新司法試験平成22年 大大問中民事訴訟法部分 答案例

<新司法試験 平成22年 大大問中民事訴訟法部分について>
1 設問3について
 第2訴訟において,訴状の送達後,Gが第3回口頭弁論期日までの間にした訴訟行為の効力がEに及ぶか。
(1) そもそも、第2訴訟における被告はだれか。Gが被告であったならば、Eに当事者が交替した後、訴訟行為の効力がEに及ぶのが原則となる。また、当初からEが被告であれば、Gは訴訟に無関係なものとして排除され、Eの追認ない限りその効力はEに及ばないことになる。
 では、本件訴訟における当事者はだれか。
 訴え又は訴えられることによって判決の名宛人となる当事者が誰かということは、管轄権の存在(民事訴訟法(以下法文名省略)4条1項)の基準・当事者能力(28条)の有無の判断・重複訴訟の禁止(142条)の判断等に必要となる事項である。そして、民事訴訟は原告の被告に対する権利主張が認められることを判決によって確定することを裁判所に申し立てることによって開始されるものであるから、訴えの当初からだれが当事者か明確となっていることが必要である。訴えの当初において裁判所の手に入る審理資料は訴状のみであるのが通常であるから、訴状の記載から、だれが当事者か判断すべきである。そして、誰が当事者かは、訴状全体の記載から合理的に解釈し、訴状に当事者と表示されているものが誰かという観点から判断すべきである。
 これを本問についてみると、Fは「被告E」と訴状に記載している(133条2項1号)。また、E以外を被告とする意思は読み取れない。
 したがって、本問訴訟の被告はEであるといえる。
(2) そして、Eの訴訟代理人であるRが,「これまでにGがした訴訟行為は,すべて無効である。」と主張していることから、Gの訴訟行為の効果はEに及ばないのが原則である(55条1項)。
 もっとも、EはGに対し自らの代わりに訴訟追行するよう頼んでいる。そのようなEが訴訟代理人を通して追認(34条2項)拒絶することが信義則(2条)上許されるか。
ア 信義則上許されるためには、当該信義則による主張の遮断を許すことによって得られる個別具体的利益が、当該遮断を認めることによって没却される利益よりも大きいことが必要となる。
イ まず、前者の利益について検討する。本問においては、第1回口頭弁論期日が開かれた後,口頭弁論が続行され,第3回口頭弁論期日までの間に,双方から事実に関する主張及びそれに対する認否が行われ、争点が整理されている。追認拒絶を認めるとこの争点整理の結果がすべて覆され、最初から争点整理をやり直さなければいけなくなる。すなわち、追認拒絶が信義則上できないとすると、第1回から第3回でした争点整理に従って訴訟を続けることができるという利益を有する。
 他方、後者の利益についてはどうか。EがGにした行為は非弁護士に対し訴訟代理を依頼した関係と類似している。この訴訟行為の効果が、Eの意思に関係なく、Eに帰属することになれば、54条1項本文に反する事態を容認することと同じ状態になる。
 ここで、54条1項本文が訴訟代理人の資格を弁護士に限った趣旨は、当事者の利益の保護を図るためには、訴訟追行に必要な知識を有するものに代理をさせる必要があるが、当該代理人がその資格があるかを毎回審理すると訴訟遅延を招くため、形式的に判断できるように弁護士にその資格を限定する点にある。そうだとすると、本条が守ろうとしているのは、民事訴訟手続が常に迅速に行われるべきという公益である。
 したがって、本問において当該信義則による遮断を認めると、公益を保護する54条1項本文に違反したのと同じ状態になることになる。
 公益を保護する条文に反している状態を作り出しても守るべき利益が侵害されていると言えれば、例外的に当該信義則による遮断は認められることになる。もっとも本問においては争点整理のやり直しを要求されるのみであって、証拠保全に影響があるなど、不可逆的な利益侵害は発生していない。
ウ 例外を認めるだけの利益侵害が発生しているとはいえず、したがって、本件において信義則による遮断は認められない。
(3) 以上より、原則通り、追認拒絶がされたため、EにGの訴訟行為の効果は及ばない。
2 設問4(1)について
(1) 法律構成①について
法律構成①によれば、第1訴訟の訴訟物は本件消費貸借契約に基づく元本返還債務全体である。既判力は基準時時点(民事執行法35条2項)の「主文に包含するもの」(114条1項)すなわち訴訟物の存否に関する判断に生じる。そうすると、「平成20年4月11日の時点で元本債務は1500万円であった」ことが既判力によって確定され、残部債務について、基準時前の事情である「平成20年3月15日に500万円弁済した」という主張で争えなくなる。
