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【プロット】月面基地の煽り上手な吸血鬼

 見渡す限りレゴリスの荒野が広がる。
 大気がないため隕石が秒速10キロメートル以上の速度で激突する月面。
 風も水もないから砂や石が鋭利な形をしているのだ。
 人智を超えた吸血鬼は、寒さ、暑さ、放射線にも耐性があった。
 宇宙開発においては、生身の人間は脆弱過ぎた。
 だから吸血鬼を送り込んで探査してきたのである。
「よお、おまえ友達とか恋人とかいないだろう」
 地球からの通信は、抑揚のない乾いた声だった。
 月面はすでに未知の世界ではなくなり、探査と言っても決められた通りにレゴリスを集めて分析し、月面望遠鏡のデータを監視する毎日である。
 強靭な肉体を持っているだけで、心は何も感じなくなるほど疲弊しきっていた。
 いつの間にか地球人に絡むのが習慣になり、相手もまともに獲り合わなくなった。
「月面流し3年でその態度だと、もう3年追加かな」
 ぼそりと呟く声が、後ろのギャラリーから漏れ聞こえる。
 煽られて苛立った証拠である。
 俺は少しだけ口角を上げた。


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