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求む!半沢直樹!ー老人介護のリアルー

ウンチしない人いる?

うちは家訓で先祖代々ウンチはしない事になっているとか、
宗教上の理由で禁忌だとか
所属する国の法律で禁止されているとかの理由で

しない人いるかな?


よし!


いないな?


わかった人、手を上げて。

そう、誰でもウンチするしオシッコもする。

人間は哺乳類、つまり動物だから、生まれてから死ぬまで摂取と排泄を繰り返すのである。ざっと700万年前にアフリカでサヘラントロプスが二足歩行を開始した時点からそう決まっている。ウンチの化石だってしっかり残っているし。

さて、舞台は、グレイッシュ・ホーム。

礼子さんの場合

礼子さん(仮名80代女性)という女性がいる。彼女は、体が不自由で車椅子でなければ移動もままならない。ある程度手足は動かせるけれど、自分で全部食べるほどの力は無く、食事も介助が必要だ。が、頭脳明晰で心根の優しいお婆さんである。

ところが、礼子さんは、10月の深夜に発生した「弄便事件」以来、スタッフからこう呼ばれるようになった。

「大魔神」と。


なぜだろう?

その夜、夜勤担当職員が、見回りに行ったところ、布団、カーテン、床など広範囲に散乱したウンチを発見!なおもウンチをなすり付ける礼子さんを抑止し、パッドからパジャマからシーツ、布団カバー、カーテン、つまり何もかもを洗濯したり交換したりして、精も根も尽き果てるという事件が起こったからである。

が、私の知る礼子さんはというと?
食事介助をしている時、彼女は必ずこう私に言う。

「半分あげようか?」

「あなたも食べなさい。」

「ありがとうね。でも、私はもういただいたから大丈夫。これは礼子さんのお食事だからしっかり食べてね。」

「でも、おいしいよ?」

「ちょっと食べてみな?」

お姉ちゃんの分はどこにあるの?」
(老人相手で何が嬉しいかってコレですよ、コレ!弟以外の人からお姉ちゃんと呼ばれること!)

「あっちの方だよ。」

「あっちってそっちかい?」

「うん、そう、そっち。」

「そっちのあっちかい。」

そのうちに、なんだか2人とも可笑しくなってクスクス笑い出してしまうのである。

この礼子さん、口元の汚れにはとても敏感だ。ほんの少しお汁が垂れただけで拭おうとする。だから、おしぼりを手にスタンバっているのだが、それでも「ほれほれ、ここ。」と指摘される事も多い。つまり、かなりのキレイ好きなのだ。

そのかなりのキレイ好きの礼子さん、夜中にお尻のあたりがなんだか気持ち悪いことに気がついた。ウンチである。
礼子さんはどうにかしてそれを取り除きたかったのではないだろうか?

だから、掬っては投げ、掬っては投げ、を繰り返した。
今度は、ヌルヌルした手が気持ち悪いからパジャマやお布団で拭き取る。
これを専門用語で「弄便」というのだが、本人的には快適になりたい一心かもしれないではないか?

だって、気持ち悪いよね?
ウンチがお尻にべったりくっついていたら
寝られる?
寝られないでしょ?
フツー。

あるケアマネさんに聞いたところ、「弄便」には幾つか対処法があるという。まずは本人のヒストリーや病歴を把握している事が大前提なのだが、通常はスタッフ間で話し合い、対応策を決めるという。

1、「注目を集めたい、ストレスがあるetc心の問題かもしれないのでカウン
   セリングを受けていただく。
2、排便周期を把握し、こまめにチェックする。
3、下剤を使って排便をコントロールする。
4、(家族の了解を得て)ミトンやツナギを使う。(つまり物理的にウンチ  
  を触れないようにする。)

グレイッシュ・ホームでは秒速で4、が採択され、礼子さんは、翌日からミトンを手に被せられて寝るようになった。
更に後ろ側を紐で縛るタイプのズボン(自分で脱げないように)を履かされてもいる。


一平さんの場合(仮名80代)
一平さんはかなり進行した認知症である。認知症が進むとウンコオシッコがわからなくなる。便意も尿意も感じなくなるらしいのだ。
だから、意識がはっきりしている人のように「気持ち悪いからオムツ交換して」とか言えない。
言えないから、結果的に放置される(されているかのように私には見える。)
廊下ですれ違うとウンチの臭いがプーンという時が多々ある。
でも、本人のせいではない。決して。

真弓さん(仮名80代)の場合

真弓さんは、生涯を学究の徒として過ごして来られた方だ。仏語に堪能で翻訳家としての実績もある知的で教養豊かな女性である。が、病のため半身麻痺で思うように体を動かせない。だから施設にいる。

グレイッシュ・ホームでは排便介助の時間が決まっていて、大抵は昼食後、順ぐりに各部屋を回る。真弓さんの順番は12時10分だ。

ある日のこと、巡回にいくと真弓さんが困惑した顔でこう言った。

「ごめんなさい。我慢出来なくて出ちゃったのよ。」

そりゃあそうだよね?
出物腫れ物ところ嫌わずって言うじゃん?

が、驚いたことに若いスタッフはこう言ったのである。

「どうして我慢できないのかな?」

「12時10分て言ったよね?」

このスタッフは手間が増えたことに怒っているのである。
でもさー、その手間ってパッド交換するだけだよ?

「ごめんなさいね。」と真弓さんが蚊の鳴くような声で言う。

若いスタッフの手荒な排便介助が終わり、部屋を後にしたのだが・・・。

真弓さんは、半身麻痺となった今でも読書家である。
一つの言語を習得し、その言葉を使いこなす事で生きてきた人である。うんと頑張って勉強してきた人なんだよ?

それが、30そこそこの日本語さえ怪しい小僧になぜ叱られなければならないのだろう?
しかも、その理由ときたら指定された時間以前に排泄したからって!!

アンビリーバボーなんだけど!


私は思う。ある日、礼子さんは手足が自由に使えるようになり、一平さんもシャキーンとして、真弓さんに至ってはスタコラサッサと歩き出し、3人がかりで悪い小僧どもをウンチの海に沈めて懲らしめましたとさ。
とかなりませんかね?

もしくは、いつかあの世へ行ってからの話だけど

化けて出る


のはアリだな、うん。

私が許す!


でも、その前に。

求む!

半沢直樹!

倍返ししてくれい!



最後にちょっと真面目な話をします。
税金を滞納したり誤魔化したりすれば、税務署の調査が入る。労働基準法に違反したら、労働基準局に訴えればいい。健康被害や、宗教がらみの問題などは集団訴訟という方法もある。

だが、老人施設の場合は?状況をひっくり返せるのは家族だけれど、人質を取られているようなものだから、それもままならない。もちろん、真摯に取り組んでおられる介護士さんもゴマンとおられるのは私もよく知っている。が、なんらかのチェック機能が必要なのではないか?と強く強く思う次第。

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シリーズ最初の記事はこちら

注:この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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