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2009年3月、突然の内定切りに絶望したボクの末路


「あなたはいつ絶望しただろうか。その後どうなった?」


大学4年の3月、ボクは卒業間近で内定を失った。

時は2009年3月。リーマンショックの煽りをもろに受けたボクの内定先は、業績が急激に悪化。ボクは内定を失った。必死に就活をして、やっと手にした内定だった。ニュースでは「内定切り」という言葉が報道されていたが、まさにその時期に、ボクは突然”当事者”になった。

目の前が真っ暗で真っ白になるって知ってた?白と黒がまだらになって視界をうごめく。一瞬でこうなる。網膜機能が低下したわけでも、水晶体に濁りがあるわけでもないのに、視界がざわついた。

一人暮らしの七畳一間は、無力感孤独感虚無感の圧力で膨張し、ボクを部屋の外へと追いやった。これといった目的も無く、ただ呆然と阪急電車に乗ったボクは、自動的に終点梅田に辿り着いた。ボクの目に映る梅田の街は、昨日までとはまるで違って見えた。

この日ほど、サラリーマンの姿を見て「羨ましい」と思ったことがあっただろうか。とにかく、無条件に羨ましかった。ただのスーツのオッサンが、くたびれたオッサンが、喫煙所で愚痴たれてるオッサンが、パチンコでサボってるオッサンが、無条件に羨ましかったし、憧れの眼差しの対象にすらなっていた。

ボクは社会がこんなにも厳しいものだとは思っていなかった。普通にやってりゃ、自動的に普通の大人にくらいなれると思っていた。この時、ボクはマズい事実に気がついた。

この考えの背後には、”これまで自分は「人並みで普通」というポジションを取れていた”、という慢心があることに気がついたのだ。でも、現実を直視すると、これは完全なる誤認だった。少なくとも、この時の状況を鑑みれば、ボクのポジションは誰が見ても「普通以下」だった。信じたくなかったが、これが現実だった。

あのいけてないオッサンも、あの愚痴たれてるオッサンも、見事に「普通」のポジションを取ることに成功している。それなのにボクはどうだ。そんなことを考えていた時、絶望の矛先は間違いなく社会から自分へと向きが変わった。

「ボクは、あのくたびれたオッサンにすらなれない」。脳みそが処理しきれない量の絶望感がドバドバと溢れ出て、ボクは街の小さな坂道を歩くことさえも出来ない程に脱力した。街のど真ん中で、脱力し、嗚咽した。


絶望感が怒りに変わった

ボクは逃げ込むように近くのドトールに入った。「どうしよう。マジでどうしよう。マジでやばい。なんでこんな事になったんだ。なんでよりによってこのボクが。」

頭の中が大渋滞をおこしながらも、ボクは必死に冷静になろうと努めた。「落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け・・」必死に気持ちを落ち着かせた時、ボクの身にある事が起きた。

苛立ちと怒りを覚えたのだ。

その怒りはどうやら社会に向いているわけではなさそうだった。ボクは、間違いなく”ボク自身”に苛立っていた。こんな状況に陥ってしまった自分に猛烈な怒りを覚えていたのだ。「お前、今までの人生一体何やってたんだ?こんな社会的弱者になっちまってよぉ」という心の声が怒りを逆撫でした。

この状況になってボクは初めて気がついた。自分が何一つとして社会で戦う術を持ち合わせていない事に。怒りは増大を続け、ボクは一つの決心をした。

偉くなってやる。

「偉くなる」という言葉の背後に具体像など存在しなかった。ただ、社会に必要とされていない状況を変えたかっただけだ。マイナスからゼロに戻りたいのではない。プラスの何者かになりたかった。ボクを突き動かすのは強烈な承認欲求、ただそれだけだった。


院試を受ける

何時間ドトールに籠っていただろうか。ボクはひたすら自己分析を繰り返した。ひたすらペーパーナプキンに身の振り方を殴り書いた。そして辿り着いた一つの答えが大学院進学だった。理系じゃない、文系だ。

死ぬほど勉強した。本当に寝る間も惜しんでやった。その目的は一度は見捨てられた社会へ舞い戻るためだった。

恥を捨て、使える人脈も全て使った。友人の友人に大学院の先輩がいるらしい、と知るや否や、直接会いに行ってあらゆる情報を聞き出した。

お金の問題もあったから、親に頭を下げに行った。奨学金は上限マックスで借りるから、一時的なまとまったキャッシュの工面をお願いした。ボクの事を思ってくれた親はスグに協力に応じてくれた。父さん、母さん、ありがとう。

・・・

大学の卒業式当日が奇しくも院試の合否発表日だった。卒業式に出ながらもボクの意識はそこには無かった。最短で合否を知るためには大学の教務課に直接確認する必要があった。ボクは卒業式が終わるや否や、受験した大学へ向かった。

