ガキ大将は今

実に面白い体験をした。
グレてしまった兄の同級生にたまたまコンビニで話しかけられて昼間から飲んで歩いておばあちゃんの家に一緒に行ったり地元のスナックに行ったりした。
その彼は幼い頃ガキ大将気質のサッカーが上手いイケメン。いわゆる「陽キャのヤンチャなガキ大将」って奴だ。彼は県内1番のサッカーの名門校に進学後、足の怪我による挫折からグレて退学。その後は暴走族と土建屋、水商売を転々として年に数回人を殴っては拘置所や刑務所に入るのを繰り返す人生を送っている。
今年年始に出所したものの酒が手放せずにダルクに入った後、今は幼い頃住んでいたおばあちゃんのお家で世話になっているようだ。
そんな彼はコンビニで出会って僕に声をかけてきた時から当時の人懐っこい笑顔のままだった。
おばあちゃんからもらった小銭のお小遣いで酒を買い僕を公園に誘い、2人で少年のするサッカーを眺めていた。ボールが飛んできた時高度なフェイントを子供達に見せつけて輪の中に入って子供達とサッカーをする姿は当時の純粋な姿そのものだった。
小学生の頃、足が速くサッカーも上手かったがプレー面以外では周りにやられっぱなしだった兄は彼の純粋でヤンチャ、天真爛漫な様を死ぬほど妬んでいた。兄が長距離走に目覚めて自主練でスタミナを重視したのも彼に短距離では勝てないからだった。
兄が本気で怒った時にした彼との小学生離れした喧嘩は教員にも止めることが出来ず、偶然前を通りすぎた僕の「先生がお母さんに言っちゃうよ」という魔法の呪文によって兄が態度を急変させて引き分けで幕を閉じた。
そんな兄と彼の我が小学校の二大巨頭、中学に上がる際2人は学校外のクラブでサッカーをすることを選んだ。人間関係に疎く五月蝿い部活でサッカーをやりたくなかった兄は冒険せず沢山のジュニアユース、街クラブを受けてそのうち1つに引っ掛かり合格、そこに所属して学校では陸上部に入った。
一方彼はJリーグの下部組織を受けて最終選考で落選し学校のサッカー部に所属した。
そこが彼の転落の始まりだった。
上の学年と比較しても抜群に上手かった彼は妬まれ虐められていたようだった。そのイジメは上下関係のうちの一つとして処理されていたようだ。 学外でサッカーやればイジメにあわなかったかもしれない。下手くそ上級生のプライドのために彼は犠牲になったのだ。何とか地獄の下級生時代を耐え抜き強豪校に入った。
しかしそこで彼はこれまでと違いちょっと上手い程度の選手にしかなれなかったようだ。そりゃそうだ、日本中から天才が集まるんだもの。そして怪我も重なり部活から足が遠のき高校を辞めてグレてグレてグレまくった。
けど彼は人を殴ると物を壊す以外の犯罪はした事がないと言った。殴るなよと思ったのがの本音だが他の中学時代にいたグレちゃった子達に比べればその薬もやらず酒を飲んで人を殴るか物を壊すしかしていない彼には良心が一欠片残っているように思えた。
また小学校の時の思い出話をしたり、彼にとっては同級生や後輩、僕にとっては先輩の人達を肴に飲む酒はとても美味しかった。
彼は先輩同級生後輩、母校の可愛いと言われる女子はほぼ全員ヒッチャカメッチャカに抱きまくっていた。今はアルコール依存症で無職の前科者なのに。
「お前の兄ちゃんも何人かやってるべ?俺ら穴兄弟だよ」と言われたが兄は絶対やってない。スポーツ万能成績優秀可愛い顔してても陰キャ気味の性格にゴマキ狂いで気持ち悪がられた兄だ。可愛いJCの初体験相手に選ばれるわけがない。
兄を苛立たせた純粋さとそれ故の鈍感さが20年ぶりに姿を現した。
そして彼の「これからどうすればいいか、仕事はあるけどヤクザな世界から足を洗いたい。洗わないと絶対俺はまた人を殴る。殺す前に変わりたい」その言葉に僕は「なら大学行けば?そうすりゃ周りが変わるからガラの悪い人いない。卒業する頃には30半ばだし、何になるかはわからんけど○○くんなら大丈夫だよ。とりあえず気性を落ち着けるのには金はかかるけど大学はいい方法だと思う」と答えた。
で刑務所とダルク帰りでスマホを持ってない彼のために高卒認定試験のHPを検索して見せてあげた。
僕は自分でベターと思う方法を何となく口走っただけだったが、今までそんな返答をされたことがなかった彼は泣き出してお前だけだ、そんなこと言ってくれたのはといった。
で大学行くのにおばあちゃん説得するからついてきてくれと請うた。
最初は僕も拒んだが、あまりの熱意に家まで説得に出向くことにした。
なるほど、この押しの強さが初体験キラーの秘訣なんだと思いながら。
そして彼の家に着く。庭で作業をしていたおばあちゃんに事の経緯を説明したら喜んで迎えてくれた。
そして大学進学に必要な出費と手続き、勉強について噛み砕いて説明させていただいた。
そしたらなんと実は彼の家はかなりの教育一家。おばあちゃんも世代としてはかなり高学歴な人であり僕の話を熱心に聞いてくれた。
また僕と兄の学生生活や東京の街の様子についてかなりの数の質問を受けた。
