お薬のお話〜ザバクサ ®️の臨床的位置付け〜抗菌薬適正使用の観点から

2019年6月から販売開始になりました!ザバクサ ®️〜24年ぶりのセフェム系注射薬!AMR対策が話題になっている昨今だからこそ気になりますね。当院でも泌尿器科から処方ありました。お恥ずかしなら初めて目にしたのでセフトロザン...?抗菌薬?何世代??という疑問を抱きつつ用法用量をチェックして払い出した次第です。てことで個人的に勉強も兼ねてまとめます。

〜ザバクサ®️の特徴〜



・セフトロザン/タゾバクタム(CTLZ/TAZ)が成分で、第3世代セフェム系抗菌薬とβラクタマーゼ阻害薬の配合剤
・適応菌種は、レンサ球菌属、大腸菌、シトロバクター 属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、プロテウス属、緑膿菌
・膀胱炎・腎盂腎炎(UTI)の適応と、腹膜炎・腹腔内膿瘍・胆嚢炎・肝膿瘍(IAI)ではMNZと併用で適応あり ※嫌気性菌が疑われない場合であればMNZの併用は不要としている
・腎排泄がメインの抗菌薬なので腎機能に応じて用量の調整が必要

ここで少し残念なのが、in vitroではB. fragilisの活性が示されているが、それ以外のバクテロイデス属でのin vitroのMICは高くIAIの臨床試験ではMNZを併用せざるを得なかったということでしょうか。それゆえに、適応菌種でB. fragilisの申請が通らなかったことです。つまり、臨床での有効性を評価できなかったということです。TAZ=嫌気性菌のβラクタマーゼ阻害=嫌気性菌に有効だと思っていたので少し残念です。PIPC/TAZの嫌気性菌活性はPIPCのそれもあるのでしょうか。その辺りは詳しくはわかりません。

また、院内感染で問題となる、SPACEのカバーも少し中途半端な印象を受けます。SPACEは、Serratia:セラチア、Pseudomonas:緑膿菌、Acinetobacter:アシネトバクター、Citrobacter:シトロバクター、Enterobacter:エンテロバクターの略で、CTLZ /TAZでは、SPACEのPCEのみの適応です。むしろ、CAZやCFPM, CFZ/SBTの方が十分にカバーしています。

ESBL産生腸内細菌についてはin vitroで活性は確認されているのですが、第3相臨床試験での細菌学的効果は、国内のUTI試験で38.5%(5/13 例)、海外の試験で 70.4%(38/54 例)と腸内細菌全体(8割〜9割)の有効率より低いため製造販売後に情報収集が必要ということになっています。ただ、ESBL産生腸内細菌に効果がないということではないです。個人的には、症例数は少ないですが、ESBL産生腸内細菌に対する前向き二重盲検RCTのデータがある点では良いのかなと思います(CMZでは後ろ向きのデータしかないので)

では、臨床試験を少し見ていきしょう。
国内の第3相試験では非盲検でのデータしかないので海外の試験を見ます。

UTIでは27カ国で実施された無作為化二重盲検並行群間比較試験でLVFXとの非劣勢(マージンは10%)が示されています。
※ 投与回数の差に関してはプラセボを入れて盲検化をしているとのこと
P:18 歳以上の腎盂腎炎又は複雑性膀胱炎患者1068例
EC:CTLZ/TAZ 1.5g / q8hr vs LVFX 750mg / q24hr
O:投与終了後5〜9日目の細菌学的効果において非劣勢マージン(10%)を上回った

IAIに関しては28カ国で実施されています。
P:18 歳以上の IAI 患者774例
EC:CTLZ /TAZ 1.5g / q8hr+MNZ 0.5g / q8hr vs MEPM 1g / q8hr
O:投与開始後 26~30 日の治癒率は非劣勢マージン(12.5%)を上回った

参考までに以下が臨床試験における細菌学的効果です。

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副作用は、CDIや下痢など抗菌薬特有のもので特にCTLZ/TAZだけの副作用は現在のところ特記すべきことはなさそうです。

〜臨床的位置付け(※私個人の見解です)〜


抗菌薬適正使用の観点から考えると(※抗菌薬のエンピリックの選択に関しては必ず院内のアンチバイオグラムを参考にしてください

単純性尿路感染症に関しては軽症例であればCTRXやCTXからスタートして効かなければエスカレーションで良いでしょう。感受性が良ければCTMへ変更も可能ですね。
複雑性尿路感染症でシトロバクターや緑膿菌が起炎菌である場合は選択肢として良いと思いますが、CAZやCFPMでも代用可能と思われます。

また、ESBL産生腸内細菌では、軽症例であればCMZで、中等〜重症でエンピリックにPIPC/TAZかCTLZ/TAZといったところでしょうか?

腹腔内感染症に関しても、中等〜重症例において同じ”TAZ”を有するというところではPIPC /TAZよりもCTLZ /TAZ+MNZを選択するというふうにはならないと思います。残念です。

総合して、今後のデータ次第ですが、ESBL産生腸内細菌への臨床での有効性が確立しなければ、出番は少ないように思います。緑膿菌をターゲットとするならば”TAZ"を温存するため他の緑膿菌活性のあるセフェムで代用したいところです。逆に、ESBL産生腸内細菌の効果が確立すれば、エンピリックに中等〜重症例の複雑性尿路感染症ではカルバペネムやPIPC /TAZの一歩手前の選択肢として活躍しそうです。

現在のところESBL産生腸内細菌のデータが不十分のため、メーカーの方も緑膿菌への効果を推していました。緑膿菌に関してはin vitroでは耐性化しにくいというデータはあるみたいですが、臨床ではどうなのか不明なところです。適正に使用しなければ耐性化しにくいだけであって耐性菌は出てくるでしょう。
結局、カルバペネムやPIPC /TAZの一歩手前の抗菌薬な気がします。むしろお高い(薬価は約19000円/日)ので複雑性尿路感染症でESBL産生腸内細菌の疑いがなければCAZやCFPMで良さそうです。腹腔内感染症ではMNZ併用じゃないと使用できないので不便でしかありません(嫌気性菌の疑いなければ単独で使用可能というふうになっていますが実際のところIAIでは起炎菌がはっきり特定できる状況って少ないので単独での出番は少ないでしょう)。現在の国内のESBL産生大腸菌の検出比率が20〜30%程度ということを考慮に入れると個人的には今後の臨床でのESBL産生腸内細菌の有効性のデータが集まることに期待したいです。

以上が個人的な見解です。
何か間違いがあればご指摘いただけると助かります。
久々抗菌薬について勉強して面白いと思ったので、個人的に近いうちに抗菌薬の考え方についての記事も書きたいと思います。

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