教務課の扉を開ける手は震えていた。「す、すいません。先日の院試の結果を確認に来たのですが・・」と言うと、教務のお姉さんはスグに奥に入り、戻ってきた。

その手には分厚い封筒があった。ボクに封筒を渡す時、お姉さんは優しく微笑み、ひっそりとした声で「おめでとうございます」と言った。

ボクの全身は一気に脱力した。ボクは延命したのだ。


一度死んだ人間の過剰集中

晴れて大学院に進学したわけだが、そこは文系大学院。就職率は極めて低かった。それでも、とにかやるしかなかった。もう後はないのだ。

毎晩、夜中の3時に自習室に入り、9時まで自分の勉強に充てた。その他、講義やゼミの時間を除いて全ての時間を勉強に充てた。同時に就職活動の準備も、したたかに進めた。

文系大学院生の就活は厳しいというのは知っていた。だからこそ、したたかに、戦略的に就活を進めるべく、準備に多大な時間を費やしたのだ。

文系院生のボクが、就活で納得の行く結果を出すためには、勉学での実績が必須だと判断していた。だから大学院の研究にも狂った。ここまでの過剰集中は人生でこの時が最初で最後だ。

根っからのバカだったので勉強の進捗は思わしく無いこともあった。これがストレスで心が病みそうにもなったが、勉強しないとそれはそれで不安になるという魔のスパイラルに飲み込まれるため、どんな日だって勉強し狂った。

睡眠時間が短く、食事も適当だったボクは、体重が落ち、目の下のクマも酷かった。カネも時間もないので、髪の毛は伸びっぱなしのロン毛になった。無精髭を生やしたボクの姿は、もはや浮浪者そのものだったと思う。


二度目の就活で報われる

二度目の就活が始まった。大学時代に就活を十分に経験していたボクは、一発目の採用タームこそがチャンスだと踏んでいた。周りの学生が自己分析や業界研究を始めるその時期にボクは勝負を賭けていた。

大学院に入った段階から就活の成功に照準をあわせて自己分析を研ぎ続けたし、必要な実績も作った。この始めのタームでボクはロケットスタートを切った。

採用で企業側が求めるものは、論理的思考力でも行動力でもタフさでもない。カネになるヤツだ。この事実に既に気がついていたボクは、膨大な時間を費やして、「自分は業績に貢献できる」という事を証明するためのロジックを組んでいた。研磨を続けたこの論理なら、必ずや選考に残れると信じていた。

その結果、第一志望のメーカーから内定を頂いた。あっけないくらい簡単に。こうしてボクの二度目の就活あっさりと幕を閉じた。


絶望の行く先は「恐れ」か「怒り」である

2009年3月、内定切りを受けてボクは絶望した。実は、同じ大学にもう一人の内定者がいた。彼も内定を失ったはずなのだが、その後一体どうなったのだろうか。

当時、ボクは自分のことで必死だったので、その後彼がどうなったのかを全く知らない。分かっていることは、彼のSNSが大学卒業以降、まったくアップデートされていないということだけだ。SNS上の彼は、サークルの友人達に囲まれて、未だ弾けるような笑顔を見せている。今頃、どこで何をやっているんだろう。

ボクにはこの経験で得た学びがある。


” 絶望の行く先は必ず、
「恐れ」か「怒り」のどちらか。
「恐れ」は行動を鈍らせ、
「怒り」は行動を促す ”


ということだ。

ボクはラッキーなことに絶望が怒りに変わった。でも、一つ違えば、絶望は恐れに変わっていたかもしれない。絶望恐れに変わる時、人は身動きが取れなくなるような気がしてならない。

いつまでも過去の絶望を振り返り、怒り散らすだけの人もいるだろう。そんな人を見た時、絶望が怒りに変わっている様に見えるかもしれない。でも、その本質は「恐れ」だとボクは思う。行動・挑戦に繋がっていない理由は、未だに恐怖心があるからに他ならないのではないだろうか。

過去の絶望を振り返り、社会を糾弾するだけの人を見た時、あなたは何を思うだろう。過去に苦難を乗り越えた人ほど、こう思うかもしれない。

「自分でどうにかしろよ、こっちだってリスクとって努力してきたんだよ」

もしそうだとしたら、少しだけで良い。歩み寄ってみて欲しい。

絶望が恐れに変わるか、怒りに変わるかは、その時まで分からない。誰しもが絶望に備えて人生を歩んで来たわけじゃない。一つ違えば、誰だって絶望という名のバケモノへの恐怖心が、拭えないかもしれないってことを、少しだけ心に留めて欲しい。


【告知】この秋、ボクは若者に向けて就活の処世術大全を投下しようと思う。

多くの若者が就職活動で絶望を経験し、中には死を選ぶ者すら存在する。対話なき選考により、「見えない誰かから」ビンタをくらう今の就活。死にたくなっても不思議じゃない。

この状況を受けて、現在ボクは、新たなnote記事を作成している。

若者に向けた就活処世術大全だ。今の就活を生き抜くためのバイブル、行動指針になると信じている。若者が就活という異世界の期間イベントを”死なずに”駆け抜けられるよう、全力で投下するつもりだ。1万文字を優に越える、超大全になる予定なので期待してほしい。



すべては未来ある若者のために。



やまびこ(@YamabikoR)でした。

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