この法律構成は、前訴審理が債権全体に及んでおり、実質的に残額債務について争うことが紛争の蒸し返しとなることから、審理対象を債権全部としつつも、原告が一部債務の存在を自認していることを合理的に解釈したものである。
原告が審判対象及び審判形式を設定するという処分権主義(246条)にはんすることなく、既判力が生じる訴訟物を債権全体にするという点が長所である。
また、確定判決の効力であるから、基準時は口頭弁論終結時であり、無理なく当該主張を遮断することができる。
短所としては、裁判所の審理対象と審判対象がずれる、すなわち訴訟物と申立事項(246条)が違うという解釈を取らなければいけない点が挙げられる。
一般的には訴訟物と申立事項は一致するものと解されており、債権の一部を訴訟で争う場合には両者は一致しないとするのは技巧的である。
(2) 法律構成②について
 法律構成②は第1訴訟の訴訟物は元本返還債務の全体であるとするが,同債務のうち1500万円については原告が請求を放棄したために,実際に審判対象となったのは1500万円を超える部分とするものである。
請求の放棄がなされると、放棄調書(267条)が作成され、その放棄調書に書かれた記載内容に「確定判決と同一の効力」が生じるとされる。請求の放棄は裁判所にたいして行われる訴訟行為である。267条の趣旨は請求の放棄等によって訴訟が終了した場合に紛争の蒸し返しを防ぐ点にある。そうすると、「確定判決と同一の効力」として、既判力を発生させることになる。もっとも、当事者の意思による訴訟の終了であるから、手続保障が十全になされたと常に言えるわけではない。そこで、既判力を発生させる許容性に欠ける場合には、放棄調書に既判力は生じないと考える。
 この法律構成の長所は246条の解釈に無理な手を加えることなく、審判対象が1500万円を超える部分であること、1500万円部分にも既判力が及ぶことを導く点にある(①の短所の克服)。
 短所としては、訴状における「1500万円を超える部分」という記載を、請求の放棄の意思を裁判所に陳述したとみなすのは、無理があるという点である。
 また、請求の放棄の既判力が発生するのは、放棄調書が成立したときである。訴状において当該陳述をしたとみなした場合、通常はすぐに放棄調書が作成されるはずであるから、基準時は訴状の陳述がなされたとき、すなわち平成19年7月27日ということになる。このように考えると、本件弁済の主張を遮断することはできなくなる。この部分を修正するためには基準時を口頭弁論終結時に合わせること、すなわち、放棄調書の作成日を口頭弁論終結時にする必要がある。そうすると、陳述から遠く隔たった日時に調書を作成するという奇妙な状況になる。さらに、放棄調書は実際には作成されていないため、確定判決で代用することになるのであるが、調書と判決書を兼ねると解釈するのは難しい。
加えて、前述したように放棄調書に認められる既判力は、既判力を認める許容性に欠ける場合は、発生しない。このように発生するかどうか流動的であるため、蒸し返しを完全にふせぎきれるとは言えない。
3 設問4(2)について
 審理の結果,被担保債権の元本が500万円残っているとの結論に至った場合,裁判所は,Fに対し,AがFに500万円を支払うことを条件として,抵当権の設定の登記の抹消登記手続をすることを命ずる判決をすることができるか。
 本件訴訟における申立事項は、甲土地の所有権に基づき、無条件で甲土地に係る抵当権の設定の登記の抹消登記手続を求める、というものである。それに対し判決はAがFに500万円を支払うことを条件として,抵当権の設定の登記の抹消登記手続をすることを命ずるものとなっている。
 申立事項と「AがFに500万円を支払うことを条件として」という部分で食い違う判決をすることは246条により許されるか。許されない場合には、全部棄却判決をすることとなるため、両者を比較しながら論ずる。
(1) 「AがFに500万円を支払うことを条件」とする場合には、本件訴訟物である抵当権抹消手続請求権は口頭弁論終結時においていまだ行使することができないことになる。そのため、現在給付の訴えに対し、将来給付判決をすることになる。
そもそも将来給付判決に対応する将来給付の訴えは135条の要件を満たさなければ不適法却下となる。では、本件訴えはそもそも135条の要件である「あらかじめその請求をする必要がある場合」にあたるか。
