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ポンコツ新人薬剤師から人生を変えた勉強法

・頭の良いかどうかは、才能でほとんど決まる
・頭が良くない人は頑張っても結果がでない
・自分は勉強の才能に恵まれなかったから仕方ない

こんなことを思った経験はないでしょうか。
これは全て、過去の自分が思っていたことです。

今でこそX(旧Twitter)やInstagramで薬の知識を発信していますが…

過去の自分は
・車の免許合宿で筆記試験に不合格。異例の合宿期間延長
・学生の成績は平凡。再試あり
・薬学部6年生の夏、模試の成績は全国で"下位25%"
・病院薬剤師1年目、夜勤に入るための試験で再試(同期で自分だけ)

このように優秀とは程遠い、薬学生&新人薬剤師を過ごしました。

そんな "ポンコツ" と言われた状態から、
どのようにして今の自分になったのか。どのように努力したのか。

まだまだ成長段階ではありますが、今回はその過程のひとつである勉強法を変えた経験について紹介します。



1. ポンコツ時代の勉強法


私が薬学生の頃にしていた勉強は、
「再試でなければOK」でした。
(きっと、共感いただける方も多いはずです)

そのため、テスト前の勉強法といえば
①    大量の過去問を集める
②    過去問の中でテストに出そうなところを丸暗記+ゴロを活用
③    試験前日の深夜に知識を詰め込んで乗り切る

こんなギリギリ突破を目指す学生生活を送っていました。

こんな勉強法でしたので、再試シールを買うことは何度もありました。

当時から唯一得意なことがあったとすれば、ゴロ作りくらいでした。
国家試験も突破できたのはゴロのおかげだと思っています。

2. 過去の勉強方法を社会人まで続けた結果


新卒で病院に就職したものの、
薬剤師1年目の夏「夜勤に入るための試験で再試」という残念な経験をしました。しかも、5人以上いる同期の中で再試なのは自分だけ…

薬剤師になって、すぐに同期に遅れをとってしまいました。

当時の勉強法は
「暗記」+「短期集中型の勉強法」
→試験は突破できる場合もあるが、知識が全く身につかない
(ですが、今回は試験すら突破できなかった…笑)

つまり、長期的な視点でみた時に何も身になっていない状態でした。

この時にさすがにマズイと思い、今の勉強法を変えようと決心しました。

3. 暗記から思考する勉強法への転換


暗記頼りの勉強は身にならないので、
"思考する勉強"に変えようと意識して取り組み始めました。

ただ、今まで"暗記頼りの勉強"をしていた人間がいきなり"思考する勉強"に変えることができたかというと…簡単にはできませんでした。

そんな苦労を経験した今だから伝えられる、自分を変えるために実践した"思考力を高める"3つの行動を紹介します。

3-1 薬学の勉強から一旦離れる

薬剤師にとっての勉強といえば、薬や病態が頭に浮かぶと思います。
ですが、あえて薬学の勉強から一旦離れることにしました。

その理由は、いきなり薬学の勉強法を変えようとすると、途中で力尽きて過去の勉強法に頼ってしまうと考えたからです。

なので、最初は思考力を高めることに注力して、薬学の勉強は後回しにしました。

3-2「思考力の高め方」を勉強する

成功している人から「思考力の高め方」を直接聞けたら良かったのですが、
お金も人脈もない自分にはできませんでした。

そこで、大きなお金もかからずに好きな時間で学べる
「思考力が高まる本」を購入して学び始めました。

どんな本を購入したのかは、後ほど紹介します。

3-3 わからなくてもすぐに調べない

読書で思考力を高めるとともに、日常生活でも取り組むと良いことがあります。それが、"わからなくてもすぐに調べない"ことです。

わからないことがあったら調べることは大切です。
でも「わからない⇒調べる」だけを繰り返すのは正直もったいないです。

なぜなら、考える機会を失ってしまうからです。
調べて答えをただ見て、満足してしまう習慣を断ち切ることが大切です。

そこで、私がおすすめするのは、
「わからない⇒考える+仮説を立てる⇒調べる(答え合わせ)」という方法です。
"考える+仮説を立てる"を習慣にすると、思考力は確実にUPします。

