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ヤジ排除、警察庁による怪しい指示書が発覚

 今日(8/24)付の朝日新聞に、ヤジ排除に関連した道警への情報公開請求の結果が載っていました。

https://digital.asahi.com/articles/ASM8R5JD8M8RIIPE011.html

 その内容は、今回の首相演説に関しての(ヤジ排除含む)警備体制が、警察庁の指示のもとに行われていたと言えそうなものだったので、それについて取り上げたいと思います。有料登録が必要なので、こっそり転載させてもらいます(朝日さんごめんなさい)

道警警備方針「政治的中立性に配慮」 ヤジ排除前に通達
2019年8月24日10時08分

 札幌市で7月、安倍晋三首相の街頭演説中にヤジを飛ばした市民を道警の警官が取り押さえて排除した問題で、警察庁や北海道警が事前に決めた参院選の警備方針の一部が23日、分かった。「警護に当たっては、警察の政治的中立性に疑念を抱かれることのないよう十分配意すること」などが盛り込まれていた。道警は朝日新聞の取材に、排除した問題について「事実確認中」と繰り返している。

 街頭演説の警備の態勢や方針についての内部文書を、朝日新聞が道警に情報公開請求した。道警は23日、選挙違反の取り締まりや警備の「諸対策」などについての文書8点35枚を開示した。ただ、詳しい警備の配置などは「警察活動に支障が生ずるおそれがある」として、該当する箇所は黒塗りだった。
 開示文書のうち、警察庁警備局長から全国の都道府県警のトップなどに宛てて出された6月26日付の通達には、参院選の警備の方針が書かれている。
 通達によると、警護などの徹底として「社会に対する不満・不安感を鬱積(うっせき)させた者が、警護対象者や候補者等を標的にした重大な違法事案を引き起こすことも懸念される」と記載。そのうえで「現場の配置員には、固定観念を払拭(ふっしょく)させ、緊張感を保持させてこの種事案の未然防止を図ること」と記してある。

 一方、留意事項として警護について「警察の政治的中立性に疑念を抱かれることのないよう十分配意すること」とした。取り締まりなどは「人権侵害や選挙運動等に対する不当干渉との批判を受けることのないよう、その方法の妥当性に十分配意すること」とある。
 これらと同じ内容の通達は6月28日付で、道警警備部長から道内各署の署長らに宛てても出されていた。
 ヤジを飛ばした市民を排除した問題が起きたのは、通達が出された半月後の7月15日の夕方だった。
 JR札幌駅前で安倍首相の演説中、道路を隔てて約20メートル離れた位置にいた男性1人が「安倍やめろ、帰れ」などと連呼した。別の場所にいた女性も、年金問題に触れた首相に「増税反対」と叫んだ。いずれも警官数人に取り囲まれ、体をつかまれて移動させられた。
 警察庁や道警本部の通達と、今回の市民の排除との関係性について、道警は取材に対し、「事実確認中でコメントできない」と回答した。(伊沢健司)

固定観念を払拭

 まず、この記事における注目ポイントはここです。

「社会に対する不満・不安感を鬱積させた者が、警護対象者や候補者等を標的にした重大な違法事案を引き起こすことも懸念される」

 これは、素朴に読むならば、暗殺などのテロ等の可能性がほのめかされていると思って良いと思います。個人的には、「社会に対する不満・不安感を鬱積させたもの」という部分について、「そりゃお前らによって不満と不安が生み出されてるんだろ。なに他人事みたいな言い方してんだ」と思わなくもないですが、とりあえずスルーします。

 続いて「現場の配置員には、固定観念を払拭させ、緊張感を保持させてこの種事案の未然防止を図ること」とあります。これは、各都道府県警本部長宛に出されているものと思われるので、現場のボスが、部下である警察官の「固定観念を払拭させ」、「重大な違法事案」を「未然防止を図る」任務を負っているということでしょう。

 さて、ここでの「固定観念を払拭」というのは、なんのことでしょうか。これはあくまで警備に関する話ですから、普通に読み解くならば、「これまでは取り締まりの対象としなかった行為にあっても、取り締まるべきだ」、あるいは「これまでとは違うやり方で取り締まれ」という風に読み取れます。
 では、いったい何を取り締まるつもりなんでしょうかね?「ヤジはこれまで取り締まりの対象ではなかった」という事実が脳裏をかすめます。上の文章では「重大な違法事案」という言葉が使われているので、「やっぱテロとか暗殺とか…?」と思ったりもしますが、ここは与党の政治家が「デモはテロ」と豪語するような国なので、なにも信用できません(ちなみに、ここでの「重大な違法事案」に公職選挙法違反は含まれないと考えますが、その理由は後で述べます)

