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(ネタバレ感想)ある意味読む睡眠導入剤「おやすみプンプン」

 

はじめに

  
 最近色々な漫画が期間限定全話無料キャンペーンをやっているので、いくつか読んでみました。
 どうも年々読解力が減りつつあるので、ほとんど最新話までたどり着けずにリタイアおよびタイムオーバーしている。
 先月は「K2」が面白くて読み進めていたのに、ハマるタイミングが出遅れて一也くんが大学に入る前に期間終了して悔しい限り。宮坂さんとのムズキュンなやりとり楽しみにしてたのに。
 そんな中、全話読み切ったのが七夕から二日間限定公開されていた「おやすみプンプン」は最初から最後まで読了できた。

 K2とプンプンどっちが好きって訊かれたら、お医者さんが全員良い人のK2の方が断然心の健康にいい。なんでK2を引き合いに出したプンプンの感想かといえば、逆方向から心落ち着ける内容だったから。
 よく、ちょっと気分がどんよりしているときに明るい内容のフィクションを見ると逆に落ち込むので暗い内容の方がデトックスになるみたいな効果をきくと思いますがまさにそれです。
 ホラー映画の「ミッドサマー」も賛否両論あって、好きな人は好き胸糞な人は胸糞と分かれる感じに似てると思います。
 Twitterでは読んでいられなくなった人が多いっぽい「おやすみプンプン」私はほどほどにハマりました。読むのが不快なのに読むのが辞められない人に共感できます。
 
 ↓それでは以下内容と雑感↓
 

サブカルクソ概要


 「おやすみプンプン」は浅野いにお先生がヤングサンデーと移籍後スピリッツで連載していた青年漫画。
 内容はちょっと暗い目の日常系から、だんだんとサスペンス的な展開になっていくヒューマンドラマ。
 主人公プンプンは、小学校のころから思いを寄せていた女の子と自動車教習所で再会。幼いころの約束を果たすために二人で愛の逃避行。作者曰く「甘酸っぱい青春ラブストーリー
 大筋だけだとロマンチックですが、小学生編・中学生編・高校生編・青年編で140話以上かけてクズと鬱で煮込んでくるので気が滅入ります(誉め言葉)
 昔の漫画だとジョージ秋山先生や山野一先生の作品と比べたら陰鬱度悲惨指数はマイルドだと思います。「四丁目の夕日」が100なら「おやすみプンプン」は50くらい。絵柄の可愛さや軽いギャグが和らげてくれます(たぶん)
 浅野先生がおやプンを甘酸っぱいラブストーリーとおっしゃることに嘘はないけど、甘酸っぱい成分が胸の悪さにこみ上げる胃液の甘酸っぱさ。
 
 

読むきっかけ


 だいぶ前に同作者の「ソラニン」という漫画がヴィレッジヴァンガードでプッシュされていて、全二巻で読みやすかったのがきっかけです。ソラニンは割とさわやかで前向きな結末だったのに、おやすみプンプンの方は噂によれば救いがないとか読めば心を病むとか言われていて逆に興味を持ちました。
 お噂はかねがね……と読み始めてから、止まらなくなりました。かっぱえびせんか。怖いもの見たさで鬱展開を楽しみにするか、展開に救いがあることを願って読むかで印象が違うと思います。
 私も前評判を知らずに読んでいたら登場人物全部ムリと思っていたでしょう。ごめん、全部はうそ。
 最近だと「タコピーの原罪」みたいな心理効果で読んでいました。タコピー鬼つええどころかプンプンクソ弱えぇ展開ばかりでしたが(コケピーと混同)
 
 

 おおまかな感想


 さほどバッドエンドでもなくハッピーエンドでもないところが胸にストンと落ちました。終始なんとなく邦画を見ているような雰囲気。背景作画が写実的だから余計にそう思います。
 現代小説のフリーター文学みたいな人物描写が特徴。15年以上前の漫画だけど女の子の着てる服や髪型が女性向作品よりおしゃれ。
 ラストはプンプンの主観カメラじゃなく、久々に再登場した小学校時代の友人だったのが印象的でした。
 作者はあれはトゥルーエンドじゃないとおっしゃってるそうですが、だとしたら分岐エンド?
 サブカルクソ感想になるけど絵柄や表現技法がクセになり、羽海野チカ先生のファンシー感と小谷実先生のおぞましさが同居しながら「このコマだけうすた京介先生が描いたんやろか」と思わせるシュールなゆるゆる絵が差し込まれるのが見てて飽きなかったです。
 時々出てくるブスとキモ男がリアルでこういう奴いるいると思いながら読むと楽しいです。
 
