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"未来と現実"DJ SPI-K「MARZEL」リリースインタビュー

2020年11月、DJ SPI-KがMIX CD「MARZEL」をリリースした。個人の活動以外にも梅田サイファーの専属バックDJとしても活動しており、近年で活動の幅を大いに拡げたSPI-K。
今作の「MARZEL」はSPI-K自身のキャリアを示す様に、関わりのある周りのラッパー達の代表曲からアルバム曲までSPI-Kの琴線に触れた26曲を収録。その内の2曲は「MARZEL」でしか聴けない新曲も入っている。主に選曲されている梅田サイファーやFreak's'、DJ SPI-K周りの界隈のラッパーを一気に追えるだけでなく、人生の過渡期の一つを迎えているDJ SPI-Kが、26曲全体を通して葛藤や希望まで表現されている一作だ。
場所は兵庫県伊丹で行われている無料音楽フェス"ITAMI GREEN JAM"の本拠地でもある「MOGURA CAFE」。現在は閉業しているクラブ"xM(クロスエム)"などにも縁があり、伊丹はDJ SPI-Kにとって欠かせないスポットである。
今作でDJとして表現した事や、現在の自身が置かれている環境から家庭を持つ1人の父親としての素顔まで語り尽くした1時間ロングインタビュー。

出演 DJ SPI-K (interviewer: kyotaro yamakawa)
編集・構成 kyotaro yamakawa
写真 hiroaki ando
場所提供 xMOGURA CAFE(兵庫県伊丹市中央区4丁目5-10 GREENJAM BUILDINGS 2階)

ー 自分の思う未来と、このままでいいんかっていう現実と。


・今作の制作のきっかけは何ですか?

「毎年MIX CDは昔から出していて、2018年に関西圏のラッパー達に声をかけて作った無料で配布のMIX TAPEがあるんですけど。それが2019年で全て無事に配布できてありがたい事に好評の声も頂いたんですね。特に2019年は遠方によくDJで行く事も増えて、その中で『お金を払いたい』とか価値を見出してくれる人と出会えた事もあった。なので今度は、無料という枠ではなく『自分にどういう価値があるのか』という部分を考えて制作しました。
それと30歳という区切りもあって、最初はコンピレーションアルバムを作る計画でトラックも7,8曲は作ってあったんですけど、途中でPCが壊れるっていうハプニングがありまして(笑)。ただ30歳の間に1枚出そうという目標はあって、MIX CDの案も思い浮かんでいたので、色々な権利関係もクリアしながら制作を始めたって感じですね。」

・凄くスパイケーさんの人柄に溢れた一作になっているなと感じました。
 今作でのMIXや選曲のこだわりはありますか?

「今作の選曲に関しては、自分の周りのアーティスト達がメインですね。この中には大会で何度も優勝したりして知名度があるラッパーもいれば、(そのアーティスト自身が)自分ではまだまだこれからやって言ってるアーティストの人もいるけど、それを一つの作品に混ぜる事ができるのは俺の作品でしか出来ないことちゃうんかなって思う。この作品に収録されているアーティスト達のファン同士が、新たに違うアーティストにこの作品内で出会えてサブスクとかでチェックするっていうのは俺にとっては一番の理想。
有名な曲をかけて盛り上がるフロアは当たり前で、そもそもの自分のDJとしてのポリシーの話やけど、その曲が一体どういう曲なのかを明確に提示してリスナーに知らない曲と巡り合わせたい。一番の理想は知らない曲で踊らせたい。」

・スパイケーさんをきっかけにディグが拡がるっていう感じですよね。
「且つ、難しいことをしないようにはしてるかな。簡単に伝える方が受け手にも伝わりやすいっていうのがあって。今回も今まで出した作品も好評を頂いてる部分は、シンプルに繋いでる部分と曲から曲へどういう意味合いで繋がっているかっていうのを大事にしてる。参加してもらってるアーティストの曲をもっと前に出すっていうのが俺の役目やと思うんで。基本、DJってアーティストがいないと曲をかけれないからこそ、お互いに上がっていける事を意識してるかな。」

・僕が普段スパイケーさんのDJをフロアで見てて感じる印象に近いなって今思いました。
有名な曲をかけるのもありながら、そこに隠してマイナーな曲も入れたりしてますよね。

「正にそれはめっちゃ嬉しい答えで。色んなイベントに出ててその評価をいただくことが多くて。例えば有名アーティストの曲で繋いでる中に、上げたいアーティストの曲を中心に持ってきて、当日にDJしてる最中とかでも曲順を変えていくっていう。DJならみんなやってることやろうけど(笑)。
今回の作品は俺自身、家庭もあって仕事もある中でどうやって効率的に時間を使っていくかって意識しながら制作していた部分もあるので、遅かったけど11月にようやくリリースできました。」