かつて育ちの悪い下品な猿と彼を兄は罵ったが下品な猿は兄だった。
おばあちゃんは僕の「何にもならないかもしれない、けど警察のお世話にならない為には進学が1番のクスリ」という主張に賛成してくれてお金も出すと言った。
しかしそんな僕らの建設的な会話に彼は酔っ払って茶々を出さずにはいられなかった。そして茶々を入れた数十秒後本当にマズイと感じたら泣き出すのだ
こりゃ女もばあちゃんもそりゃ言いなりだわ。我が家のDNAには刻み込まれてないやり方だ。その言葉を飲み込みながら僕は彼の茶々をいなしていく。
おばあちゃんも納得はしてくれたがやはりそこは酔っ払い。話し合いが停滞した際、彼は僕をタバコ休憩にと外に連れ出した。おばあちゃんはそれを10分15分で帰宅するだろうと止めなかった。
そして家から出た僕ら2人、止めようとする僕を持ち前の押しの強さで跳ね除けて彼は僕らの自宅のある場所から離れた駅付近の昔ながらのスナックに連れていく。
仕方なく店に入る。そして彼は言う。
「何飲みたい?」僕はその時察した。彼が無一文で僕に払わせる気な事を。
とはいえ入店してしまったのだからしょうがない。2人でウーロンハイを一杯ずつ頼んで店を出る。そして止める僕を大きな声で制し、時々通行人に話しかけ車には殺すぞと怒鳴りながら二軒目に向かう。また入られた。仕方ない。
二軒目のお店にはかつて彼が勤めていた建設会社の40代の先輩が複数人いた。そして彼はその歯がなくて何言ってるかわからない強面のおじさん達に臆す事なく絡んで可愛がられている。
天性の無邪気さはここでも無敵だ。
彼は歯のない先輩達に近況報告をする。
「オメェミテェなやついっぱいいるんだ、戻ってこいや」そう歯のないおじさんは返した。
僕も混ぜてもらい楽しいお酒を飲ませていただいた。しかし彼は土建屋さんに戻るのでは生活には困らなくてもまた同じことをしてしまう。歯のないおじさんの好意のつもりのお誘いは天使のような悪魔の囁き。彼に警察沙汰を起こさないでほしいというおばあちゃんの願いからは一番遠い身の振り方ではないかと感じた。
そしてそのおじさんにご馳走になり、3軒目に向かう。2軒目にきた他の飲み屋のお姉さん(30代)も加わり僕もちょっと楽しくなってきた。
しかしそこで彼は服を脱いでケツメイシのさくらを歌って店のママに説教されて駄々をこねて寝っ転がった。
金を持たずに当てのないタダ酒を飲む為に飲み屋に向かって周囲には呂律回らない口でくだを巻き、しまいには店で脱いで寝っ転がる。そんなむちゃくちゃな人間は昭和を振り返る番組で伝え聞く勝新太郎しかいないと思っていた。世の中って広いんだなと思わずにはいられなかった。
4軒目に向かう所でお姉さんは離脱。僕も帰るともう明日が早いからと彼とおじさんを尻目に帰ってきた。帰る僕の背後で彼は行かないでくれよぉ、寂しいんだよぉ〜と泣き叫んだ。やめてくれ、お前の懇願は人を動かす力があるんだ、どうしても憎めない
僕は鞄を置きっぱなしのおばあちゃん宅に彼を置き去りにしたままな事の罪悪感を伴いつつ向かう。
おばあちゃんは深夜1時過ぎだが起きていて事の仔細と進学についての補足を話して立て替えたお金を頂戴して家路に着いた。
おばあちゃんには連れ回して申し訳ないと言われたがそんなことは一切ない。彼は昔の純粋で優しくて無邪気なイケメン小学生のままだった。大人になり損ねただけで。どんな不良も犯罪者も悪い奴なりに悪い奴として大人になるが、彼はそうではない。
小学生の時のままのスケールで29歳の今を生きているのだ。
そんな彼と過ごす半日は疲れたけどとても楽しかった。
就活上手くいった組やマイルドヤンキー達は僕や兄を就職し損ねた人、20代半ばで学生をやる可哀想な人として扱うことが間々ある。
しかし彼はそれをしなかった。
それだけで十分だ。
彼は大学名を聞いて凄い凄いと言ってくれて、お互いベクトルは違うけどレールに乗れなかったものとして悲哀を分かち合い、酒を飲んで綺麗なお姉さんと知り合う。楽しくないわけがない。有意義な時間を過ごした。
彼に悩むおばあちゃんには地味で真面目(彼と比べたら)な僕が訪ねてきて愚痴を吐き出せて楽になったと思う。玄関で僕を見送るおばあちゃんの顔は少し生気が戻っていた。
30歳での大学進学という斜め上な身の振り方を知ったこと以上に吐き出せた事がおばあちゃんにとってよかった。
彼はこの先どうなるんだろう。
また人を殴るのか、それとも30歳の大学1年生になるのか。多分僕はその答えを知ることはないと思うけど後者になってて欲しいと願う。彼なら立ち直れるから。
初体験キラーで強面おじさんの懐に飛び込む胆力と圧倒的狂気な笑顔。ヤクザな世界に身を置いてた故のサラリーマンは知らない金儲けのノウハウ。きっと大丈夫だ。
そして今日のスペシャルイベントを伝えたらかつてのライバルの今に兄はなんて言葉を吐き出すのだろうか。
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