 
 
 

おやプン最大の特徴


 本作品のシンボルというか最大の特徴は主人公が人間の姿をしていない点にあります。
 主人公と(祖父除く)彼の親族は、落書きかヒエログリフの小鳥みたいな恰好で描かれています。作者編集者の意図は、主人公の造形を簡略化することで読者に感情移入しやすくさせる効果があるそうです。
 エッチなゲームとかでも主人公のプレイヤーキャラがのっぺらぼうだったり体が透けたりなるべくイベントスチルの中に入れない表現があるのに似てます。
 実際のところこんな連中に自己投影なんざしたないわレベルでドロドロした展開が出てきますが、そういう時は可愛いマスコットとして見てると気がまぎれます。
 小学生編は小鳥のような姿のプンプンですが、成長するにつれて精神状態の変化で顔の描かれたピラミッドになったり鱗滝左近次さんみたいなひょっとこになったり、首から下はすらっとした青年の姿で描かれた異形頭だったり様々。
 
 

Twitterで苦手な人が続出する理由


 「おやすみプンプン」でググるとサジェストに「読まない方がいい」と出てきます。暗い展開とちょくちょく出てくる性描写にうんざりする人がTwitterで後を絶ちませんでした(無料公開期間まで)。
 しかし読んでいられない真の理由は、鬱展開というより現実的なのに登場人物に共感できないからだと。美男美女の割合は少ないのに、どいつもこいつもリア充で貞操観念がゆるい。稀にまともな人が出てくるけどそういうキャラほど報われない。うまい例えが見つからないけど、週刊少年マガジンのラブコメあたりで急な進展があると興ざめしてしまう感情に似ているような。
 ちょっと別作品の話を挟みます。
 お恥ずかしながら私は矢沢あい先生の「NANA」を読み切れなかったありがちなオタクです。
 教室でみんなと回し読みしていて、何が面白いのかわからずフェイドアウトしてしまいました。
 キャラに共感できないのはもちろんのこと、バンドマンたちのサクセスストーリーを観測していてもこれからどうなるんだろうワクワクとならない。
 プンプンリタイア勢も、そんな感じで何を楽しみに読みすすめればいいかわからなくなったにちがいない。
 あともう一作品読むのを中断してしまった少女漫画が「彼氏彼女の事情」で、これは途中まで好きだった漫画だけに後半のジェットコースター展開と有馬君の闇をなかば強引に光へ導こうとする展開にげっそりしました。
 NANAにせよカレカノにせよ批判ではなくただノットフォーミーだっただけなので両作品は名作です。しかし例に挙げた二作よりおやすみプンプンは読み心地よかったです。欲望に忠実な人間を道化として描かれているから逃避ができるのでしょうか。青年漫画でしか描けないお下劣ギャグが挟まれてるおかげか。
 
 
 

作中の修羅場がしんどい


 おやすみプンプン各章ごとにある修羅場とすれ違いが鬱作品たるゆえんですが、中でも読者のトラウマと呼び声高いのが中学生編で不倫に巻き込まれるプンプンのくだりと思われます。
 