・今作は新曲も2曲収録されていますよね。
「これは冒頭にも言ったコンピレーションを計画していた時に入れようとしてた曲への思いも若干あって(笑)。一曲目にある、R君(R-指定)のINTROから始まって次に来る"未来と現実 feat.ふぁんく,peko,tella"なんですけど。
この曲は、結婚して子供が生まれてっていう表面的にしかイメージできていなかった現実を今自分は受け止めていて。今までこれが理由で音楽を辞めていった同業者もいっぱい見てきて、それは忙しさのせいっていうのも今自分は体験中だし。でも周りのアーティストのおかげで、色んなイベントに出れて少しずつ自分の成長も感じてる中で色んな葛藤があるわけですよ。自分の思う未来と、このままでいいんかっていう現実と。
それと30歳っていうタイミングで改めて再出発したいっていう決意を曲で表現したくて、今回はMIX CDっていう形になったけど絶対入れたいなって思って制作しました。」

HIPHOPの中でも父親目線の曲は多々ありますけど、凄く異彩を放っている曲だなと感じました。言い方は悪いかもしれませんが、音楽だけで生活できている人じゃ到底描けない様な曲だなって。
人生的にも、そしてグループとしても過渡期を迎えつつある皆さんのアーティストとしての輪郭や人間味がより具体的に見えてくると感じました。「天秤」というワードがとても印象的に残っています。
「ありがとう。最初に声をかけたのは、ふぁんく君とpekoさんやったんよ。ふぁんく君は同い年やのに、あそこまで大きい父親としての姿を見せてくれる部分が凄いなって思ってたし、pekoさんも子供が生まれても作品を作り続けてる人で。まずその2人に依頼したらすぐ了承してくれた。
ふぁんく君はすぐリリック書いてRECしてくれて、あのヴァースを聴いた時に「マジでこいつヤバいな」って若干泣きそうになりながら思ったね(笑)。ふぁんく君はうちより子供が大きいねんけど、俺も将来こうなっていくんやろなって未来を見せてくれてるし、且つ現実はこういうものだってこのリリックで表現してくれてる。
このヴァースが完成した時にフックをどうするべきか考えた時に、「おいマジか、梅田にはtella君おるやん」って(笑)。しかもうちの子とtella君の子は年齢も近いし声かけるべきやんって思って、ふぁんく君のREC終わりにすぐ電話したのを覚えてる。そしたらtella君もすぐ書いてくれた。まずフックだけを依頼してたんやけど、見事にフックであそこまでの表現をしてくれて。ほんまに凄い。みんな信用してるラッパーなだけに、その信用をしっかり返してくれるっていう。その後にpekoさんがしっかり抑えてくるようなヴァースを書いてくれて、色々な協議をした後にtella君のアウトロになって、めちゃくちゃ理想的な曲になったね。
そしてトラックはCosaquさんにお願いしました。BPMとか詳細を伝えて、デモを何曲か聴かせてもらってあの形になって。ほんまにCosaquさんは凄い。イントロのあの音から繋がる曲の過程もえぐい(笑)。
結果的に俺は何してんねんって話やねんけど、俺もどうしても伝えたいものがあって、それを伝えたのが冒頭で入ってくるスクラッチの部分。俺も思い浮かんでる言葉はあるんやけど、俺はラッパーじゃなくてDJやから。この3人と、後に入ってきてくれたKZさん含めた4人の曲の中から俺の思ってる言葉をディグして、一番気持ち良いポジションに曲をスクラッチで入れて、結論を最初に俺のスクラッチで言ってしまうっていう。そこに一番こだわったかな。」

・本当にDJなりの表現ですよね。
「もうその部分が気になる人は…MARZEL買って?(笑)。完成した曲を聴いて、夜の車の中で聴いて本当に泣きそうになった。
(梅田サイファーが夏に行った)白浜の制作合宿から帰る時にもKBDさんに『めっちゃ良いのできたんですよ』って聴かせたら『めっちゃ良いね』って褒めてくれたんですけど、pekoさんのヴァースが終わったぐらいにしっかり横で寝てました(笑)。」

・もう一つの新曲、"あいにいくfeat.KZ"の制作は如何でしたか?
「周りのおかげで2018,19年は全国色んな所に行かしてもらう機会が増えたんですけど、今年はコロナっていうのもあって自分達の事を知ってくれてる人達にも画面越しでしか会えない事が多くて。KZさんにこういう曲を作りたいんですっていう話をしたら「一緒に作ろう」って言ってもらえたのがきっかけかな。KZさんにトラックをいただいてリリックを書いてもらった中にフックで俺がスクラッチを入れるっていう曲になって。そういう曲はKZさんの曲でも今まで無かったしね。あとタイトルは、自分の中でもシンプルな伝え方にしたかったから漢字じゃなくてひらがなにしたっていう(笑)。この曲を通じて、コロナが落ち着いたら本当にみんなに会いに行きたいっすね。」

