旧司法試験平成21年第2問民事訴訟法 答案例

<旧司法試験 平成21年 第2問 答案例>
第1 設問1について
1 裁判所は、第1回口頭弁論期日においてZについて弁論を分離してX勝訴の判決をすることができるか。
 弁論を分離することは民事訴訟法(以下法文名省略)152条1項によって認められた裁判所の権能である。弁論の分離は、裁判所の裁量に基づいて行われ、分離するか否かの決定は原則として自由になすことができる。
もっとも、必要的共同訴訟(40条)の場合には「合一にのみ確定すべき場合」にあたるため、弁論を分離することはできない。また、通常共同訴訟(38条・39条)の場合であっても、併合されている両請求が「法律上併存しえない関係」にあたり、原告から同時審判の申出がある場合には、弁論・判決を分離することは許されない(41条1項)。
(1) では、XY及びXZ両請求を併合した本件訴訟は必要的共同訴訟か、それとも通常共同訴訟か。
ア 「訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合」(40条1項)に本件訴訟があたるかが問題となる。
イ 必要的共同訴訟にあたる場合には、41条の規律が及び、各共同訴訟人の訴訟追行の自由が制約されることとなる。こうした制約を正当化するためには、当該訴訟を全員で訴訟追行させることなく、個々人の訴訟に任せておいた場合には訴訟上の混乱を起こし、ひいては統一的な紛争解決が望めないという場合にあたることが必要となる。また、「訴訟の目的」とは訴訟物を指すと考えられる。そして、訴訟物の存否についての判断には既判力が生じる(114条1項)。そうすると、「訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合」とは訴訟物たる権利又は法律関係について個別行使が許されず、全員でのみ処分が可能な場合をさすと考える。
ウ これを本問についてみると、XY間の訴訟は売買契約に基づく履行請求(民法555条)であり、訴訟物は売買契約に基づく履行請求権である。他方、XZ間の訴訟は民法117条に基づく履行請求であり、訴訟物は民法117条に基づく履行請求権である。この二つの権利は実体法上どちらから行使してもよいし、どちらかに対しては行使しないという態度を取ることも可能である。
 そうだとすると、訴訟物たる権利について全員でのみ処分が可能である場合には当たらないことになる
エ したがって、本件訴訟は「訴訟の目的が共同訴訟人の全員について合一にのみ確定すべき場合」にあたらず、通常共同訴訟にあたる。
(2) もっとも、原告Xから同時審判の申出がなされている。そのため、本件訴訟が「法律上併存しえない関係」にあたる場合には、41条1項の規律が及び、弁論及び判決を分離することはできない。
ア では、本件訴訟が、「法律上併存しえない関係」にあたるか。
イ 実体法上一方に対する請求権が認められれば、法律要件の関係上、他方の請求権が認められないという場合においても、訴訟追行が拙劣であれば、両方の請求権が訴訟上認められないということが起こり得る。41条1項はそうした訴訟法と実体法のずれを少なくし、実体法上必ずどちらかの請求権が成立するような場合には、事実上統一的な審理が行われ、統一的な判決が出され、もって原告が両負けするような事態を防ぐべく、弁論・判決を分離することができないとしたものである。そうした趣旨からすれば、「法律上併存しえない関係」とは、実体法上、必ずどちらかの請求権が成立するような法律要件となっている関係をいう。
ウ これを本問についてみると、XY間の請求権が認められるには代理権が存在していることが必要である。他方、XZ間の請求権が認められるには代理権が存在していないことが必要である。このように代理権があろうがなかろうが、残りの要件がすべて満たされれば必ずどちらかの請求権が認められるようになっている。
エ したがって、本件訴訟における両請求は「法律上併存しえない関係」にあるといえ、41条1項の規律が及ぶ。
2 以上より、裁判所はZについて弁論を分離して判決をすることはできない。
第2 設問2について
1 すべての期日についてZが欠席している場合、裁判所は証拠調べの結果であるZは代理権を有していたとの心証に基づいて判決をすることができるか。
 (1) まず、XY間においてはどのような判決をすべきか。
XY間の訴訟は前述のように売買契約に基づく履行請求である。そして、代理人に基づいてこの売買契約がなされたとされている。したがって、請求原因事実としてXが主張すべき事実は、①XZ間で売買契約が成立したこと②売買契約を締結した際にZが顕名をしたこと(民法99条1項)③売買契約に先立ち、YがZに対し、本件契約につき代理権を授与したことである。本問においては③が主張されたとしか書かれていないが、①②も主張されていると考えられる。
そして、それに対し、被告Yは③について否認している。そのため、当事者の申し出た証拠(180条)に基づき③の事実の存否について裁判所は判断する必要がある(弁論主義第3テーゼ)。
