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シャブ中元カレとの出会い


私の人生に、更なる爆弾を落とし荒れ地にしていった奴の正体が、いつもネタに出て来るこのシャブ中野郎である。

19歳の、夏の終わり。.

夜になってもむわんと蒸す残暑の中、私は援デリの仕事で神奈川の大和駅にいた。当時、大和はバカみたいに客が来る現場として重宝されていたので、週に一度は大和にいたほどに大和常連だった。もうどこに何があるか、ホテルまでのショートカットの仕方なども覚えていたので悠々自適に仕事ができたくらいである。

小さい駅だけど、駅の近くにラブホテルがあり、働く嬢からも「すぐ帰ってこれるから楽だ」と好評の地だった。が、さすが横浜。シャブ中やチンピラが多く、稼げるけど揉める客が多いという悪評もあった。

その日も忙しい時間を過ごし、やっと車に戻れてのんびり労働後の煙草を味わっていた深夜一時過ぎ、私の携帯が鳴った。

「こんな深夜に来るなよな」と毎度のことながらため息をつき、いやいやその電話を取る。

「あ!いずみ?今さ―駅前に黒のセダンいるから行っちゃってくれる?ナンバーはxxxx。ラストだからさ、サクッと巻いてきちゃってよ。」

あほみたいな喋り方をするチンピラドライバーがへらへらしながらそう言った。ナンバーxxxxは横浜でヤクザ率が高いと言われるナンバーだった。

「もうヤクザフラグたってんじゃん。やだよこんな夜中に。」

と文句を言う私に

「巻けるの今日お前しかいないんだから、頼むよ~。なんかあったらすぐ俺が殴り込みに行くからさ、な!」とまたヘラヘラしていう。そんな事いって、ただのチンピラのくせに。見た目だけいきがっていて、ケツモチのヤクザから破門にされたことをみんなが知っているの、こいつは知らないんだろうか。先日女の子がやくざの地回りに捕まった時もビビって逃げたという話じゃないか、おまえなんか全然頼りにならねえよ。なんて不満を頭に思い浮かべながら私は指定された車に向かう。

「待ち合わせしてたの、あなた?」

怪訝そうに車をのぞき込む私を見て

「あぁ!そうだよ、乗りな乗りな~。大丈夫だよ、変な奴じゃないからさ!」

と笑顔で迎え入れた。青いシャツを着て、見た感じはさわやかなおっさんだった。目鼻立ちもはっきりしている。ジャンポケの斎藤さんと、錦戸亮をミックスさせたような顔だ。当時、紹介した人みなが口をそろえて両者に似ていると言っていたのでそんな感じで想像してほしい。

これが、4年も乱闘し続けたシャブ中元カレとの出会いだ。


良かった~!良い人そう!

なんて思ったのもつかの間、さてシャワー浴びよっか、と服を私が脱ごうとした瞬間、またも彼は爽やかな笑顔でこう言ったのである。

「入れ墨入ってるけど、気にしないでね」

安心していた矢先に、また見事にたったチンピラフラグだ。

ああやっぱり…ナンバー予想は当たる。もう絶対に巻けないし今日帰るの遅くなるんだろうな。と思いながら横目でちらりと見た先の、彼が脱いだシャツの下には立派なもう一枚の服を着ていた。昭和のバブルにできたようなかび臭いホテルの風呂でシャワーを浴びながらまじまじとその背中を見ると、大きな竜虎を飼っていた。彫り師の名前の札までしっかりあるその紋々を眺めながら「どうか、嫌な奴じゃなくて、早く帰れますように」と願う。

シャワーを浴びた後、ちょっとトイレ。と言って席を立った。なかなか帰ってこないのを見て、「多分シャブ中だな」と気づく。

「クソバカ野郎、やっぱりチンピラじゃねぇか!シャブ中ぽいから戻るの遅くなる」半ば八つ当たりでドライバーにメールすると「頑張れ!」とだけ返信が来る。終わったらこいつ殺そう。なんて考えていると、さっきより目をランランとさせたシャブ中が戻ってくる。プレイを開始したが、もちろんちんこはたたない。「もう眠い、帰りたい」そればかりを考えて、手で必死にどうにかたたせようとするが、うんともすんとも言わない。その後、どうやって言いくるめたか忘れたが、多分明日昼間仕事があるから帰らないとなんて言って帰る方向に何とか仕向けた。

帰り際、「また遊ぼうよ、金は出すからさ」と言われ、断るのも恐ろしいので普段は交換しない連絡先を交換してホテルを出た。

その後、連絡を交わすようになった。「金払うから、横浜来てよ。」なんてメールがよく届いたが、金のために横浜なんてめんどくせえよ。と私は思っていた。でも知り合って一週間後に、まさかのタイミングで会うきっかけが出来たのである。