・KZさんらしいポジティブな言葉に溢れた一曲ですよね。
「この曲に関しては、一回俺もリリック書いたんですよ。でも、それをKZさんに見せたらボツって言われて(笑)。
ただKZさんはそこで凄い良い事を言ってくれたのを覚えてる。『色んな場所で良いお客さん達に出会えたからこそ良い作品を世の中に出さないといけない、だから生半可な気持ちでやる事じゃない』って。厳しい一言であり、この言葉はめちゃくちゃ嬉しかったかな。で、速攻で俺のリリックは消しました(笑)。」

ー 100人でもたった1人でも、知らない曲で踊らせて巡り合わせたい

・現在のご自身には欠かせないであろう"梅田サイファー"とは、DJ SPI-Kにとってどういう存在ですか?
「俺は梅田サイファーとしては、19年に入って歴が一番浅くて。元々ヘッズで、面識が一番少なかったのは間違いなく俺やと思うし、最初は受け入れてもらえるか不安もありながらやけどみんな仲良くしてくれる中で…大乱闘スマッシュブラザーズのキャラになれたらな、と(笑)。あのオールスターの中で、やっとランダム部分に入ったかなって(笑)。」

・隠しキャラの1人にいる感じですね(笑)。あの歩道橋で全員集合してるアー写を見ると胸が熱くなりますよね。
「あのクアトロの後に撮ったやつやんね。あれは熱いな。あれ撮って初めて一員になれたかなっていう。一年通してみんなでライブしたのもあるし、誰とは言わないけど「スパイケーがいてくれたからまとまってる」ってちゃんと言葉にして伝えてくれたのもあって。それは責任感に変わっていったし、凄く大事な場所にもなっていってますね。

・実際、梅田サイファーの過程にとってもスパイケーさんの存在は欠かせないですよね。「Never Get Old」を出すきっかけにも繋がったイベントはスパイケーさんが主催してたり。
「そうそう。丁度今インタビューしてるこの場所が僕の地元の伊丹で、"xMOGURA CAFE"っていう所なんですけど、ここの隣にxM(クロスエム)っていう去年に閉業した老舗のクラブがあって。そこで"SWAN CAMP"っていうイベントを僕がオーガナイズしてました。それが7回目で2箇所同時開催になった時に、自分はずっと梅田サイファーのヘッズやったから梅田を呼びたいって思って。当時はイベントもよく一緒に出てて面識はあったけど、改めて梅田サイファーをグループとしてライブで観たくて。
KZさんに声かけたらみんなで来てくれたんですけど、蓋を開けると凄く残念な結果で。他のアーティストのお客さんが沢山いたのもあって、梅田のライブをガチで観てたのはたしか3人やったんですよ。勿論俺らも見てたけど、梅田を目的で見に来たのが今じゃ考えられないけど3人やった。」

・スパイケーさんのnoteに上がってる写真ですよね。
「俺は最前列で見てたけどね(笑)。その残念な結果でみんなにも変な気分にさせてしまったり。お互いにごめんねとは言い合ったんやけど。その時に一つ思ったのが、俺らって音楽でしか会ってないなって。こういうイベントでしか会話することがないと思って、KBDさんとKZさんをサシで飲みに誘ったんですよ。それが2018年の5月…かな?最終的に中之島公園での大宴会に繋がったんやけど(笑)。サシ飲みで誘ってるのに結果的に大宴会になっちゃって(笑)。ほんまにもう無茶苦茶な出来事ばっかりやった(笑)。
ほんで最後の方になると、KZさんとKBDさん2人で端の方で真面目に話してたっていう。それが後に「Never Get Old」に繋がったらしくて。"俺らこのままでいいんかな"みたいな話をずっとしてたみたいで。これは絶対に記事に書いて欲しいんですけど、俺はあの2人を飲みに誘ったのに結果的に誘われた方の2人で飲んでたっていう(笑)。そこは未だに覚えてる!(笑)。」

