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AI×音楽創作の現在位置と近未来〜拡張知能の時代

<今週のpick up>

●10年後の人間は既製の音楽を聴いていない、米国の著名ベンチャーキャピタリスト語る

 見識が浅く、音楽に興味のない人の不愉快な記事ですね。そして、AIの普及、発展という視点でもマイナスで無責任な意見だと思います。Vinod Khoslaという名前は覚えておきます。
音楽ビジネスを語るのであれば、まずは、音楽ファンの気持になる必要があります。マーケティング的に言えば、消費の動機は何なのか?ということです。アーティストが奏でる音楽をユーザーが楽しむ時には、そのバックグラウンド、アーティストの思いを汲み取るという面も強いです。ファンは、様々なシチュエーションで、アーティストとのエンゲージメント(関係性)を強めて、ファンとなっていくし、アーティストはファンを大切にするのです。僕が良く例で出すのは、陸上の徒競走です。100m走にしろ、マラソンにしろ、新幹線や自動車の方が早いわけで、機能的な意味はないのですが、生身の人間が走ることに人々は感動する訳です。まして、アーティストは必ずと言っていいほど、誰かその前の世代のアーティストに感動して音楽を始めています。Bruno Marsが大ヒットアルバムのインタビューでもブラックミュージックの先達についての思いを語っていたように、綿綿たる歴史の積み重ねでもある訳です。こういう文化的な価値を無視して音楽を語ることはできません。

「音楽は全部AIが作るようになる」とか言う言説で思い出すのは。10年位前に「インターネットの普及でコンテンツは全て無料になる」と言われていたことです。2019年になって、大きな間違いであることは証明されています。NetflixやSpotifyの隆盛が、魅力的なコンテンツにはユーザーはお金を払うことを証明していますね。。ちなみにクリス・アンダーソンの『FREE』の趣旨はちょっと違っていて、むしろフリーミアムの効用を説く本だったと僕は理解しています。

 もし、筆者が主張するようなことが起きるとしたら、ユーザーが背景に物語を求めない音楽家にとって匿名性の高い音楽でしょう。例えばTVCMのBGMなどは、AIによる創作関与が強まっていくでしょう。精度が上がってくると、ドラマや映画の劇音楽にも使われるようになっていくかもしれません。そうなってくるとコストと納期とクオリティの比較というビジネスライクな話にもなっていきます。

 そもそもAI、ロボティクスの発展が社会に与える影響については、様々な意見があります。今週はこんな記事もありました。

●「人工知能」は終わる。これからは「拡張知能」の時代がやってくる:伊藤穰

 コンピューターが人間の能力を超える特異点が近い将来に来る(シンギュラリティ)と騒がれて久しいですが、僕はこちらの意見に与したいと思っています。「拡張知能」(extended intelligence:EIまたはXI)言葉と概念が広まると良いなと思います。

 すでに機械学習を活用したテクノロジーは具体的な実用の段階であるのも事実です。PC一台で音楽を完成させることは当たり前になりましたが、DAWの機能の拡張に、様々なAI(的技術)が使われていくでしょう。最近、資金調達を発表したAIベンチャー「Amadeus Code」も、よく見ると、「クリエイターサポートツール」みたいな言い方をしています。経営陣が作曲家やディレクター経験がある人達なので、リアリティがあるのでしょう。メロディを提案してくれるやり方がまさに「拡張知能」的なサービスです。

 現在の人工知能のポテンシャルと限界については、AIに東大受験をさせるという実験に取り組んだ新井紀子さんの本にも詳しいです。この本は面白く示唆に富むのでオススメです。

●『ロボットは東大に入れるか』新井紀子(新曜社刊) 

 MARCHランクの受験をクリアーできるAIを作って、そこに限界があることを証明しています。汎用的AIは”今のところ”実現のメドが立っていない、方法論が見えていない、という主張になっています。新井さんの言葉を借りれば「宇宙人がいるかもしれない」が反証できないのと「AI汎用的な意味で人間の能力を超えることがあるかもしれない」は似ていると。

 一方で、拡張知能の記事を載せている同じwiredにこんな対談もありました。(wiredを読んでいると「どっちやねん!?」ってことはよくありますね。笑)

●汎用の分散型AIが、30年後の「世界」をつくる:ベン・ゲーツェル×石井敦 対談(前編)

 こうなると予言者ですよね。ただシンギュラリティを語った補助金詐欺が日本でも最近つかまりましたけれど、シンギュラリティは資金集めに便利なマジックワードであることはまだ続いています。多額のお金が動くことで技術革新の確率は高まります。インターネットもドローンも軍事技術の転用です。軍事分野での採算性を無視した投資が新しいテクノロジーを産みだす訳です。

 汎用的な人工知能は、今のところ、できるかどうかわからない、メドが立っていない分野である、ただ、シンギュラリティ提唱者たちの影響力が何か新しい革新的技術を産み出すかもしれない、そんな風に2019年6月現在の僕は思っています。

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モチベーションあがります(^_-)