お薬のお話〜ベルソムラ®︎(スボレキサント)の高齢者への20mg/日投与の意義とは?〜

ベルソムラ®︎(以下、スボレキサント)の高齢者への20mg投与、たまに見かけるのでスボレキサントの高齢者(65歳以上)への安全性について調べてみました。

以下の情報は審査報告書から抜粋しています。

承認するにあたって行なわれた国際共同第Ⅲ相試験の日本人集団の平均年齢は55歳(21〜84歳、高齢者の割合40.1%(99/247例))に対して、外国人集団の平均年齢 は 56 歳(18~87 歳、高齢者の割合は 42.6 %(330/774 例))。高齢者の割合は4割程度であり、承認前の段階において高齢者への投与経験はある程度保証されているということになります。最近の新薬では高齢者の割合はある程度組み入れられていると考えても良いかもしれません(この辺はあまり詳しくないのでこちらを参照して下さい。)

また、 高齢者15mg/日の用量設定の理由は、非高齢者20mg/日と高齢者15mg/日で暴露量が類似しているというデータからきているようです(図3, 図4, 審査報告書より抜粋.)。この時点で高齢者に20mg /日の処方はストップをかけないといけないですね。

ベルソムラ審査報告書より2

結論から言うと、非高齢者群と高齢者群の有害事象発現割合に関しては大きな差は見られず、高齢者への忍容性は十分あると判断されています。しかし、副作用で最も多い”傾眠”は個人差があること、用量依存的に発現割合は増加することをふまえると、”傾眠”症状の有無は確認するべき項目であり、”傾眠"が強い場合は、自動車運転や危険な作業を控えるよう指導することに加えて、減量を考慮した方が良いと考えられます。

臨床試験での結果では可能性は低いと考えらましたが、長期的な経過の中で今後注視していく副作用としては、”睡眠時随伴症”や”ナルコレプシー様症状”などは頭に入れておきたいですね。

しかし、BZDで起きやすい”転倒”や"反跳性不眠”のリスクがないと確認されていることはやはりこの薬剤の特記すべき利点です。


本題に戻ると、高齢者に20mg/日処方されている理由としては、15mg/日で効いていないからという理由も考えられます。というよりも、経験上ありました(結局15mg/日の処方に訂正されましたが)。

有効性を見てみると、スボレキサントはLPS(客観的入眠効果)に関しては3ヶ月時点でプラセボ群と比較して有意に効果があるとは言えないのです(表29, 審査報告書より抜粋. ※高用量群は高齢者は30mg/日を投与した群.)。

また、LPSだけでなくmTSO (主観的入眠効果)に関しても、低用量群(承認用量)では有意に効果があるとは言えず、高用量群(高齢者では30mg/日)でもって有意に効果が確認されています。

つまり、寝つきが悪いという理由で(承認用量の範囲で)増量してもあまり効果が期待できるとは言えなさそうです。

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結局、mTST(睡眠維持効果)やWASO(客観的中途覚醒時間)でプラセボ群と比較して有意に効果が認められたため、承認に至ったわけですが、かといって入眠効果が全くないわけではありません(プラセボ効果も考慮して)。ただ、上記結果から、入眠効果を期待して高齢者に承認用量を超えて15mg→20mgへ増量することはナンセンスであると言えます(高齢者での高用量群の用量は30mg/日のため)。


以上をふまえて、高齢者に20mg/日で処方されていたら自信をもって積極的に疑義照会していきたいですね(これまでもしていましたが)。しかし、調剤薬局に勤めているとなかなか疑義照会は受け入れられないこともありますよね。

結局、こちらでできることとしては、”傾眠”などの持ち越しがないか(BZDと併用していれば尚更のこと), 増量後の入眠効果の有無をモニタリングしていくことなのかもしれません。


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