旧司法試験平成15年第2問民事訴訟法答案例

<旧司法試験 平成15年 第2問> 
1 設問1(1)について
 甲の、乙の訴えは「反訴として提起できるのだから、別訴は許されない」との主張は正当か。以下、反訴(民事訴訟法(以下法文名省略)146条)として提起することが許されるか、別訴は禁止されるか、禁止されるとしてその理由は反訴提起が可能かという順番で検討する。
(1) 反訴として提起することが許されるか。
 反訴として提起するためには、146条所定の要件を満たす必要がある。
146条によれば、反訴が「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合」であって、「口頭弁論の終結前」になされること、「著しく訴訟を遅滞させないこと」が必要である。そして反訴がなされた場合、本訴と反訴は併合して審理されるため、請求の客観的併合(136条)の要件を満たす必要がある。すなわち、反訴と本訴が「同種の訴訟手続」によって審理され、併合が禁止される請求でないこと、そして、反訴が提起された裁判所に管轄が認められることが必要となる。
 まず、甲の提起した訴訟(以下、本問本訴と表記する)は売買契約に基づく目的物引渡請求である。本問本訴の審理は通常の民事訴訟手続で行われる。そして、乙の提起した別訴(以下、本問別訴と表記する)は本件売買契約に基づく売買代金支払請求である。本問別訴の審理も通常の民事訴訟手続で行われる。したがって、本訴と反訴は「同種の訴訟手続」で審理されるといえる。
 次に、本問本訴も本問別訴も通常の民事訴訟であるから、併合が禁止されることはない。
 さらに、本問本訴の訴訟物たる請求権と本問別訴の訴訟物たる請求権が同一の契約から発生していることから、同一裁判所に管轄権が認められる。
 そして、訴訟係属中に本問別訴は提起されていることから、「反訴」として提起した場合でも、「口頭弁論の終結前」になされるといえる。
 では、本問別訴が、「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合」にあたるか。
 146条が反訴を提起できる場合を「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合」に限定している趣旨は、反訴として提起されれば従前の手続や訴訟資料を活用し、迅速な紛争解決にしすることおよび関連する請求について同一審理をすることから、事実上の統一的紛争解決をすることになることから、そもそも反訴審理に従前の手続や訴訟資料を活用することができることが必要となる点、並びに、反訴原告たる被告にとって有利な訴えが提起されることから、反訴被告即ち原告の防御の利益に配慮する点にある。そうだとすると、本訴請求及び防御方法と反訴について、審理する内容が共通するということができれば、訴訟資料等の流用もでき、また、本訴と内容が重複するため、反訴被告の防御の負担が増えることも無い。そこで。「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合」とは、両請求を基礎づける法律関係またはその発生原因などの主な事実が共通する場合、並びに、本訴請求に対する抗弁事由において主な事実が共通する場合を指すと考える。
 これを本問についてみると、本問本訴請求および本問別訴請求を基礎づける法律関係は、本問売買契約という共通の契約である。したがって、「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合」にあたる。
 また、主要な争点は、売買契約の内容たる代金額が何円となるか、という部分で共通している。そのため、反訴を提起したとしても新たな争点を審理する必要が発生するわけではない。したがって「著しく訴訟手続を遅滞させる」とは言えない。
 以上より、反訴要件をすべて満たすこととなり、本問別訴を反訴として提起することは許される。
(2) 乙の訴えを別訴提起することは許されるか。
 原則として訴えを提起することは原告の自由である(憲法32条)。もっとも、民事訴訟法上、裁判所に係属中の訴訟と「重複する訴え」にあたる場合には142条によって「更に、訴えを提起することができ」なくなる。
 そこで、乙の提起しようとしている訴えが本問本訴と「重複する訴え」にあたるか。
 142条の趣旨は重複する訴えが別の裁判所に係属することになれば、当該訴訟においても攻撃防御方法を提出しなければいけない被告にとって負担が大きいこと(被告の応訴の煩)、同じ事件について貴重な裁判資源を二重に使うことは訴訟不経済であること、それぞれの訴えに対して出された判決の内容が矛盾する可能性があるため、それを回避すべきことという三点にある。そうすると、重複する訴えにあたるかどうかは、①当事者が同一か②同一内容について審理され、矛盾した判決が出されることで混乱が起こるかという観点から、訴訟物が同一かという2点から審理される。
 これを本問についてみると、①当事者は両訴訟とも甲と乙であり、同一である。②本問本訴訴訟物は売買契約に基づく目的物引渡請求権である。他方、乙の訴えの訴訟物は売買契約に基づく代金支払請求権である。訴訟物は同一でないため、142条は適用されないとも思える。
 しかし、訴訟物は異なるものの、前述のように主要な争点は売買契約中の代金額が何円かである。ここで、判決の既判力自体は「主文に包含するもの」に及ぶため(114条1項)、本訴確定判決においては目的物引渡請求権の存否に、乙の訴えに対する確定判決については代金支払請求権の存否及び範囲について既判力が生じる。この二つの既判力自体は別の訴訟物に対する判断について生じているため、抵触しない。しかし、二つの判決はそれぞれ売買契約が成立しそこで定められた代金額がいくらかということについて判断した上でだされている。そうすると、その前提についての判断が食い違うこと可能性があり、結果として矛盾判決が出される恐れがある。また、主要な争点が同じということは、貴重な裁判資源を2重に使用することになり、訴訟不経済である。