・(一同爆笑)。マストで書いておきますね(笑)。
「俺は一切関係なかった立場なんですけど、Never Get Oldが完成してから、ガガ君(ILL SWAG GAGA)から梅田サイファーは今まで専属のバックDJがおらんかったっていう話を聞いて。今までは例えば、Ken君とかHAMAYA君だったりラッパーの誰かがDJしてたり、そこに決まりは無かったらしくて。で、梅田のノリを一番理解してくれてる俺にDJをお願いできないかなっていうのが全ての始まりやった。当時の俺はガガ君からの電話やから一切信用してなかったんやけど(笑)。
そこから忘れもしない2019年の1月、アルバムもリリースしてないしまだ"マジでハイ"のMVも出る前に「Hole Earth Drive」っていうイベントが初めてのバックDJやったね。何で忘れもしないかっていうと、このイベントは機材トラブルがいっぱいあって。俺は演者やのにスタッフみたいな動きしてた(笑)。それで自分達の本番が来て、まだMVも出てない"マジでハイ"がR君のアカペラから始まってやろうってなった時に、音が針飛びするっていう。忘れもせーへん(笑)。そこからR君がカバーしてくれて、スパイケー2回目はいけるぜってなったんやけど、またミスった(笑)。」

・怖いですねそれ…(笑)
「これはいよいよヤバいと(笑)。レコードを回さなくても流せるやり方があったから、それのおかげで何とか3回目ギリギリかけれて。後にみんなが言うフォローは、"3回サビをやらしてもらったおかげで、そのフックがお客さんの耳に残った"って言ってくれたね(笑)。初めてのバックDJで一番大きい失態をやってしまって。それで言うと、この大所帯を俺がしくじるだけで全部ストップする恐怖感はえげつない。だから準備は欠かせなくなったよね。当たり前かもしれないけど。
…これ言うた後にミスってたら爆笑やろな(笑)。」

・色んな意味で今度のツアーやワンマンが楽しみですね(笑)
最後になりますが、改めて「MARZEL」はどんな作品になりましたか?

「俺が聴かしたい曲をしっかり揃えることができた、それに尽きるかな。一曲一曲の繋ぎ方に対してもシンプルだけど、全体通して想いを伝えることが出来たと思う。曲順で例を出すなら、ふぁんく君の"大脱走"して、Freak's'の"夢中"になったままPEAKY's CLUBの"ヨルニトケテク"、みたいな。こういう言葉だけでも流れがしっかりとできてる感じで。あとはみんなにまだ知られてない曲で言うと、5曲目のK'z one君の"空を飛べない俺たちは"から、6曲目のRiku君の"Re Start"も俺的にはめっちゃ繋ぎがハマったし。日本語ラップというか日本語をしっかりと伝えれるように出来た作品かなって思ってます。」

・梅田周りのDJならではのイズムが伝わってきますね。
「ありがとうございます。あと一曲目のR君(R-指定)が許可を出してくれただけでも俺的には奇跡って思うし。今までの経験と関係性があったからこその一枚に仕上がったね。信頼関係で出来た作品になりました。」

・DJ SPI-Kとして将来の展望はありますか?
「勿論これからも梅田サイファーのバックアップを続けていきたいと思うし、結論を先に言うなら60歳になってもずっと音楽と共にあり続けたい。いつまで経ってもそこにいる100人でもたった1人でも知らない曲で踊らせて巡り合わせたいね。それは10年経っても変わらないかな。俺は凄くシンプルな考え方で、客層が深い所知らなければポップスを沢山持って行くしね。40,50のおっちゃんおったらマジでマイケルジャクソンやアースウィンドアンドファイヤーばっかりかけるし(笑)。
今は梅田サイファーとしてのスパイケーっておまけ感が凄いけど、やっぱり個人としても頑張りたいって事で。最近は企業からの案件も謎に貰えるハプニングが起こってたりしてて(笑)。これは記事に書かんといて欲しいんやけど…」

・えー!そんな所から案件くるんですか!(笑)
 記事にする時めっちゃ濁して書かないとですよ。

「とりあえず、西の某テーマパークとだけは言っておくわ(笑)。
それと今本当にありがたいことに、東京ディズニーリゾート®︎・オフィシャルホテルからDJのオファーもらったり、正に夢の様な案件もいただけたり(笑)。聴いてくれる人は聴いてくれてるんかなって思ったね。そういう思わぬ出会いも色々トライしながら、自分の展開をどんどん拡げていきたいな、と。その中で自分の名刺代わりになってる「MARZEL」をどんどん世の中に発信していきたい。」

・このインタビューを読んでくれた方に何かメッセージはありますか?
「DJができるのはやっぱりアーティストがいるから。そのアーティストの素晴らしい曲に巡り会えるよう俺は色んな曲をかけます。俺のかけた曲を聴いてもらって、知ってもらった曲はサブスクなりCDを買ったりしてチェックしてください。それがアーティストへの還元であり、俺へのリスペクトですね。なので、その為にも「MARZEL」チェック宜しくお願いします!」

(MARZELご購入の方、上記のサイトから是非!)

出演 DJ SPI-K (interviewer: kyotaro yamakawa)
編集・構成 kyotaro yamakawa
写真 hiroaki ando
場所提供 xMOGURA CAFE(兵庫県伊丹市中央区4丁目5-10 GREENJAM BUILDINGS 2階)

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