【パイレーツ・オブ・ニンジャ #1】

◆これはニンジャスレイヤー二次創作作品であり、なんか。◆

「よい天気ですね」「ええよい天気です」カチグミサラリマンのニキタ・ヤマダとジョン・マサヨシは、晴れ渡る南大西洋上、電子戦争前から寝かせてあった貴重な50年物のワインを惜しげも無く飲み交わしている。

「いいワインですね」「いいワインです」二人がいるのは豪華客船ダイスケ・タクアン号、展望デッキの一角にある丸テーブルである。純白に輝く大型豪華客船ダイスケ・タクアン号はドザンコ・ムラタ社の慰安旅行のために貸し切られている。

「それにしてもあれはよいものですね」「ええ、大変よいエメツです」ゴウランガ。そう、エメツである。ダイスケ・タクアン号は豪華客船に偽装した大型エメツ輸送船だったのだ!無論、慰安旅行など存在しない!

ダイスケ・タクアン号の、客室が並んでいるように見える側面のほとんどはハリ・ボテと呼ばれる特殊な壁でできており、内部には巨大なエメツ格納空間がある。そのほか、様々な用途で使われる貨物室や、船のオーナーであるジョンや来客、護衛の傭兵ニンジャ達が寝泊まりするための客室も存在している。

一時間後、ニキタは「禁止」と威圧的にショドーされた純白の水密扉をくぐり、薄暗い一室に入った。いつのまにか白いニンジャ装束となっている。「クイックファイア=サン、異常はないか?」「ない、暇すぎるからサケかオイランをくれねぇか。ドロイドでもいい」「ダメだ。そういう規則だ」「いいじゃねぇか少しくらい、ホワイトロック=サンよぉ」「...」

クイックファイアと呼ばれた赤い装束のニンジャはこの航海中17回目の懇願を無視されると、諦めて無言になり軽く右頬をさすった。彼の右頰には15回目の懇願の際に殴られたアザが鈍く青みがかっている。

一方ニキタ、つまりホワイトロックは部屋の中央の台座に置かれたハンドボール大の黒い塊に目を向けた。大型の不純エメツである。この船は大量のエメツを石炭運搬船めいて運んでいるが、ナイジェリアのラゴスで特別な加工を施されたこの不純エメツはこうして特別に隔離され、ニンジャによる護衛もつく。

「とにかく、気を抜くな」午後1時の定時確認を終えたホワイトロックはそう言い残して部屋を去った。クイックファイヤは軽くオジギし、8回目の懇願で殴られた左頬をさすった。

30秒後、船に爆音が轟いた。

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「プガー」「プガー」「敵襲ドスエ」「プガー」サイレンと合成マイコ音声の不協和音が鳴り響く廊下をホワイトロックは艦橋へダッシュ、エントリーした。「どうなっている!」自室からの直通通路で先に艦橋に到着していたジョンがやや慌てた様子で応じた。「ニキタ=サン!魚雷による攻撃を受けて左スクリューがやられ...」CABOOOOM!爆音によって言葉が遮られた。

「今度はなんだ!」「こちらの迎撃魚雷が二発目の敵魚雷を迎撃しました」ダイスケ・タクアン号は敵襲に備えていくらかの武装を積んでいる。「敵は何者だ」「わかりません、潜水艦のようですが...」今度は合成マイコ音声がジョンの言葉を遮った。「警告!警告!左弦至近距離に急上昇中の物体あり」

その「物体」はまず5メートルほどの漆黒のアンテナ的な棒を海面から現し、次に直径20mほどはあろうかという漆黒の艦橋が現れ、さらに60メートルほど上昇していくと、幾多のサイバー光を無数の機械類から発する漆黒のビルめいた異様な構造物の全容が見えてきた。さらに上昇するとその左右に電子戦争以前の世界戦争を思わせる巨大な砲塔が全部で4つ海面から顔を出し、次いで300メートルはあろうかと思われる船体が現れた。漆黒の戦艦は海水を滴らせ、装甲と装甲の間からは虹色のサイバー光を発している。

「...」ジョンは絶句した。3秒後、我に返った時すでにホワイトロックの姿はなく、粉砕された艦橋の窓から海風が吹き込んだ。「...あれは、グレーター・マイコ級サイバー戦艦!」

ーーーーーーー

ホワイトロックが艦橋の窓を蹴破り、その勢いで跳躍、屋上に着地すると既に2人のニンジャが立っていた。ナックルバスターとフィストブレイカーである。ナックルバスターはオレンジ装束にフルメンポでメリケンサックを武器としており、フィストブレイカーは緑色のジュードーギめいた装束が特徴の無口ニンジャである。

