UVライセンス使用取りやめの事情等について

私がpixiv BOOTHにおいてUVライセンスを採用しておりましたUVL(http://uv-license.com/ja/uvl)につき、一度は採用したものをすぐに取りやめたその理由の概要を述べます。

採用からやめるに至るまでの経過

 UVLが公開された当時、私は新民法の定型約款の解釈について述べ、第10条が契約の両当事者に不利益をもたらすような変更を認めさせることを意図した条項であるとすればそれを民法が許さないという見解を示しました。これはUVL運営側が信頼できるというよりはむしろ「釘を指す」という意味もありました。

一番懸念されるのが10条であったので、他の解釈は特に気にならず、若干の不安はあるがそれでもみんなで同じ船に乗り出せばとりあえずなんとかなるだろうという気持ちはありました。そんなわけで3月中頃から徐々にBOOTHに置いている自分の商品をUVLに置き換えていきました。正直なところ、周りの反応は冷ややかであったと思います。

 そして4月初旬からVRoid界隈ではアバターアイテムなどの剽窃の被害が相次いでいました。それらの事案を見ても、日本語が通じない人々にUVLでライセンスされていることが果たして頒布権侵害の抑止力になりうるのか?という疑問から再点検してみようと思いました。

 契約書の例文などの載った文献を複数あたったうえで調べたところによれば、基礎条項に致命的な瑕疵があり、これらは特記事項で修正し得ないものであるので、UVライセンスの策定者が問題点につき認識し、これを修正するまで、UVライセンスを採用することはできないと判断しました。

私が思うUVL各条項における問題点

 第2条

2. 利用者の同意の成立
利用者は、本モデル等を利用することによって、本ライセンスの内容を全て理解し、同意したものとみなされる。

 これを語義の通りに解釈すると、利用開始より先立つところの製品の購入時点では合意が成立していない解釈となり得ます。 

 しかし、デジタルコンテンツを有償で提供する場合は売買契約自体が利用契約の開始となるように記載するのが普通です。当然商品の紹介ページで利用契約を確認できるようになっていなければなりません。

 特記事項の記載要件は基礎条項と矛盾しないことですから、基礎条項に手を加えるほかないという結論に至りました。

第3条

3. 二次創作物を許容する目的及び改変等の条件
3.1. 本著作権者は、本モデル等にUVライセンスを採用することにより、利用者が自らの個性を発揮することを目的とした本モデルの利用及び翻案(本モデル等をカスタマイズして二次創作物を制作する等)につき、無償、再許諾不可、非排他的な許諾を全世界的に与えるものとする。許諾される利用行為については以下の各項に定めるものとする。
3.2. 利用者は、UVライセンスが採用された創作物の改変を第三者(以下「委託制作者」という)に依頼することができる。但し、当該改変を有償で委託することは許されない。その場合、利用者は委託制作者に対し、本ライセンスを予め提示し、本ライセンスを遵守することに同意させるものとする。委託制作者は、本モデル等を本モデル等の改変のみに使用するものとし、利用者は、委託制作者による二次創作物のデータ納品後に、委託制作者に対し本モデル等と二次創作物のデータを完全に削除して私的に利用しないことを保証させるものとする。

第1項については、おそらくよく意味を理解せずに企業などが無償で提供しているソフトウェアか何かの利用規約をほぼそのまま転記したものではないかと思われます。

 実際、語義の通りに解釈すると、「無償」は有償でユーザーに製品を提供するのと矛盾します。 また、「全世界的」はpixiv FANBOXのようなサブスクリプション購読者に対するインセンティブとして付与されるデータなどの配布には適していないと判断しました。そうすると、少なくともpixivがクリエイターのために用意したサービス内容によっては折り合う可能性を見出すことができないものであると考えられます。

 少なくとも利用契約に先立って購入代金がかかるのと、無償(あるいはfree)という記載の矛盾を解消できるだけの要素が見当たらないのです。この間違いは 先の記事(クリックでジャンプします) でも指摘しておりました通り、royalty-freeであれば商用利用をしてもユーザーは先に払った以上の金銭的対価を払う義務を負わないという意味になりますから、著作権者がイニシャルフィーを求めることを肯認することができます。