 まずプンプンは小学生の頃に両親が別居し、しかもお母さんはDVの怪我で入院。退院までに彼女の弟さんがプンプンの面倒を見てくれます。
 その小野寺雄一おじちゃんはプンプンの好物のおやつを買ってあげたりご飯作ってあげたり悩みを聞いてあげたりと優しいおじちゃんですが、内面はメンタル弱くマイナス思考。
 雄一さんが弱いというよりは過去に職場で起きた殺人未遂事件を目の当たりにして心が弱ってしまったのが回想で判明。自分のことでいっぱいいっぱいなのに姉に振り回され甥っ子の世話をしなければならないので不憫です。
 雄一さんは喫茶店で働く翠さんという女性と出会い恋仲になります。翠さんは元看護師で以前プンプンママの看護をしていた気立てのよい女性。セクシー美女とかではなく、化粧っけのない真面目そうな風貌をしています。
 翠さんは雄一さんの心の支えになろうと懸命に努力しますが、雄一さんは内に閉じ籠るばかり。しかも衝動的に家庭ある女性と不倫し行方をくらまします。
 芯の強かった翠さんですが、これには心挫けて雄一さんが帰ってくるまでに彼女も間違いを犯してしまいます。
 なんと当時まだ中学生のプンプンに気の迷いで慰めを求めてしまうという。
 プンプンは拒みましたが、女性に乱暴なことは出来ずに好きでもない相手と一線超えてしまいます。
 チェンソーマンで姫野パイセンが泥酔お持ち帰りしてもデンジくんにやらなかったことを最後までやらかしてしまったら読み手を選ぶと思います。
 もともとおねショタジャンルじゃないのに大の大人が少年を性搾取したらそら拒否反応でますよね。
 なんでそんなことする前に翠さんは雄一さんと別れなかったのか。「この人は私がいなきゃダメ」的な責任感で離れられないんならなんで甥っ子に手を出した?という疑問が残り。
 とどめは後日わざわざプンプンに雄一さんとよりを戻して婚約したことを告げる翠さん。なんて自分本位な。
 本来無関係だった痴情のもつれに巻き込まれた経験は、その後のプンプンの人格形成に悪い影響を与えます
 
 

たまに出てくる割とまともな人


 小学校から成人まで暗い出来事を味わっているうちにじわじわ屈折していったプンプンと愛子ちゃんですが、決して孤立無援というわけではなく手を差し伸べてくれた人はいました。
 中学時代編に出てくる愛子ちゃんの彼氏矢口先輩や、プンプンと同じ高校に通う蟹江梓ちゃんあたりはスれたところがない良い子です。
 とくに矢口先輩は登場する作品を間違えたようなナイスガイ。イケメンでバドミントン部のエースができるほど運動神経抜群だけど、それを鼻にかけることはなく努力家かつ後輩思いで裏表がありません。「君に届け」みたいなそういうさわやか少女漫画に生まれ出てきたらよかったのに。恋敵であるはずのプンプンも矢口先輩の気さくさに触れ、先輩になら愛子ちゃん任せていいと思うほど。
 あるとき矢口先輩は愛子ちゃんがまだプンプンに未練があることに気が付くけど、それでもプンプンにマイナスの敵対心は抱かず県大会で優勝したらプンプンから愛子ちゃんをもらうとスポーツマンらしい宣言をします。
 だけども矢口先輩の光属性は恵まれた環境による純粋培養。彼の母親は息子ラブで、母親から虐待を受けている愛子ちゃんとは真逆の家庭。
 結局矢口先輩は試合中の怪我がたたって県大会優勝はできず、愛子ちゃんは「一人で盛り上がってバカみたい」と彼氏に愛想をつかします。
 それ以降矢口先輩の出番はフェイドアウトしましたが、再登場したらしたでやさぐれてないか心配です。幸せになってほしい。
 プンプンとイイ感じになりかけた蟹江梓ちゃんも真面目なお嬢さんで、デート中の出来事を機に破局します。
 初デートのその日は、病を患ったプンプンママの手術がありました。そんな大事な日にデートしてる場合かと蟹江さんはプンプンを咎めますが、プンプンは過去に振り回されてきたせいで血を分けた母親を愛せません。
 「おやすみプンプン」の好きなところは、育ちのいい子が毒親育ちの陰キャを助けられないようなシビアな展開です。自分がカレカノ読めなくなった理由が改めてわかりました。
 また「彼氏彼女の事情」の話ですみませんが、カレカノは主人公の宮沢さんが持ち前の真っすぐなひたむさで彼氏を幸せにします。彼氏の有馬君は陰惨極まりない家庭環境と過去のトラウマで病み散らかしているのに、少女漫画ゆえのご都合主義で最終的に救われます。大人になった今では”読者年齢層の低い漫画だし、ハピエンに向かってパワーインフレくらいしまっしゃろ”と割りきって考えられますが、どうも多感な時期に読んだせいでモヤったみたいです。
 