裁判所は証拠調べの結果、Zが代理権を有していたとの心証、すなわち③の事実が認められるとの心証を得た。
請求原因事実の存在がすべて認められ、これに対する抗弁は何ら主張されていないから、裁判所は、請求認容判決をだすことになる。
(2) では、つぎにXZ間についてはどのような判決を出すべきか。
ア Zは第1回口頭弁論期日に出頭せず、答弁書も提出していない。そのため、まず、原告が訴状に書いてある請求原因事実、すなわち、①XZ間売買契約の成立②XZ売買契約に際してZが顕名をしたということ、の2つを陳述することになる(161条3項)。次に、被告が答弁書を出していれば、それを陳述したと擬制することになる(158条)が、答弁書の提出がない。すなわち、原告が主張した請求原因事実を「争うかどうか明らかにしない場合」にあたる(159条3項本文・159条1項本文)ことになる。したがって、請求原因事実①②について擬制自白が成立することになる。裁判所は請求原因事実があることを基礎として判決をする必要がある。
イ XZ間の訴訟において、「Zが代理権を有していた」という事実は、Zが主張するべき抗弁にあたる(117条1項)。この抗弁について、Xは第1回口頭弁論期日においてZの代理権の不存在を主張している(先行否認・規則79条3項参照)。
抗弁は被告たるYが主張するべき事実であるから、Xが主張しているからといって、その事実を判決の基礎できるか問題となり得る。しかし、弁論主義第1テーゼは裁判所と当事者の役割分担に関する建前である。そのため、当事者から当該事実の主張がありさえすれば、その事実の存否について、当事者から提出された証拠について証拠調べをし、判決を出すことができる。
ア) では、Zの援用なくして、Yが提出した証拠に基づいて、事実を認定することができるか。
イ) 同時審判申出訴訟であったとしても、通常共同訴訟であるから、39条の規律が及ぶ。すなわち、共同訴訟人独立の原則が働き、一方がした訴訟行為の効果は他方に及ばない。そうだとすると、共同訴訟人の一人がした証拠申出の効果は他方に及ばず、証拠申出をしていない当事者との間では当該証拠から得た心証に基づいて事実を認定し、判決を出すことはできないとも思える。しかし、共同訴訟においては弁論及び証拠調べは同一期日で行われるため、証拠申出をしていない共同訴訟人も当該証拠について異議を申し出る機会は設けられていた。また、同一証拠から得られる心証は同一であり、審判も事実上統一状態にあるにもかかわらず、証拠申出の有無によって認定事実を変えることは、自由心証主義(247条)に対する制約となりうる。
 そこで、通常共同訴訟においても、共同訴訟人の一方が提出した証拠は、他方の援用なくして、他方の訴訟における事実認定に使用することができると考える。
ウ) 本問において、XZ間の訴訟においても、Yが提出した証拠に基づいて事実認定をすることができる。
ウ 以上より、請求原因事実の存在が認められるが、抗弁事実の存在が認められるため、裁判所は請求棄却判決をすることになる。
(3) XZ訴訟においても請求認容判決をもらうためには、Xは自らの先行否認を撤回すればよいのである。共同訴訟人独立の原則より、Yのした代理権の存在を争うという事実の主張の効果はXZ間の訴訟に及ばない。そうすると、XZ間の訴訟において代理権の存在に関する事実の主張はないこととなる。
そのため、(2)ウに示したような結論をとっても不都合とは言えない。
第3 設問3について
1 第1審判決に対してXがYを被控訴人として控訴した場合、控訴裁判所は、YとZを共同被控訴人として判決をすることができるか。
 YとZを共同被控訴人として扱うためにはXのなした控訴の効果がXZ訴訟にも及び、XZ訴訟も控訴審に移審することが必要となる。
 では、XY訴訟に対する控訴の効果がXZ訴訟にも及ぶか。
 控訴とは、判決が確定する前に、その取消しまたは変更を控訴審裁判所に求める不服申立てをいう。同時審判申出訴訟において妥当する共同訴訟人独立の原則の下では、共同訴訟人の一人に対してした訴訟行為の効果は他の共同訴訟人に及ばない。すなわち共同訴訟人の一人に対してした控訴の効果は他方に対しては及ばない。また、41条3項も、「控訴裁判所に各別に係属するときは、弁論及び判決は併合してしなければならない」としており、両請求が控訴審に移審するかは、当事者が両請求それぞれに対して控訴するかによるということを前提としている。したがって、同時審判申出訴訟において、共同訴訟人の一人に対してした控訴の効果は他の共同訴訟人には及ばない。
 本件において、XZ訴訟に控訴の効果は及ばない。XZ間の判決は移審することなく確定する。
2 以上より、控訴裁判所はYとZを共同被控訴人として判決をすることができない。                    以上

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