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UVライセンスの第3条について考える

UVライセンスにおいて、これを採用する全ての著作権者から必ずユーザーに与えられる権利が基本条項ですが、そのうちの権利に関する事項の要点は第3条にほぼ集約されていると言っても過言ではありません。

(4/14 追記)
新記事において結局私個人がUVライセンスを取りやめた話を書いております。この記事はUVL採用を取りやめる結論に至る前に書いたものであって、結局3条は問題だらけであるというのが今の見解です。
https://note.com/yakumo_sayo/n/n2b7e639f1220/

基本条項 第3条とは

これより前の第1条は用語の説明、第2条は契約締結のタイミングについての説明,後の第4条以降は禁止事項とペナルティ、契約の改訂のルールなどを定義しています。ユーザーの権利にかかる事項を定める第3条は次のようになっています。

3.二次創作物を許容する目的及び改変等の条件
3.1.  本著作権者は、本モデル等にUVライセンスを採用することにより、利用者が自らの個性を発揮することを目的とした本モデルの利用及び翻案(本モデル等をカスタマイズして二次創作物を制作する等)につき、無償、再許諾不可、非排他的な許諾を全世界的に与えるものとする。許諾される利用行為については以下の各項に定めるものとする。

3.2.  利用者は、UVライセンスが採用された創作物の改変を第三者(以下「委託制作者」という)に依頼することができる。但し、当該改変を有償で委託することは許されない。その場合、利用者は委託制作者に対し、本ライセンスを予め提示し、本ライセンスを遵守することに同意させるものとする。委託制作者は、本モデル等を本モデル等の改変のみに使用するものとし、利用者は、委託制作者による二次創作物のデータ納品後に、委託制作者に対し本モデル等と二次創作物のデータを完全に削除して私的に利用しないことを保証させるものとする。

無償、再許諾不可、非排他的な許諾とは

このあたりは、著作権が絡む定型約款ではお決まりの文句ですが、簡単にいうと、「私(達)はあなたに著作権は譲渡しませんが、あなたにはルールに従って一定の権利が与えますよ」という意味です。

そしてその要点としては

 ・ 対価の支払いなく自由な創作活動をする権利を与えます(無償)
 ・あなたが第三者に使用させる権利は付与しません(再許諾不可)
 ・他の申込者にも同様にこの著作物をライセンスします(非排他的)

ということになります。

無償ってのは私もちょっと解釈に困りましたが、タダで権利を付与するという意味です。
「ちょっと待ってBOOTHであの商品〇〇○円って値段つけているでしょ?」って思った方もいると思いますが、いわゆるロイヤリティフリーをうたう素材でも販売価格をつけることは各種素材サイトでは慣習的にやっているので、おそらくそういう意図で無償と言っているのだろうと思われます。バーチャルマーケットの実行団体とほぼイコールであるところのUVライセンス策定者もまた、利用の補償金を包有する代金(言い分は色々言いようがあるでしょうが実質的にはそういうこと)を徴収することを是認していることは、同ライセンスの解説ページの記載趣旨からも明らかであると思います。

逆に「有償」の知的所有権利用契約はというと、典型的な例でいえば、契約期間の定めがあって、期間ごとに金員〇〇円を支払う(サブスクリプション制)であるとか、製品を利用した著作物の売上または利益の発生ごとに〇〇パーセントを支払う場合です。これらはUVライセンスと矛盾する契約の定めにあたると考えられます。

いずれにしてもダウンロード権の売買契約が利用契約に先だったフィーにあたることは疑いようがありませんので、そういう意味で規約本文の「無償(英語表記:free)」の部分はロイヤリティ無償(英語表記:royalty-free)などとなっていなければならないことになります(この点に関しては記載を明確化するため表現の修正を提案中です)。

残りの再許諾不可・非排他的はそのままの意味ですから特に言及しません。そして、一定条件によって「再許諾不可」を打ち消すのが次項ならびに任意の個別条項となります。

著作権法で認められる私的利用の権利

次に第2項についてです。改変の権利は翻案権にかかる事項になります。
創作物の委託制作と聞いて、委託制作モデル作成代行をされているデザイナーさんを思い浮かべる人もいるかと思いますが、そういう人は大抵有償であると思います。有償依頼はUVL-CCUの個別条項(もしくは相応の特記事項)許可される事項であって基本条項には含まれていません。

