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高校球児の進路に正解はあるのか?

どうも、やまけん(Twitter:@yam_ak_en)です。

2019年になり、一般企業同様に球界でも新年の仕事が始まっております。各球団の編成部も、新年のスカウト会議を行い、主要ドラフト候補のビデオチェックやチーム方針の確認、ドラフト候補のいる学校や企業にあいさつに出向くなど、10月のドラフト会議に向けて早くも動き出しています。まだまだ寒い日が続きますが、プロ・アマともに球春の訪れを感じますね。

毎年、ドラフト候補の高校生・大学生は試合でのプレーや成績とともに進路の動向が注目されます。現在のドラフト制度では、まず「プロ野球志望届」を提出しないとドラフトで指名される対象選手になりません。たとえ大谷翔平のように160キロのストレートを投げる選手が現れても、清宮幸太郎のように高校3年間で100本以上のホームランを放つ選手が現れても、プロ志望届を提出しなければドラフトで指名されることはありません。そのため、有力な高校生や大学生は進路動向が注目され、高校生なら夏の甲子園(あるいは都道府県大会)終了後に、大学生なら秋のリーグ戦期間中などに、進路動向を伴った報道がされることが多いかと思います。

ご存知の方も多いとは思いますが、千葉県に木更津総合高校という野球の強豪校があります。この3年間、激戦区である夏の千葉県を制して甲子園に進んでおり、県内では既に頭ひとつ抜けた存在になりつつあります。2015年は檜村篤史(壮大新4年)、2016年は早川隆久(早大新3年)、2017年は山下輝(法大新2年)や峯村貴希(日大新2年)、そして昨年は野尻幸輝(法大入学予定)など毎年プロ注目選手を擁しており、さらに新チームには甲子園で149キロを計測した豪腕ドラフト候補・根本太一がいます。このように近年は毎年のようにドラフト候補と呼ばれる選手が出てきているのですが、全員が高校でプロ志望届を出さず、有名大学や社会人チームに進んでいます。そのため、上述の根本のような逸材が出てきても「どうせ進学でしょ?」という目で見られがちなのは否めません。

有望な高校生の進学については、否定的な意見も少なくありません。甲子園で名を馳せた高校生が有名大学に進学し、下級生から多くの登板機会を重ねた挙句故障やスランプ等で高校時代より評価を落とす、プロ入りできなくなるといったケースもあり、否定派は主にこのような例を挙げてくることが多いように感じます。

前置きが長くなってしまいましたが、今日はそんな高校生の進路問題について、自分自身の考えを書いていきたいと思います。

プロの平均引退年齢

プロ野球選手は野球をすることが仕事であり、球団から活躍の対価として年俸が支払われます。レギュラークラスの選手の年俸は数千万、日本代表に選ばれるようなトップ選手の年俸は億の単位に入ってきます。しかしながらプロ野球選手の平均引退年齢は約29歳と言われており、ベテランと呼ばれる選手でも40台半ばにはほとんどが引退して第二のキャリアに進むのが現実です。いつ契約を切られるかわからない世界である上に、どんなに高い能力があっても一生涯をプロ野球選手として過ごせる選手などいません。
一般企業の定年は、現在65歳であるところが多いでしょうか?そのような企業で40歳となると、部署での中心人物になっていたり、課長や部長といった役職に就く階段を上っている最中であったり、現役バリバリと言えるでしょう。プロとしてどんなに頑張っても、一般企業で中心人物となる頃には選手としてのキャリアを終えることになります。まして、平均引退年齢の30歳手前というと、一般企業ではまだまだ若手の部類に入るでしょう。

社会的にまだまだ若手と言える年齢でプロとして野球を続けられなくなった時に何も残らないとなると、その後の人生で苦労することになると思います。セカンドキャリアで一般企業に就職したり、自分で何か新しい事業を始めるにも、法律や経済、社会の知識等を30代で一から学習することになれば大きなディスアドバンテージになるのではないでしょうか?

冒頭に挙げた木更津総合高校で監督を務めている五島卓道氏をはじめ、高校野球の監督が選手に大学進学を勧めるのも、こうしたところが主な要因ではないかと思います。プロとして選手生命を終えた後のことまで考えたときに、高校からプロの世界に入るのと、大学や社会人を経由してプロに入るのではどちらが生徒にとってメリットがあるのか?