最初は、考えて仮説を立てることがうまくできないと思います。
ですが、日々の積み重ねが後の大きな成長に繋がります。

4. 思考法を活かした勉強

続いては、書籍で学んだ思考を薬学の勉強でどのように応用したのかです。
私が考える際によく使う3つの公式を紹介します。

4-1「問題解決のプロセス」

以下の4つ流れで問題解決に取り組んでいます。
a. 現状把握
b. 問題抽出
c. 解決策の立案
d. 解決策の評価

こちらが私が普段活用している問題を見つけてから解決するまでの一連の流れです。

4-2「フレームワーク」

フレームワークとは、一言でいうと問題解決に必要な"地図"のようなものです。
問題を必要な物事に切り分けて、枠組み化することで正解に近づくことができます。

抽象度が高い内容を細分化して見えやすくするイメージです。

言葉では理解しにくいかもしれないので、後ほど例題で実践を踏まえた紹介をします。

4-3「メタ思考」

メタ思考とは、問題をひとつ上の視点から眺めたり、入退離脱してもう一人の自分が今の自分を眺めるように視野を広げて客観的に考えることです。

悩んだ時でも、視点を変えたら意外と答えが近くにあったなんてこともよくあります。

こちらも、言葉では理解しにくいかもしれないので、後ほど例題で紹介します。

5.【実践】高めた思考力を薬学に応用した事例

私が考える際によく使う公式を3つ紹介したところで、
具体的にどのように活用しているか、さっそく実践問題に移りたいと思います。

例題を2つ用意しましたので一緒に考えていきましょう。

5-1(例題)カリウムが高いのはなぜ?

ここでは、調剤薬局に処方せんを持参された患者さんのカリウムが高かった時に原因をどのように解き明かしていくか、私なりの考え方を紹介します。

「カリウムが上がった=薬のせい」とすぐに決めつけずに、何が原因かを順序立てて考えてみましょう。

まずは公式1「問題解決のプロセス」を活用します。

a. 現状把握
以下のような「患者背景」を確認できたとします。
・年齢、性別 (例)70歳、女性
・現病歴 (例)高血圧
・既往歴 (例)特になし
・アレルギー歴 (例)特になし
・副作用歴 (例)特になし
・服用中の薬剤
(例) アムロジピン5mg1T1x、テルミサルタン20mg1T1x
・検査値の推移 (直近1か月の変化)
(例)カリウム4.6→5.4mmol/L、eGFR30mL/分/1.73m2横ばい
など

b. 問題抽出
次に、"なぜカリウムが上がったか?"という問題について考えます。
ここでは、公式2「フレームワーク」も活用します。

問題解決に必要な物事(カリウムの上がる原因)を切り分けて考えてみると
大きく3つに分けられます。

カリウムが上がる原因(大きく3つに分類)

❶カリウムのINが多い→血液中のカリウムが上がる
❷カリウムのOUTが少ない→血液中のカリウムが上がる
❸細胞内から血液中へカリウムが移動する→血液中のカリウムが上がる

c. 解決策の立案
そして、先ほどのフレームワークで考えたカリウムの上がる原因の中に患者背景で当てはまる項目はないかを確認します。

カリウムが上がる原因「フレームワーク」

❶ カリウムのIN過量
食事量、食事内容、サプリ、カリウムを含む薬、点滴を使用中であれば、その内容を確認
【具体例】
食事:バナナ、アボカド、野菜ジュースなど
薬剤:カリウム製剤、ペニシリンGカリウム、維持輸液(3号液)など
その他:輸血など

❷ カリウムのOUT障害
疾患、薬の作用によるカリウム排泄への影響として、排泄障害を起こすものはないか確認
【具体例】
疾患:腎機能障害、尿路閉塞など※
薬剤:ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、バクトラミンなど
※腎機能障害以外では、アルドステロン欠乏の有無など分類も様々ありますが…すみません今回は疾患については深く触れません

❸ 細胞内から血液中へのカリウム移動
薬、pHの変化による細胞内から血液中へのカリウム移動を促進させるものがないか確認
【具体例】
疾患:アシドーシスなど
薬剤:ジゴキシン、β遮断薬など