「絶対に押すなよ!」というアレ

 それから気になるポイントの2つ目は、「警察の政治的中立性に疑念を抱かれることのないよう十分配意すること」です。これは記事の見出しにもなっていますが、このチョイスはちょっとセンスがよろしくないのではないかと思います。というのも、警察組織が「政治的中立性に疑念を抱かれることのないよう」ということをわざわざ言う場合、そこには「政治的中立性に疑念を抱かれることをこれからしますからね」という意味が含まれているわけです。後ろに続く、「人権侵害や選挙運動等に対する不当干渉との批判を受けることのないよう」というのも同様。ダチョウ倶楽部的なアレです。

 簡単にいえば、「ヤバいことをやるわけだが、『ヤバいことやってる』と勘ぐられないようにうまくやれよ」ということです。あるいは、せいぜい今回のような情報公開請求を受けた時に「いや、政治的中立性については気をつけるように注意しましたよ。私たちは」というエクスキューズ(言い訳)のための文言でしかない、と思います。

 上の二つをまとめると、「これまでと違う取り締まりをしろ。そしてそれは政治的中立性について疑念を抱かれるような行為なので気をつけろ」という風に読み取れるわけです。いくらなんでも、怪しすぎないですかね。

担当は警備・公安警察

 それから、もう一つ注目するべき点。

 記事で取り上げられているこの通達は、「警察庁警備局長から全国の都道府県警のトップなどに宛てて出された6月26日付の通達には、参院選の警備の方針が書かれている」とあります。そうすると、ここで出動している警察も、一般の刑事ではなく、警備担当の警察ということになります。

 ここでまず押さえておくべきポイントがあります。それは、今回のヤジ排除について何度も話題になっては否定されている「公職選挙法違反」という疑惑が、ここでも否定されていることです。なぜなら、公職選挙法違反についての取り締まり部署は、警察庁の刑事局捜査二課であり、今回の通達はそれとは全く別の警備局長の名前で出されているからです。上の文章で登場した「重大な違法事案」という言葉が公職選挙法違反を想定していないだろう、という解釈もこれによります。部署が違うのです。

 そして、警備担当がここで出動する理由があるとすれば、その活動の根拠は、要人に対する「警護」ということになります。警護についての規則を、原田さん(道警元幹部)の「論座」の文章から拾って見てみましょう。


警護」は警護要則(国家公安委員会規則)に定めがある。その3条に「警護は、警護対象者の身辺の安全を確保することを本旨とする」とあり、さらに「警護の実施に当たっては、警護対象者の意向を考慮しながら諸般の情勢を総合的に判断して、形式的に流れることなく、効果的かつ計画的に、これを行うようにしなければならない」とある。警護対象者とはこの2条に「内閣総理大臣、国賓その他その身辺に危害が及ぶことが国の公安に係ることとなるおそれがある者として警察庁長官が定める者」となっている。

 「警護」の対象者は、おおむね総理大臣や、海外要人となるようですが、これっていわゆるSPの仕事なわけです。SPは、基本的には(要人が沢山いる)警視庁の警察官が担当しますが(警視庁警備部警護課)、地方に出向く時などは、現地の警察の警備部からも配置されることになるようです。これも原田さんの文章からの孫引きになりますが、道警の場合は警備部公安二課が担当とのことです(大もとの出典は、北海道警察の組織に関する規則、第26条の2)。いわゆる公安警察です。

 そして、いずれにせよヤジやプラカードの排除は、「身辺の安全確保」が主であるSP・警備部の仕事の枠外にあるので、おかしな話ではあります(これは上の原田さんの文章で書かれているので、繰り返しません)。実際、あの日に排除された人のうち、誰一人として手荷物検査や職務質問などを受けていないことからも、不自然さが目立ちます。もしも私たちが実際に首相に危害を加えそうだと警察が判断したのであれば、もう少しやるべきことがあるんじゃないでしょうかね。法律に従って仕事をしない警察官はこわいです。

まとめ

 今回、公開された原本に目を通したわけではないので断定はできませんが(そもそも黒塗りも多いそうです)、パッと見た印象では、「やはり警察庁の働きかけがあったことが、今回のヤジ排除につながってるんじゃないの……」というのが、現時点での感想です。元々、道警単独の行動(暴走)ではないと私たちは思っていますが、その仮説を補強こそすれ、否定する内容ではなかった、ということは言えるでしょう。
 開示されたこの文書をなんらかのルートで入手することができたら、また詳しいコメントを発表したいと思います。

追記(2019年8月26日)文書アップされています!

 なんと、個人(?)で道警に情報開示請求していた方が、その画像をネット上にアップしていました。請求した範囲が広いのか、朝日新聞のものよりも枚数が多いようです。内容は今後、精査したいです。


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