プロ野球選手として長く活躍するために大学を経由させるという考えももちろんあると思いますが、それ以上に社会人として活躍するために大学を経由させるという考え方なのかもしれません。

五島監督はインタビュー記事の中で、プロは最終目標ではなく就職先のひとつと考えてほしい、と答えています。

「私が常々部員に言っているのは、『プロに行くことを目的にするな』ということです。プロは、あくまでお金を稼ぐ場です。サラリーマンの生涯賃金を、わずか数年で稼いでしまうのがプロ。でも、引退後の人生の方が長いし、そこまで稼ぐ前にクビになるケースもある。プロを最終的な目標とするのではなく、あくまで就職先のひとつ、と考えてほしいんです」

上位指名と下位指名の待遇の差

以前noteにも書きましたが、ドラフトの順位的な話をすると、上位指名の選手の方が好待遇を受けやすい傾向にあり、逆に下位指名の選手となると成績を残せなければあっという間に戦力外になるということも少なくありません。下位指名の選手だと、上位指名で入ってきた後輩選手に優先的に出場機会が与えられ、試合に出ることすらままならないといった状況すらあります。「プロに入ればスタートラインは一緒」とよく言われますが、本当にそうであるとは考えにくいこともあります。

前述の五島監督は、「これまで『下位指名でもいいから直接プロに行きたい!』と言った部員はいないのですか?」という質問に対し、

「事あるごとに、今話したようなことをコチョコチョと……ね(笑い)。私だけではなく、周囲もそうやって説得していますから。実際は何が正しいのかわかりませんけどね。私が大学(早大)、社会人(川崎製鉄神戸)と歩んできたから、その道が一番いい、と思っているのかもしれない。やはり高卒で下位指名は、『ちょっと待てよ、それなら大学に4年間行ってからでも遅くないぞ』と考えてしまう。ホント、松井秀喜みたいなのがいれば、直接プロに行かせるのも反対はしませんけどね(笑い)」

と答えています。

我々のような一般の野球好きからすれば、有望な選手が出てきたらやはり「プロで見たい!」と思って当然かもしれません。進学を恨む気持ちもわかります。しかし、保護者から生徒を授かっている高校野球の指導者としては、責任を持って生徒を送り出す必要があります。プロに送り出した自分の生徒が数年でプロから戦力外通告を受け引退した時に、指導者はその選手のセカンドキャリアを保証してあげることができるのでしょうか?指導者はそこまで踏まえて選手の進路を決めているのだろうとも思います。

もちろん、客観的に見ても4年間が長すぎるケースというのはあると思います。五島監督がインタビューの中で挙げた松井秀喜のような選手にとっては大学の4年間で得るものは少なく、4年の時間に釣り合わないものなのかもしれません。そうしたケースは指導者サイドも自信を持って送り出すべきだと思います。

三者三様のケース

2015年、エース・佐藤世那と正捕手・郡司裕也のバッテリーが抑え、高校ナンバーワン内野手とも呼ばれた平沢大河が打って甲子園準優勝までたどり着いた仙台育英高校の野球部を覚えている方は少なくないかと思います。平沢と佐藤は高校からプロ志望届を提出し、平沢は1巡目で2球団競合の末千葉ロッテに、佐藤は6巡目でオリックスに入団。郡司も高校日本代表に選出されるなど注目されていましたが、高校からプロへは進まず、慶應義塾大学の野球部に進む選択をしました。

ドラフト1位で入団した平沢は3年目である昨シーズン、一軍で112試合に出場。レギュラーへの階段を着々と登っています。名門・慶應義塾大に進学した郡司は1年秋から捕手としてスタメンに名を連ね、4年生となった今年はドラフトでの上位指名も有力視されています。しかしながら、ドラフト6位でプロに入った佐藤は、二軍でもなかなか結果を残せず、度重なるフォーム改造を行うものの結局昨シーズンオフに戦力外通告を受けてしまいました。合同トライアウトを受けるもNPB球団からのオファーはなく、今季から社会人クラブチームである横浜球友クラブでプレーすることを選択しました。

ドラフト1位でプロの世界に入り、今にもレギュラーを掴もうとしている平沢。大学を経由してドラフト上位でプロの門を叩こうとする郡司。ドラフト下位で入団するものの、同年代の大学生がプロ入りするより先にNPBを離れることになった佐藤。この3人を見ると、やはり”高校からプロへ行くことだけが正解ではない”と考えさせられます。

正解のない問題

冒頭に「正解はあるのか?」と書いた高校生の進路の問題。結論を書くなら、やはり正解は「ない」のではないでしょうか?

同じ仙台育英高校の野球部で学年も同じだった3名もそれぞれ三者三様の選択をし、三者三様の道を歩んでいます。正解を選ぶというよりも、選んだ道を正解にする、という方が正しいのかと思います。正解ではありませんが、ひとつ挙げるとすれば、高校からプロに進むことだけが全てとは限らない、ということだと思います。

木更津総合高校から早稲田大学に進学した檜村篤史は今秋のドラフトでの指名が有力視されており、1学年下の早川隆久も上級生が抜けたチームにおいてエース候補として期待されています。彼らは現状、選んだ道を正解にできているのではないかと個人的に思います。

選んだ道を正解にするためにも、指導者にはもちろんのこと、生徒や保護者にもプロや大学・社会人などそれぞれのメリットやデメリットをしっかりと把握していただきたく思います。我々一般野球ファンも、選手に直接関わることはあり得ないにしても、それぞれの進路のメリットやデメリットは把握しておくべきなのかもしれませんね。

五島監督のインタビュー記事:https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/235038/3

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