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いわき湯本温泉で満腹になりながらのメルヘン。

「メルヘン屋」という店があると聞きつけ、福島県いわき市にやってきました。
しかしそこで売っていたのは、メルヘンではなく、大量の婦人服や日用品。
メルヘンの神様は微笑んでくださらなかったものの、その後たずねた温泉神社に手を合わせると、温泉の神様のはからいによって、すばらしい温泉にめぐり合うことができました。

温泉宿の名は、住乃江さん。
加水なし、加温なし、源泉100%、かけ流し。
こぶりだけれど、細やかな気配りのされた、清潔で快適な温泉。
体がほかほかになったところで、お次は食事です。

今日は朝から入念に計画をたててきました。
ひとりで暮らす私のいつもの晩ごはんは、夜8時か9時ごろ、豆腐やら納豆やらスーパーのお惣菜をちょろっと食べて、あとは柿の種なんかをつまみにお酒を飲んで、おしまい。
しかし今宵は宿のフルコース。しかも6時半から。なんとしても、是が非でも、食べきりたい。
そのために、朝はカフェラテ、お昼は茨城のサービスエリアで納豆ホットドッグを食べるにとどめました。

宿のお食事は、そんな万全の準備のかいある、素晴らしいものでした。
れんこんのすりながし、ぬた、お刺身、海鮮のお鍋。
いわきの名物であるメヒカリの天ぷら、赤魚の煮付け。




なにが素晴らしいって、材料や調理法のよくわからない不思議な小鉢とか、かさましの飾り付けとかがないんです。
明瞭な素材で、一皿一皿が、素朴で丁寧。
ご近所の酒蔵でつくられたという日本酒をいただきながら、すべてのお料理をしみじみと、すみずみまで味わうことができました。

腹をたたきながら、部屋にもどります。
早朝からのドライブ。温泉。満腹。日本酒。畳。布団。
条件はそろっている……。
しかし、まだ20時。
横になるのは危険すぎます。
そんなことをしたが最後、はっと気づいたら夜中2時半とかで、そこから朝まで眠れない未来が待ち受けていることでしょう。
布団の誘惑をはねのけ、再び温泉につかり消化を促しました。

スーパーで買ってきた地酒を、持参したおちょこでちびちびやりながら、夜をやりすごします。
おちょこは旅用の、箱根の寄木細工のもの。軽くて持ち運びに便利なんです。



翌朝は、5時起き。
なぜなら7時からの朝ごはんを、ぜんぶ食べたいから。
いつものシリアルとは違うのだから。
朝風呂にたっぷり入り、汗をかいて、おなかをすかせます。

朝食会場で待っていたのは、炊き立ての、いわきの新米!
私は、炊きたてのお米をおしこんで食べるのが、なによりも好きなのです。
でも家で米を炊くことなんてめったにないし、おつけものを賞味期限内に食べ切るのは至難の業。
おしんこに、焼き鮭、明太子、こんぶも加わって、私にとっては昨日の晩ごはんよりも貴重で幸福な食事となりました。

………………はっ!!

ごはんのことばかり書いて、メルヘンについて全く触れずにきてしまいました。
私は修行の身なのです。
宿にいるあいだ、お風呂あがりには、メルヘン屋で買った靴下をはいていました。



この靴下で一句……ならぬ、一話。

「ハリネズミのサーカス団」

サーカスが大好きなハリネズミがいました。
生演奏の音楽にあわせて、びっくりするような技がくりひろげられるショーに、ハリネズミはあこがれていました。

ハリネズミは、サーカス団に入ることにしました。

クマの玉乗りにあこがれて、やってみました。
そうしたら、ハリがささって玉がしぼんでしまいました。
サルの空中ブランコにあこがれました。
ちくちくするからと、だれもいっしょにやってくれません。
ライオンの火の輪くぐりにあこがれました。
火の輪をくぐると、ハリの先に火がついて、全身がマッチみたいになってしまいました。

ダチョウの団長さんが、ハリネズミにいいました。
「みんなの衣装をぬいなさい」
ハリネズミは、ハリを上手につかって、すてきな衣装をつくりました。

つぎに団長さんは、「みんなのごはんをつくりなさい」といいました。
ハリネズミは、お肉や野菜を長いハリに串刺しにして、カラフルでおいしいバーベキューをつくりました。

サーカス団のみんなは、とてもよろこびました。
ハリネズミは、役に立てることがうれしくて、たくさんお手伝いをしました。

ある日、ダチョウの団長さんが風邪をひいてしまいました。長いのどが真っ赤です。
団長さんは、音楽隊の指揮もしているので、団長さんがいないと音楽が奏でられず、ショーができません。

団長さんは、ハリネズミに「私のかわりをやりなさい」といいました。
「きみはショーを毎日見ているし、表側も裏側も、ぜんぶ知っている。できるだろう?」
ハリネズミは「はい」と返事をしました。

ハリネズミは、自分の針よりも長い長い指揮棒をもちました。

いつものダチョウの団長さんがいないことに、お客さんは最後まで気づきませんでした。

おしまい。

(いわきの旅、つづきます)

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