このようにカリウムを上昇させるといっても、様々な原因があります。
また、薬によってもカリウムを上げる機序が異なることも理解いただけたかと思います。
今回の患者さんの場合は、カリウムを上昇させる薬としてARBのテルミサルタンが該当していますね。

d. 解決策の評価
最後に、解決策の中で最もらしい原因はなにかを考えます。

a.患者背景のから振り返りをします。
・直近1か月でカリウム上昇あり
・ARBのテルミサルタンを服用中
・腎機能は直近での変化ないが軽度低下あり

では、今回の原因がテルミサルタンで良いでしょうか?…

まだ言いきれませんね。

フレームワークの中で不足している情報はまだあります。
(カリウムのINとか…)
そこで、患者さんとの会話で質問+得られた回答を確認してみたいと思います。

Q1.  新規追加や用量変更となった薬剤、サプリメントの開始はないですか?
→既存薬の用量変更は半年以上なし。新規薬剤やサプリの開始もない。
(つまり、ARBの用量は変化していない)

Q2. 尿量の変化はないですか?
→尿量も直近1か月での変化なし。

Q3. 食生活の変化はないですか?
→健康を意識して3週間前から野菜ジュースを1日1本飲むようになった。

これらの質問で得られた回答から、カリウムを上昇させた原因を再び考え直してみようと思います。

ARBが1か月でのカリウム上昇の主な原因でしょうか…?
(私の考えでは)半年以上も用量変更がないこと、併用薬、腎機能の変化もないことからARBによりカリウムが上昇した可能性は低いです。

一方、野菜ジュースはカリウムが豊富であること、直近で食生活が変化していることから、薬よりもカリウム上昇に影響を与えた可能性は高いと考えます。

こんな感じでひとつ目の例題は終了です。

調剤薬局では情報が不十分な場合も多いですが、処方せん、検査値、患者さんとの会話からどれが主な原因かを考えることはできると思います。

皆さんの服薬指導に少しでもお役に立てたら幸いです。

5-2. (例題)ウルソデオキシコール酸で下痢が起こるのはなぜ?

続いての例題は、添付文書の記載から副作用が起こる原因を考えてみましょう。

例題は「ウルソデオキシコール酸で下痢がなぜ起こるのか?」です。

先ほどの例題より、優しい内容ですので一緒に考えてみましょう。

ちなみにウルソデオキシコール酸の添付文書に記載によると副作用として高頻度なのは「下痢」です。(副作用の頻度は1~5%未満との記載あり)

ウルソ®副作用(添付文書より抜粋)

さっそくですが先ほど同様に、まずは公式1「問題解決のプロセス」から活用していきます。

a. 現状把握
まずは、ウルソデオキシコール酸の特徴を把握しましょう。

薬効薬理:
利胆作用及び胆汁うっ滞改善作用
胆汁分泌を促進することで、胆汁うっ滞を改善

❷肝機能改善作用
肝細胞において、ウルソデオキシコール酸が細胞障害性の強い疎水性胆汁酸と置き換わることで肝細胞障害作用を軽減(置換効果)
さらに、サイトカイン・ケモカイン産生抑制作用や肝臓への炎症細胞浸潤抑制作用により肝機能を改善

❸消化吸収の改善
胆石溶解作用

このように大きくわけて4つの薬理作用があります。(ウルソ®添付文書参照)

b. 問題抽出
次に、例題1と同様に、下痢の起こる原因を公式2「フレームワーク」を活用して考えます。
 
下痢といえば、急性or慢性、感染性or非感染性などの分け方があります。
ですが、下痢の発生原因をすべて網羅した分類を作ろうとするとかなり大変なので、今回は薬剤の副作用に着目した下痢の発生原因で分類したいと思います。

下痢の発生原因を、大きく4つに分類します。※

薬剤による下痢の発生原因「フレームワーク」

腸管蠕動運動の亢進:(例) コリン作動薬など
腸管粘膜の障害:(例) 殺細胞性抗がん薬など
腸内細菌の乱れ:(例) 抗菌薬など
水分吸収の障害:(例) ミソプロストールなど