135条の趣旨は、口頭弁論終結時においてもなお履行できない請求権について確定判決で執行できるように備えても、口頭弁論終結後に変更・消滅する可能性があり、それについて執行を排除するためには請求異議の訴え(民事執行法35条2項)を被告が起こす必要があることから、そうした起訴責任の転換を認めることができ、紛争の実効的解決に有効適切な訴えだけを提起できるとした点にある。そうすると、「あらかじめその請求をする必要がある場合」とは、被告に起訴責任の転換を許してもよい場合、すなわち、請求権の基礎となる法律関係が存在している場合であって、紛争が成熟している場合、すなわち、請求権を履行できるようになった場合直ちに強制執行ができるようにすべき場合をいうと考える。
これを本問についてみると、被担保債権が弁済されれば、抵当権は消滅し、それに伴い所有権に基づく妨害排除請求権たる抵当権抹消手続請求権が発生することになる。したがって、請求権の基礎となる法律関係が存在している場合にあたる。
また、残債務額について争いがあることから、原告の考える残債務額を弁済しても、抹消登記手続きをとってくれない可能性がある。したがって、残債務支払という条件が成就した場合には即座に抹消登記の意思表示を擬制(民事執行法174条3項)できるようにすべきといえる。したがって請求権を履行できるようになった場合直ちに強制執行ができるようにすべき場合にもあたる。
以上より、135条の要件を満たし、将来給付の訴えを提起できることから、対応する判決をもだすことができる。
(2) では、本問判決をすることは246条に反しないか。
 246条は申立事項を超えた判決がでないこととして、原告の設定と食い違う判決がでること、被告の想定した防御の範囲を超えた不意打ち判決がでることを防ぐ点にある。そうだとすれば、246条に反するか否かは、当該判決が①原告の申立て事項の範囲といえるか否か、②原告・被告にとって不意打ちである判決になっているか否かによって判断されるべきといえる。
 ①原告の申立て事項は無条件で抵当権抹消登記手続をせよ、というものであった。そして、無条件という申立事項の中に条件付きという結論も包摂されているといえる。したがって、当該判決は申立事項の範囲内にあるといえる。
 そうだとしても、②原告、被告にとって不意打ちとならないか。
全部棄却判決をした場合には、基準時における甲の所有権に基づく抵当権抹消登記手続請求権の不存在に既判力が及ぶ(114条1項)。これは、基準時における判断を示したものであるから、その後残債務を弁済すれば、改めて訴えを提起し、請求認容判決を受けることができる。
そして、仮に条件付き判決をした場合、主文に掲げられている「AがFに500万円を支払うことを条件として」という部分に既判力が生じることになれば、原告、被告ともにその部分について常に十分に攻撃防御を尽くしているとは言えないため、不意打ちとなる可能性がある。
では、「AがFに500万円を支払うことを条件として」という部分に既判力は生じるか。
抵当権が被担保債権の弁済によって消滅しているか否かを判断するためには、弁済等の債権消滅原因を一つ一つ丁寧に認定していくことが必要になる。そうすると、たとえ、実体法上債権が消滅していなければ抵当権は消滅せず、抵当権抹消登記手続請求権が発生していないと言えたとしても、常に残債務額が審理されているといえる。また、当該条件は請求権の発生自体に不可分に結びついているものであるから、条件を争うという紛争の蒸し返しを防止すべきである。
したがって当該条件は訴訟物たる請求権の内容として、既判力が及ぶといえる。
もっとも、こうした審理のあり方については原告被告ともに訴訟代理人を立てており、熟知しているといえるから、両者にとって不意打ちにはならない。
したがって、①②を満たし、当該判決をすることは246条に反しない。
以上より、裁判所は当該判決をすることができる。
<168行目以下、別バージョン>
抵当権登記抹消登記手続請求権が存在しているか否かを判断するためには残債務がないか否かのみを判断すればよい。そうだとすると、常に残債務額をきちんと審理し、認定するとは限らない。また、残債務額を主文に掲げているのは、民事執行法174条3項の条件を執行官に明示するためである。そうすると残債務額には既判力は生じない。
したがって、本問においては訴訟物たる抵当権登記抹消登記手続請求権についてのみ既判力が生じている。
したがって、残債務額についての既判力が発生していないため、その部分について不意打ちにはならない。

こちらの別バージョンでも、けっこうです。無難なのはこちらの方の可能性があるので、参考にしてみてください。

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