三人は傭兵ニンジャで、この船にはさらにもう一人の傭兵ニンジャが乗船している。「ウォータースプリント=サンはどうした?」「もう目標へ向かった」ホワイトロックの質問に答えたナックルバスターは、ダイスケ・タクアン号と漆黒の戦艦の間の海を指差した。

ウォータースプリントは水面を走ることを得意とするニンジャで、必要とあれば水面で立ち止まることもできる。ウォータースプリントは足裏からカラテを水に伝えることによって彼の足元の水だけを固めることができるのだ。

前方、漆黒の戦艦までの距離は約1000メートル。今ウォータースプリントは秒速10メートルという自己ベストには遠く及ばないスピードで戦艦に近づいている。彼のニンジャ第六感がウカツに近くべからず、と警告を発しているのだ。

その時、戦艦の一番前の砲塔が旋回し、漆黒のサイバー三連装砲がウォータースプリントに狙いを定めた。ウォータースプリントは微笑んだ。(バカメ!高速で移動しているニンジャに大砲など当たるはずもなし。仮に俺に当たる軌道だとしても、高速回避可能だ!)

三連装砲が火を吹いた。コンマ1秒後、弾はウォータースプリントのスプリント軌道を正確に予測し彼の顔前1メートルまで迫った。「ヌウッ!」ウォータースプリントにとっては予想外ではあったが想定内である。ウォータースプリントはブリッジ回避の動作に入った。(弾は俺の腹すれすれを通過し、その後、無意味に爆発するだろう)しかし彼は計算違いをしていた。弾は彼の腹の上を通り...そこで爆発したのだ!ウォータースプリントは爆発四散!いかにニンジャといえ至近距離の殺人的爆発には晒されれば死ぬ。

ナックルバスターは目を見開いた。「ウォータースプリント=サンがやられただと!」「うろたえるな。敵の弾丸はニンジャソウルを検知して爆発するものだと考えよう」ホワイトロックは冷静に分析した。「よってウカツに弾に近づくべからず」三連装砲が再び火を吹いた。三人はジャンプ跳躍、散開し、弾は三人がいた場所を通過していった。

「ホワイトロック=サン!また何かくるぞ!」「見えている」すると今度は数百はあろうかという対ニンジャマイクロミサイルが降り注いできた!「イヤーッ!」ホワイトロックはミサイルを自前のホワイトスリケンで破壊!

「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!

「イヤーッ!」ナックバスターはミサイルをメリケンサックで破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!「イヤーッ!」ミサイル破壊!

「...」フィストブレイカーはミサイルを素手の拳で破壊!「...」ミサイル破壊!「...」ミサイル破壊!「...」ミサイル破壊!「...」ミサイル破壊!「...」ミサイル破壊!「...」ミサイル破壊!

「イヤーッ!、シマッタ!」ホワイトロックは気付いた、三人がマイクロミサイルの対処に追われている間に戦艦が近づき、接舷してしまったのだ。さらに戦艦から、ニンジャと思われる人影が乗り込んできたではないか。「ウカツ!敵の狙いは不純エメツだ!ナックルバスター=サン、フィストブレイカー=サン、なんとしてでもクイックファイヤ=サンの援護に行くぞ」

ホワイトロックは右手でスリケンを連射しつつ、スプリントを開始した。走りながら全てのマイクロミサイルに対応するのは困難である。1つのミサイルが彼の連射スリケンをすり抜け頭部に接近した!「ヌゥーッ!」左腕でミサイルから頭を守る!ミサイルは爆発、左腕は永遠に失われた。

船内へ駆け込んだホワイトロックにフィストブレイカー、ナックルバスターが続いた。フィストブレイカーは無傷だが、ナックルバスターは右腕を失っている。ホワイトロックは懐からZBR注射器を二本取り出し、一本をナックルバスターにパスした。注射を済ませ、ニンジャ筋力で止血すると、三人は再びスプリントを開始した。

その時、廊下右の水密扉が蹴り開けられ、ニンジャがエントリーした。「ドーモ。ウォーターソルジャーです」青白装束の水兵ニンジャはエントリーしながらのアイサツを見事に決めた。「ドーモ。ホワイトロックです」「ナックルバスターです」「...フィストブレイカーです」ウォーターソルジャーは油断ならないカラテを構えて三人の出方を伺っている。

