたい ケイコクと間違わぬよう、ジュウヨウは鼻が冷たく湿っています すみっこで頭掻いててまあたぶん気が合いそうな眼鏡の他人 おやあれは下りのエスカレーターと一緒に吸い込まれた弟 イエローの蛍光ペンで覆われる前に大事な言葉を隠す いつまでも夜が来ないと大人たち白い顔して海に集まる 同じ場所ぐるぐる回り続けててまだバターにもなれないぼく

          バターにもなれない

          オレンジの遠心力

          冗長なプロローグなどいらないと愉快な音でやってきた朝 人生を重ねてみたりしないことクロワッサンは月より軽い 連れてってくれとも言わず暗闇はソファの下でじっとしている 白線の内側を行く行進はメトロノームの針の確かさ オレンジの遠心力が目が染みる カーブはだめだって言ったのに 知り合いになった覚えのない犬が連絡先の先頭にいる ゆっくりときみの眠気は連鎖してやがて地球も自転を止めた バランスを崩して落ちたふりしても雲の上まで連れ戻される

          オレンジの遠心力

          世界一孤独なくじら

          朝焼けの返却ポストに眠れない誰かの夢が放り込まれる 日曜日 猫はせかいを知らないと誰も責めたりしないんだから 世界一孤独な鯨の周波数 51.75Hz やさしさを裏返したらハリネズミ2匹出てきて君になついた 忘れ物でもしましたか口開けて空を見上げて立ち止まる春 やわらかい夢がはじけた瞬間にひざの上から猫がこぼれる お返しはなあにと君は雨のなか傘もささずに立っているのだ 悲しいかバウムクーヘン切り口は鮮やかなのにこんなに甘い 美しい六角形

          世界一孤独なくじら

          知らない結末

          群れに身を任せただけの牡羊を無罪と証明できるだろうか さみしいと冬は泣いたりしませんがカーテンの裏にこぼれた結露 むすばれた指をほどいちゃいけないよ すぐに大人になってしまうよ 契約を結ぶふりして逃げ出した 火の輪くぐりは嫌だったので トイレットペーパーの芯から覗く君の睫毛は僕に似ている 靴ひもを結ぶふりして休んでる若い天使を見逃す女神 理解したふりをするからまた君は知らない青に戻ってしまう チケットを買う客たちに結末をそっと耳打ちしてくれる猫 守れずに泣いた

          知らない結末

          ビー玉の惑星

          大勢の買い物客が押し寄せて去ってゆくのを見守る床屋 放たれたまま永遠に飛び続けてる弾丸のように眠たい さみしさを押し出すようにいっせいに灯った街のあかりを見てる スピードを上げてく夜の訪れに追い立てられて傘を忘れた たてがみを失くしてしまったライオンが大きな猫のふりして眠る 現在地(赤い印)を見失い手のひらの上で迷子になった 日に焼けて赤文字だけが消えている看板みたいな告白だった ビー玉がこぼれてできた惑星に移住してきた5匹のヤモリ

          ビー玉の惑星