 したがって、142条の趣旨から、乙の訴えは「重複する訴え」にあたり、別訴として提起できず、同一審理かつ事実上紛争の統一的解決がなされる反訴でしか許されないと考える。
(3) 反訴が提起できることが、別訴が提起できない理由になるか。
 別訴が提起できない理由は、乙が本問訴えを提起することが142条に抵触するからである。反訴提起ができたとしても、別訴を提起することは自由であるから、反訴が提起できることは別訴が提起できない理由にはならない。
(4) したがって、本問甲の主張は正当ではない。
2 設問1(2)について
裁判所は、甲の請求について「乙は甲に対し、700万円の支払を受けるのと引換えに、絵画を引き渡せ。」との判決をすることができるか。一方、乙の請求について「甲は乙に対し、絵画の引渡しを受けるのと引換えに、700万円を支払え。」との判決をすることができるか。
(1) まず、裁判所は、同時履行の抗弁権の行使を甲及び乙が主張していない場合にまで、当該権利行使がなされたことを判決の基礎とできるか。
 同時履行の抗弁権(民法533条本文)を基礎づける事実たる双務契約の存在自体は、請求原因事実として主張されているため、この事実を判決の基礎とできることに問題はない。それに加えて、甲及び乙が権利行使の意思表示をすることまで必要か。
 訴訟外で債権が行使された場合、同時履行の抗弁権を有している債務者は当該債務を履行するか否かについて選択することができる。そうすると、訴訟上でも相手方の履行請求にたいして同時履行の抗弁権を主張するかについて意思表示を必要とすべきである。したがって、同時履行の抗弁権を行使するとの意思表示が必要であるといえる。
 したがって、本問においても、甲及び乙が同時履行の抗弁権を行使するとの意思表示をすることが必要である。
(2) 次に、裁判所はそれぞれの請求に対し、引き換え給付判決という一部認容判決を出すことはできるか。申立事項を超えて判決してはいけないとする246条に反しないか。
 246条は申立事項を超えた判決がでないこととして、原告の設定と食い違う判決がでること、被告の想定した防御の範囲を超えた不意打ち判決がでることを防ぐ点にある。そうだとすれば、246条に反するか否かは、当該判決が①原告の申立て事項の範囲といえるか否か、②原告・被告にとって不意打ちである判決になっているか否かによって判断されるべきといえる。
 これをまず本問甲の請求についてみると、①申立事項は無条件の目的物引渡請求である。そして、判決は700万円の支払いと引換えという条件付きの、目的物引渡しを認容する判決である。引渡しが認められるか否かというところは申立事項通りである。また、無条件という申立事項の中に条件付きという結論も包摂されているといえる。したがって、当該判決は申立事項の範囲内にあるといえる。そして、②併合審理ということは、口頭弁論は併合して行われている(152条)。そうすると、原告甲及び被告乙は本問売買契約の代金額が500万円か1000万円で争っているといえる。そうだとすれば、500万円から1000万円の間であれば、両当事者にとって不意打ちとなるとは言えない。
 したがって、甲の請求について「乙は甲に対し、700万円の支払を受けるのと引換えに、絵画を引き渡せ。」との判決をすることができる。
 また、乙の請求についてみると、①申立事項は無条件の1000万円の支払い請求である。そして判決は絵画の引渡しと引換えに700万円の支払を認める』一部認容判決である。1000万円が700万円という部分は量的一部であるといえるから、申立事項の範囲内である。また、前述のように条件を付けることも申立事項の範囲といえる。そして、②併合審理された別請求で両当事者はともに目的物引渡について攻撃防御を尽くしているから、当該判決をすることも不意打ちとはならない。
 したがって、乙の請求について「甲は乙に対し、絵画の引渡しを受けるのと引換えに、700万円を支払え。」との判決をすることができる。
3 設問2について
乙が、甲に対し、この絵画の売買代金額は1000万円であると主張して、その支払を求める訴えを提起することはできるか。
訴えを提起することは前述のように自由である。もっとも、当該訴えが前訴確定判決の既判力に抵触し、結果訴えの利益が欠けることになり、訴えを提起することができなくなることはある。
そこで、「500万円の支払を受けるのと引換えに、」の部分に既判力が及んでいるか。
114条1項は「主文に包含するものに限り」既判力が発生するとしている。この趣旨は、既判力が紛争の蒸返しを防止するために主張の遮断をするという強力な効力であるから、それを正当化するには前訴において自由に攻撃防御方法を主張することができたという手続保障がなされたことが必要であり、攻撃防御方法は訴訟物の存否を明らかにするためになされるのであるから、当該訴訟物の存否についての判断についてのみ当該効力を及ぼすこととした点にある。
そうすると、既判力が発生するのは攻撃防御の最終目標たる訴訟物に限定すべきといえる。また、引換給付判決において主文に引換え条件が明示されるのは、当該条件の成就を執行官が確認しなければ強制執行が許されないため(民事執行法31条1項)、当該条件の存在を執行官に明示する必要があるからである。
したがって、引換給付判決において、引換条件部分に既判力は発生しない。
本問においても、「500万円の支払を受けるのと引換えに、」の部分に既判力は生じない。
以上より、乙は甲に対し、この絵画の売買代金額は1000万円であると主張して、その支払を求める訴えを提起することはできる。

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