フィストブレイカーが一歩進み出た。「...行け」「わかった、フィストブレイカー=サン、任せたぞ」ホワイトロックとナックルバスターは引き返し、別の通路から不純エメツ部屋を目指すことにした。数瞬の睨み合いの後、先に仕掛けたのはフィストブレイカーである。「...」彼は無言でダッシュ、正拳突きを繰り出した。

ウォーターソルジャーは左へのわずかな動きでこれを避けつつ、通りすがりつつあるフィストブレイカーの首めがけチョップを繰り出した。おお、なんという小さな動きから生み出される極小カラテ力場か!水兵カラテである!水兵カラテは狭い船内でより効率的にイクサを進めるためのカラテであり、第一次世界大戦中瀕死のイギリス人水兵が発狂する中で生み出し、200人のドイツ人水兵の心臓を摘出したと言われている。フィストブレイカーはニンジャ第六感によって危険を察知し首への直撃を避けたものの、右鎖骨を砕かれた。それでも彼は無言である。

フィストブレイカーは正拳突きを好んで使うが、特殊な技を持たないニンジャである。実際この幅1メートル程度しかない廊下では敵が有利。そこでフィストブレイカーは自分から仕掛けるのを諦め、敵が不純エメツへ向かうのを防ぐことに全力を上げることにした。

しかし、それはウォーターソルジャーにとっても同じこと。ウォーターソルジャーはフィストブレイカーをエメツのもとへ行かせないのが仕事である。二人は長い睨み合いに入った。

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エメツの元へ到着したのはホワイトロックだけである。ナックルバスターもまた、別の敵ニンジャと交戦している。「禁止」と威圧的にショドーされた水密扉は閉じられており、中から音はしない。ホワイトロックは瞼を閉じた。ホワイトスポット・ジツ!瞼を閉じるとニンジャソウルの位置が白い光の球となって「見える」のだ。

室内に白い光は2つ、だが一方は今にも消えそうな頼りない光である。「クイックファイヤ=サン!」「イヤーッ!」水密扉を蹴破ってエグジットしてきたのは、海軍式の制服を着た老齢だが堂々たる体躯のニンジャである。「ドーモ。コマンダーです」コマンダーはスイトン・ジツでクイックファイヤのカトン・ジツを封じ、窒息させ、気絶したところをカイシャクしようとしていたが、敵の接近を察知して作戦を変更した。

不純エメツを懐にしまい扉の手前で息を潜めて待機、敵が扉の前に来たところで蹴破り、サンシタであればそのまま扉につぶされ爆発四散、そうでなくても重厚な水密扉に押し潰されて怯んだ敵を相手にせず、逃走する作戦だった。不純エメツが手に入れば、敵を殺す必要はない。しかし敵は扉の前にこない。そこでコマンダーはさらに作戦を変更した。敵と一戦交えるべし!

ホワイトロックは返事を返した。「ドーモ。コマンダー=サン。ホワイトロックです」アイサツ終了コンマ1秒後、ホワイトロックはホワイトスリケンを連射し始めた「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」コマンダーはチョップで1つづつ確実にスリケンを破壊していく。

次に仕掛けたのはコマンダーである。「イヤーッ!」彼の両手の指先から超自然の水が溢れ出し、ホワイトロックの投げるスリケンを吸収つつ二人のニンジャの間に無重力めいて浮かぶ直径1メートル程度の水の球を作り出した。ホワイトロックが投げたスリケンはことごとく水に受け止められてしまった。「バカナ!」

「イヤーッ!」さらにコマンダーが力を込めると、ホワイトロックのスリケンを大量に含んだ水の球は高速でホワイトロックへ向かい始めた。ホワイトロックは敵の攻撃を寸前に予測したものの、狭い船内廊下に逃げ場はない。

ホワイトロックは第一の対処法として床を殴り、穴を開け、そこへ逃げる方法を考えた。しかしこの方法では穴から廊下に戻った時、敵は既に不純エメツを持って逃げてしまっているのではないか?では第二の対処法、水の球の中に敢て飛び込み、内部のスリケンをチョップ破壊しながら向こう側へ飛び出し、敵に急接近するという方法はどうだろうか。

(ダメだ)ホワイトロックは、クイックファイヤが死んでいるのではなく弱っているという状況から、敵が水を自在に操り窒息させたのだろうと推測した。これでは自分がクイックファイヤの二の舞になってしまう。コマンダーのフーリンカザンだ。(いやしかし...第二の方法を成功させる以外に不純エメツを取り戻す方法はない!)