 結末のネタバレ


 鬱漫画と呼ばれるだけあって結局プンプンと愛子ちゃんは二人で幸せつかむことはできません。明るい未来を描いて笑いあったシーンもありましたがかないませんでした。
 愛子ちゃんのママを共同で手にかけ、現場から逃走を図ってしまい後戻りできなくなりました。
 カルト宗教狂いで毒親の愛子ママは二人の同棲を認めず、自分を捨てるのかという怒りで我が子を刺し殺そうとします。それに対する過剰防衛なので計画的な犯行ではありません。
 二人は小学校のころ一緒に鹿児島へいく約束をしましたが、8年の時を超えて果たした経緯が罪を犯したあとです。
 逃げ隠れする日々に疲れ、罪の意識と将来の悲観に愛子ちゃんは自ら命を断ちます。皮肉にも、自分を苦しめ続けた母の後を追う形になってしまいました。
 プンプンは自殺に失敗し、搬送先の病院で警察が事情聴取に入ります。
 最終回は2話続けたそこから数年後のエピローグ。
 プンプンの友人で小学生時代転校したっきり交流の途絶えた晴見くん。すっかり大人になった彼は小学校の教諭として働き、婚約者もいる模様。イヤーな上司に圧をかけられたりもしていますが、まっとうに暮らしています。婚約者もちょっとウザいところはありますが、高校時代から大事に大事に純愛を貫いてます。
 ある日晴美先生は、名前の思い出せない小学校時代のクラスメイトに街中でぱったり再会。そのまま軽く身の上話。クラスメイトは子持ちのようでしたが、晴美先生が問うてもあいまいな返事。どうも彼は年上女性のヒモになって連れ子の面倒を見ているらしい。なぜか片目には傷跡があります。
 結局晴美先生は名前を思い出せないまま旧友とその場で別れます。
 名前も姿も忘れてしまっているので、晴美先生はそれが出所したプンプンだと気が付かないままです。
 クライムサスペンスから淡々と流れる日常に逆戻り。
 
 

バウムクーヘンエンド


 最終的に、プンプンを救った相手は南条幸さんという同じ高校の先輩。
 彼女は小学生編にちょこっと登場して、高校生編で蟹江さんとのデート中に再登場。本格的にプンプンと接点を持つのはフリーター編のスナック。サバサバして面倒見がいいお姉さんですが、 実はバツイチ整形美人でせっかく入った名門大学も中退しちゃった色々複雑な人。それだけでなく前夫との子供を身ごもっている。
 プンプンが事件起こして行方不明になっても、身重の状態ながら彼を探しまわる姿は健気です。
 堕胎できずに生まれた娘さんは、その後プンプンを父親だと思っているかのように懐いています。なんだかこのあたりの設定は洋画みたいな雰囲気だと思いました。
 読者の賛否が分かれたのは、愛子ちゃんにはプンプンしかいないのにプンプンにはなんだかんだ幸さんや彼女をきっかけに仲良くなった友達が残っている格差も一因かと。
 コブつき幸さんと前科者プンプン、欠けたものを補い合うような間柄になったけど、それは共依存で彼らにこれからの苦難を乗り越えるだけの精神力は残って無さそうに見えます。
 
 

サブカルクソまとめ


 「おやすみプンプン」心の弱い人は読まない方がいいという評判だけども、心のクソ弱い私でも息継ぎなしに一気読みできました。ちょっと落ち込んでいる時に読むのに適した漫画です。だいぶ落ち込んでいるとか心に元気がない時は確かに毒です。逆にコンディションが良い時に読むと、たぶんリア充だらけの雰囲気オシャンティ漫画に見えるかもしれないです。
 暗い内容と言えばバッドエンドで有名な「ミスミソウ」も読んでみたんですけど、集中力途切れて惨劇の数々とキャラの死にざまがシリアスな笑いに見えてきてすみません(懺悔)そんな本能寺の変みたいに焼き討ちなさらんでも。
とにもかくにも、タイトルにおやすみが付いているだけに、読後の虚無感でぐっすり眠れる一冊です。
 


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