※参考資料
PMDA 重篤副作用疾患別対応マニュアル 重度の下痢
https://www.pmda.go.jp/files/000240118.pdf

c. 解決策の立案

続いて、先ほどの「フレームワーク」と「ウルソデオキシコール酸の薬効薬理」が結びつくかを考えます。

下痢の原因に直接該当する「ウルソデオキシコール酸の薬効薬理」は見つかったでしょうか?
今の段階では見つからないという方が多いのではないでしょうか。

そこで、公式3「メタ思考」を活用して視野を広げて見てみようと思います。

今回、ウルソデオキシコール酸による下痢は"副作用"としての記載でした。

では、視野を少し広げて考えてみると…
「下痢→便が緩すぎる→便秘治療薬の効きすぎ」とも表現できます。

上記から"副作用"ではなく"主作用"である便秘治療薬に着目してみると…
浸透圧下剤:(例) マグミット
刺激性下剤:(例) センノシド
上皮機能変容薬:(例) アミティーザ®
胆汁酸トランスポーター阻害薬:(例) グーフィス®
などがありますね。

すると、ウルソデオキシコール酸の薬効薬理と結びつきそうな薬が…。

d. 解決策の評価

最後に、解決策の中で最もらしい原因はなにかを考えます。

気付いた方もいると思いますが、
ウルソデオキシコール酸の薬効薬理「胆汁分泌の促進」と
胆汁酸トランスポーター阻害薬のグーフィス®(一般名エロビキシバット)に共通点がありますね。

グーフィス®IF:https://med.mochida.co.jp/interview/gof_n7.pdf

グーフィス®の作用は、胆汁酸の再吸収を阻害することで腸管に胆汁酸が流れ込む。「胆汁分泌の促進作用」で便秘を改善しています。

胆汁酸には
・腸内の水分を増やす作用
・腸管運動を促進する作用

の2つの役割があります。

つまり、ウルソデオキシコール酸の下痢は「胆汁分泌の促進」が影響していると考えられます。

こんな感じで問題解決のステップ、フレームワーク、メタ思考を活用すれば、添付文書に答えの書いていない副作用の発生機序も解決に結びつけることができます。

6. 思考力が劇的に高まる書籍

2つの例題を通じて
「問題解決のステップ」、「フレームワーク」、「メタ思考」を興味を持った方がいるかもしれません。
そこで、実際に読んでから思考力が劇的に高まった書籍を2冊紹介します。

6-1. ~東大生が書いた~問題を解く力を鍛えるケース問題ノート

題名の通り、"問題解決"に必要な考え方が身につく本です。

頭の良い東大生の考え方なんて、真似できるわけないと思った方がいるかもしれません。

しかし、考え方には“テンプレート(型)”があります。
本書では、その型を使った問題の解き方を具体的にわかりやすく解説してくれています。"フレームワーク"を用いた例題も多く登場します。

問題を順序立てて、考えて解くスキルがほしい方におすすめしたい一冊です。

6-2. メタ思考トレーニング

問題を解くときに登場した“メタ思考を高められる本です。

人間は気づかぬうちに自分の認識できる狭い範囲で物事を考えてしまっています。
そこで、メタ思考を活用して自らの視点をひとつあげて見ることで新しい発想、発見に出会えるはずです。

「問題の本質を見抜く力」を磨きたい方におすすめしたい一冊です。

7. 最後に

学生時代の成績が平凡でも社会人に頑張れば、なんとかなります。

卒業大学がどこか、(受かっていれば)国家試験で何点だったかは別に何でも良いと思います。

大事なのは、豊富な知識を持っていることよりも、持っている知識を現場でどれだけ使えているかです。
(英単語をどれだけ知っていても、英語を話せなければ意味がないのと一緒です)

なので、社会人になってから学生時代に得た知識をどれだけ現場で使いこなせるかが勝負だと思います。

そんな学びを大事にされている意欲の高い皆様へ、
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日々学びに関する情報を発信していますので、今後とも皆さんと共に成長できたら嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。


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