では、無償の委託制作に該当する行為は何があるでしょうか。

たとえば、VRoid Mobileのスタジオ撮影機能で何人かのアバターが揃った写真を撮りたいから、信頼できる人にVRMファイルを預けるみたいな使い方をする場合が考えられます。写真を「(二次)創作物」とするなら、VRMファイルを預ける人は委託製作者に該当すると考えられます。

あるいは、限られた仲間内で披露するために声優志望の友人に一時的中の人を演じてもらう(無報酬で)も広い意味では私的翻案にあたりますから本規定に該当するかもしれません。

これらを条件を限定した上でモデルデータの利用につき利用者が一定の権利を得るべき根拠は,自分自身や家族・友人など限られた範囲内でのコピーおよび使用を認める著作権法第30条、ないしは、非営利・無料・無報酬での私的な上演・上映の権利を定めた同第38条の1などの記載から類推することができます。

これらは、特段の事情がない限り、著作権者に事前承諾の義務なく行うことができます。

著作権者が私的複製補償金を取ることはできるか

また、同法30条の2において、30条にかかる私的複製等の利用がデジタルデータによる複製である場合、相応の補償金を支払う義務が発生しうることを定めています。この補償金は販売価格に事前に含めることもできますし、後から都度徴収というのもありうるでしょう。

もっとも、UVライセンスにおいては3条の第1項で(ロイヤリティの)「無償」を定めておりますから、一律イニシャルフィーたる販売料金の支払いをもって補償金は支払い済とする契約とみなすのが相当であると考えられます。

 UVライセンスでないライセンスにおいては、私的複製補償金を別料金とすることは十分可能であると思われます。しかし、補償金を支払わずに私的複製等を行ったからといって,私的複製補償金を支払っていないことについて利用者に苦情を申し立てる理由が発生するだけで、これらの行為に事前許可を得させる権利を得るわけではないことは注意してください。

利用者に著作権法30条や38条等の権利を一部又は全部放棄させる契約はできるか?

 著作権法の30条ないし38条のルールに反しない範囲での仲間内での私的複製や利用に関して、利用者が著作権者に事前承諾を得ることを強制したり、あるいは法の適合有無にかかわらず禁止することはできるかという点です。

UV ライセンスでは矛盾しますから当然不可能として、それ以外のライセンスで可能かの問題となります。定型約款は私法上のルールの取り決めで、自由契約ですから、できるかできないかでいうと、当事者のいずれかが不服を申し立てない限り常にできます。

問題は、相手が約束を破った時にペナルティを与えることができるかどうかになります。契約違反であっても「著作権法違反」にはあたらないので法的拘束力は弱くなります。
民法上の信義則違反にあたるので損害賠償請求訴訟を起こすということは十分考えられますが、本来与えられるべき相手の権利を著作権者側が制限する正当性を主張し、立証しなけらばならないので、一般的には厳しいと思われます。

これをやる上で都合の悪いことには、2020年4月より施行の改正民法582条の2(定型約款)の条項で、定型約款における相手の利益を一方的に害するルールは従う必要がないことが明言されています。これは以前UVライセンスの第10条が契約の両当事者の利益を不当に害しえないことの説明においても用いた条文です。

民法582条の2
第2項 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第一条第二項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

国を跨いでもある程度有効なのが著作権法

著作権法上の権利義務は、ベルヌ条約によって国境を跨いでもある程度の法律の互換性が保たれていますが、「著作権法で認められた相手の権利」を「放棄させる契約」が海の向こうで有効であるかは、非常に危ういと思われます。

それよりはむしろ法律上の権利を制限せず、させた上で著作権法上の私権を逸脱した違反があれば法的措置を申し立てるほうがよほど筋が良いでしょう。アメリカにおけるDMCAは日本の著作権法違反に相当する大多数の権利侵害行為に対して非常に強力な措置権限を有しています。

今回のまとめ

基本条項3条にUVライセンスを採用しない理由があるとするのであれば、それはあなたのライセンスが法律に適合していない可能性も十分考えられます。

契約の継続中にロイヤリティや定額料金などの支払を求める契約でなく、二次創作を認める(頒布権を認めるかどうかはオプション次第)契約であれば基本的にはUVライセンスは適用可能です。

基本条項を土台としてコンテンツ利用者に権利を追加したり義務を免除する方向であれば、好きにカスタマイズすることができますから。

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