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【掌編小説】Statue(スタチュー)

”銅像”に呼び止められるとは思ってもみなかった。

12月。クリスマス。吐く息は白い。
亜熱帯の香港にだってちゃんと冬はあるのだ。
29歳を迎えたその年、トレーニーに応募し春から1年の期限付きで現法の人事部で働いていた。

尖沙咀の人材紹介会社に行った帰り道、
女人街を抜け旺角站へ向かう途中。僕は呼び止められた。

「喂(wai)、日本人(yat bun yan)」

大道芸人だろう。
全身銀色のカウボーイが銃を撃つポーズを取ったまま、微動だにせず前方一点を見つめていた。

気のせいかと思って歩き出そうとした時、彼は僕の脳内に直接語りかけてきた。
足が動かず、目を離すことができない。

「日本人。この街で何を見てきた?お前の求めるものは、見つかったか?」 

僕は戸惑いながら答える。
「わからない。でも、帰ったら、家族を持とうと思う」
「家族か。でも死ぬときはひとりだ。」

以来、二度と彼には会うことができなかった。
旅の終わりが近づいていた。


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