 運営側はあるいはそれが真意なのでしょうか?これを採用すると著作権者そのものが無償でユーザーに利用権利を提供する義務を負うことになると十分解するに足ります。

  第2項は、結論としては利用者に当たらない第三者にモデルデータ等を預けることができることの正当性を見出すことができないと考えました。

 著作権者に事前許諾なくコンテンツの購入者でない第三者に著作物やその翻案物を供与できる根拠となりうる 著作権法30条や同38条は、特定少数の間での共有であることを前提として私的複製や上映・上演の権利などを認めています。しかし2項は家族友人らでもない、見知らぬ第三者に対しても購入者にあたらない人にモデル等の翻案等を行う権利を与えることを著作権者に強要しています。著作権法30条等に定める私的利用は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」との前提がありますが、UVLはこの基準を欠いているのです。

 見知らぬ第三者が金銭的見返りを目的とせず利用者に「タダでモデル編集してあげる」などと近づいてきて、アバターのデータを預かるとすれば、何かしらの魂胆があると判断すべきで、狙いは推して知るべきところです。権利者がこれを規約で認めているとあれば、利用者におけるアバター窃盗のリスクに対する警戒感は多少なりとも薄れ、権利侵害の温床になる可能性が排除できません。 

家族でも友人でもない人が面倒な機密保持誓約を受け入れ無償で働き本当にそれを守るなど言っても、私は信じることができません。仕事人は対価を受けるからこそ、その誇りにかけて秘密を遵守するのだと考えるからです。

第7条

7. 個別条項が設定されていない限り予め禁止される利用方法
7.1 利用者による個人の商用利用は特に言及が無い場合は不可とし、本著作権者が許諾する場合は個別条項にて定めることとする。
7.2 本モデル及び二次創作物の配布及び販売は、個別条項にて許諾がある場合を除き、不可とする。
7.3 本モデル及び二次創作物を配布及び販売するにあたり、本モデルが含むデータ(メッシュ、ボーン、テクスチャ、ウェイト情報等)を流用することは、個別条項にて許諾がある場合を除き、不可とする。
7.4 利用者が法人の場合の利用は、個別条項にて許諾がある場合を除き、不可とする。
7.5 政治的利用、宗教的利用は、個別条項にて許諾がある場合を除き、不可とする。
7.6 アダルトコンテンツへの利用は、個別規約にて許諾がある場合を除き、不可とする。

 このうち4項について、営利非営利にかかわらず法人の利用の一切を禁じるとの旨の記載は、たとえば著作権法35条等に定める学校教育等用途での使用その他の正当な権利を認めないものであって、そのような不当条項は、著作権法の理解と適正な運用をユーザーに求めたい私の立場として、断固として認めることができません。 

当然UVLをやめなくていいように交渉はした

 結局は私個人の問題といったらそうなのですが、7条はそもそも法人の利用を禁止しない条項をつけておりましたので影響はありません。しかし2条と3条はどうやってもフォローできないと考えました。

 UVLの不採用を決める前にも運営側に問題点を指摘の上で修正案を示しておりました。修正案を示すに際し、 githubのプルリクエスト機能で使えるコード差分表示によって修正点を示す方法をとっています。

https://github.com/VRoid-Model-Creators/Uni-Virtual-License-Increased/pull/1/files

 しかし、私も信用されていないようでして「間違っているから修正しろ」といっても迅速な対応をしてもらえないものです。私としては、特記事項でカバーできない誤りをいったん見過ごしたままUVLを騙し騙し採用して次の改訂で修正されるまで悠長に待つなんてことはできませんから、

 結局私は現行の販売物についてUVLを全て外すという判断をただちに行いました。もちろんユーザーの権利義務関係がUVL採用時の条項に対して不利益にならないように配慮しつつ、著作権法・民法等との矛盾を解消したうえで、です。

共通で使えるライセンスをGitHubで

 なお、GitHubに挙げているUVLの修正パッチについて私は権利を放棄します(当然瑕疵担保責任も負いません)。自身のライセンスはこれをベースに不要と思われる部分を整理したものです。もしライセンスを検討される場合はご参考に。

 何も難しいことはいいません、あなたのお店の商品の複数に適用可能な利用規約をGitHubで公開して、互いにコピーしてもいいようにするだけで良いです。その上で共通化できるところを整理して、みんなで使えるライセンスをオープン体制で作ればよいのです。間違ってることを書けばTwitterなどで炎上するかもしれませんしね。

 最後に「会社と従業員の間の定形約款」ともいうべき就業規則をGitHubで公開している事例を紹介します。https://tracpath.com/works/development/disclosure_standards_of_our_company/

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