ホワイトロックはコンマ1秒で思考し、水の球へ飛び込んだ。

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ネオサイタマ、ウツクシミ・ストリートの裏通りを歩いていたトレンチコートにハンチング帽の男、フジキド・ケンジは「オモチとソバ」とショドーされたノーレンをくぐり、ソバ屋「オモチソバ」に入った。カウンター席しか存在しない狭い店で、地元では「美味くも不味くもない店」「高くも安くもない店」と言われている。

フジキドが入った時、客は二人で、人気でも不人気でもないオモチソバにおいて、かろうじてわずかに人気のあるメニュー「オモチ・アンド・ソバ」を食べていた。一番奥のカウンター席に座ったフジキドは店員ドロイドに声をかけた。

「タマゴ・ソバを1つ」「オノミモノ ハ ナニニイタシマスカ」店員ドロイドは人の形すらしておらず、厨房のレール上を移動できるアルミ筐体に4本の腕が生えていて、上部にはモノカメラがついている。知能もオイランドロイドなどには遠く及ばないだろう。

「ミルクで」「カシコマリマシタ」店員ドロイドがレールの上を滑って厨房の奥へ消えていくのを見届けると、フジキドは席を立ち、店の奥まったところにあるトイレへ向かった。しかし、フジキドはトイレの少し手前で立ち止まり、「スタッフ」とショドーされたドアのロックが解除されるのを確かめると、ドアノブを回してドアを開いた。

フジキドはタマゴ・ソバとミルクのセットを食べるのではなかったのか?否、そもそもオモチソバのメニューにはタマゴ・ソバもミルクも存在しない!ウラ=メニュである!「ウラ=メニュ」それは古代日本から存在する暗黒暗号システム。フジキドはオモチソバにおける真の「店員」と会うためにこの店に来たのだ。

フジキドは厨房を抜けると、店員ドロイド用レールの続く奥の部屋へと進んだ。その部屋は6畳ほどあるようだったが、大量のUNIXが積まれ、人が移動できるのはせいぜい2畳程度であった。「ドーモ。ミキタニ=サン」「ドーモ。よく来てくれた。フジキド=サン」オモチソバの真の店員、ミキタニはやや太った中年の男で、丸メガネが特徴だ。

ミキタニはやっとUNIXから顔を上げて話し始めた。「それで、この前伝えた仕事の件だが...受けてくれるか?」「借りは返す」「よかった。それでは計画を説明しよう」借りとは何か?これにはいささか説明が必要であろう。

フジキドは数ヶ月前、あるニンジャに会うために西ウイグルを訪れていた。その帰り、戦闘で偽装身分証明書を紛失したことに気づいたフジキドが協力を求めたのが、たまたまウイグルを訪れていたハッカーのミキタニである。ミキタニはタダでフジキドに協力し日本へ送り届けたのだが、この時ミキタニは、戦闘で消耗し意識が朦朧としていたフジキドに仕事の誓約書のサインをさせていたのだ。

フジキドは誓約書などなくとも借りを返すつもりであったが、油断なきハッカー、ミキタニは手元に、ジェットブラックで「殺伐夜」のサインが書かれた誓約書をさりげなく置いていた。ミキタニは凄腕のニンジャ、サツバツナイトを相手に心理戦を挑んでいるのだ。「この誓約を忘れたとは言わせない」声には出さなかったが目はそう言っていた。

「我々の最終的な目標は、グレーター・マイコ級サイバー戦艦シャミセニストのマザーUNIXに搭載されているプログラム『プログラム115115』の入手だ。プログラム115115は忘れ去られし古のBASIC言語で記されているんだ。最悪でもプログラムの70パーセントは手に入れなくてはならない。」

戦艦シャミセニストはもともとネオサイタマ沿岸警備隊が所有していたのだが、磁気嵐消失後、理由は不明だが、現在では暗黒海賊戦艦として世界中の海でフリーランス海賊活動をしている。

そして今、戦艦シャミセニストは南大西洋上で1つの海賊活動を終えつつあった。

【#2へ続く】→【 https://note.mu/yama_yama/n/n0f1a9cc0b926

◆#4まで続きそうだけど2月28日23時42分現在、ニンジャスレイヤー222には間に合いそうにない。◆ケジメとして筆者は自主的シベリア研修へ旅立つ。◆実際安心◆

(2月28日23時42分追記)

(2月28日23時47分修正)

(3月1日16時46分修正)

(3月6日23時55分追記)

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