またまた週末に現場が大和だったその日、私は一本目からタマ喰ってる薬中という不運な日だった。だけど羽振りのいい薬中で、「これ、余分に渡すから」とチップを三万くれた。そのことを女の子と話していると「じゃあそのチップ分よこせ」とドライバーが言うので「は?薬中つけといて何言ってんの?てめえで余分に貰ってきてよこせってなんだよ!」と、その場でドライバーと大喧嘩になった。その日のドライバーはスーパー銭ゲバで、女の子がもらってきたチップまで巻き上げるという方針のドライバーだったのだ。納得できない私は、「金渡すくらいならこのまま帰ってやる」と言って車を飛び出し、売り上げ分だけドライバーに投げつけて駅に向かった。

そんな時にタイミングよく奴から電話がきたのである。そしてその足で横浜に向かい合流。一緒に酒を飲み、その足でホテルに行ったその日から一緒にシャブをあぶり、のちのち注射で打つようになり、その度お小遣いをもらい、たまに飲みに行くという関係になっていった。金をくれるキメ友、と言う感じだろうか。

お金はきちんとくれるし、羽振りもいいし、シャブもくれるし、シャブ中の割に陽気で、一緒にいて面白いお客さんだった。

丁度、男と別れ病み散らかしていた私には丁度いい人間で、やさぐれていた私を楽しませて笑わせてくれる存在になっていた。

「滅茶苦茶おいしいもの見つけたから食いに行こう!!絶対お前も食べたこと無いやつ!!」と急に私の家まで迎えに来て、連れて行かれた先で出てきて意気揚々と見せたその料理は…もう当の昔に流行ったバーニャカウダだった。

「バーニャカウダも知らないで生きてたの?バカじゃん!!」

感動したフリもせずに馬鹿にして大笑いする姿を見て「悔しい!!!」といつまでも嘆いて漫画のように拗ねたこともあった。

急に「北と南どっちがいい?」と聞いてきて、「寒いの嫌いだから南」と答えると「よし、沖縄行くぞ!!」といって翌週に沖縄連れて行ってくれたり

「仕事で嫌なことがあった」と電話で言うと、すぐに駆け付けてくれてご飯連れて行ってくれたりと割と尽くしてくれるタイプだったのだ。最初だけは。

毎日ジェットコースターに乗ってるみたいで、子供の私には面白おかしかった。そんなに色んなことを男の人に何かしてもらうのも、気分がよかったのだと思う。

そしてなにより辞めていた薬物に再び手を出すのも、背徳感があってたまらなく刺激的だったのだ。

奴には当時長らく付き合っていた彼女もいて、「可愛がってる娘みたいな子」とその彼女に紹介されたりもした。その彼女の仕事もまた、ソープ嬢だった。

紹介を受けるその彼女のドンと構えた姿勢にとても驚いたのを覚えている。「私が本妻なのよ」と言わんばかりの自信に満ち溢れていた。きっと気付いているだろうに凄く可愛がってくれて、仕事のことも相談に乗ってくれたりした。

ちょっとだけ「彼女に愛人紹介する奴も、紹介を受け入れる彼女も頭いかれてる」と思ったけど。

会う回数が増え、付き合ってほしいと言われたこともあったが「女がいるやつに興味ない」と断り続けていた。だけど、向こうが彼女と別れ、好き好きされ続けていると、ちょろい私はすぐに落ちた。追いかける恋愛をずっとしていた身としては、追いかけられるのも新鮮だった。本当にちょろい。そして落ちたきっかけも、こんなにちょろい。

一緒に行った沖縄の帰りの空港で、でっかいリラックマのぬいぐるみを見つけた。当時リラックマが好きだった私はそのでかさと可愛さに「可愛い!」と一目ぼれしてしまったのだ。150㎝くらいあるぬいぐるみで、値段は四万くらいだっただろうか。「あれ欲しいなー買おうかな」というとシャブ中は「可愛い声で、ねえー!あれ買って買ってー!っていってほっぺにキスしてくれたらいいよ」なんて言われたので「キモ…死ね。」と言って流した。そして四万も出すのはもったいないか、とそのぬいぐるみを諦めた。

そんなことも忘れたころ、そのぬいぐるみを、クリスマス当日に助手席に乗せて持ってきてくれたのである。その場で「わーーーーい!!!!」と大きな声を出して喜んだ。そして奴がとてつもなく素晴らしいサンタに見えたのだ。今考えたら、確実に幻覚だったんだろうけど。

ぬいぐるみで落ちるなんて本当にちょろい女だ。悲しいほどにちょろい。だけど、これで簡単に私は落ちてしまったのだ。

まあ後日聞いたら、そのぬいぐるみ、彼女が血眼で探してきたものだったんだけどね。そんなものを彼女に頼むなんて本当クズだなあと冷静になったらわかるんだけど、頭パヤパヤな私は気にもしなかった。

付き合ってからの日々は、前々から書いている通り。羽振りよく見えたのは、ちょうど交通事故にあった時に相手恐喝して得たあぶく銭で、それがなかったら貧乏ってオチだった。ほんと、悲しいほどに見る目がねえな。

別れた後、リラックマは速攻でゴミとしてゴミ捨て場に連れて行った。放り投げたゴミ捨て場で、ゴミ袋の中で潰れたリラックマを見て、少しだけ胸がギュっとした気がした。

以来リラックマは見るのも嫌なくらい興味が薄れてしまった。リラックマに罪はないのだけど。


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