旧司法試験平成11年第2問民事訴訟法答案例

1 設問1について
本問において、乙は、甲の行為が損害の発生につながったと口頭弁論において陳述している。この主張は、「被害者」甲に損害発生につき「過失」があったという事実の主張といえる。
(1)では、裁判所は、過失相殺(民法722条2項)を適用する基礎となる事実についての主張はあるものの、過失相殺自体をなすよう裁判所に求める主張がない場合にも過失相殺をし、判決をすることができるか。
裁判所は、当事者が主張しない事実をもとに判決をすることはできない(弁論主義第1テーゼ)とされている。本問において、過失相殺自体をなすよう裁判所に求める主張が、弁論主義の適用される「事実」にあたるのであれば、そうした主張がなされていない以上、裁判所は過失相殺をしたうえで判決をすることはできない。
ア まず、弁論主義の適用される「事実」とはどのような事実か。
弁論主義とは判決の基礎をなす事実の確定に必要な資料の提出を当事者の権能及び責任とする建前をいう。弁論主義が機能することによって、当事者が提出していない訴訟資料が判決の基礎とされることはなくなり、当事者にとって不意打ちの判決が出ることは防止される。当事者は訴訟物の存否について攻撃防御をつくし、その攻撃防御の要となるのは権利の発生変更消滅という法律効果の判断に直接必要となる主要事実である。そうすると、不意打ち防止の観点から、主要事実については弁論主義を適用する必要がある。加えて、主要事実以外の間接事実・補助事実にも、弁論主義を及ぼすべきか。間接事実は経験則・論理法則に照らし、主要事実を推認するのに役立つ事実であり、補助事実は証拠能力や証明力を明らかにする事実である。この二つについては、主要事実との関係で証拠と同じような働きをする。この二つの事実にまで弁論主義を及ぼすと、証拠として提出すれば自由心証主義のもと、口頭弁論に顕出されずとも判決の基礎とされるにもかかわらず、事実であれば口頭弁論に顕出する必要があるという奇妙な結果を招来する。そのため、この二つの事実に弁論主義は適用されない。
したがって、弁論主義が適用される「事実」とは、主要事実をいう。
イ 次に、過失相殺自体をなすよう裁判所に求める主張が過失相殺の効果発生の判断に必要となる主要事実にあたるか。
民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる」と規定している。この規定の仕方からすると、当事者が過失相殺を求めることが権利として認められているわけではなく、裁判所の考慮事項とされているだけと考えられる。そうすると、過失相殺をするという意思表示によって、過失相殺の効果が発生することが予定されているとは言えない。また、過失相殺が認められた趣旨は、損害発生に対する責任を加害者被害者双方に公平に負担させる点にある。被害者に過失があったとしても、当事者の主張がない場合には過失相殺ができないとすると、加害者と被害者の公平を図ることができず、本条の趣旨を没却する。
よって、過失相殺をなすよう裁判所に求める主張は、効果発生の要件にはなっておらず、主要事実には当たらないと考える。
ウ 以上より、当該主張は主要事実にあたらないため、弁論主義が適用されず、裁判所は当事者の主張なくして、過失相殺をすることができる。
(2) 裁判所が過失相殺をできるとしても、本問のような一部請求の場合には、どのように過失相殺すべきか。
 一部請求でない場合には、裁判所の審理によって成立したと認定された債権全額に過失割合を乗じて、訴求できる額を決定することになる。明示の一部請求の場合には、訴求されている債権は債権全体の一部である。そうすると、裁判所の審理によって成立したと認定されるのは債権の一部であるから、過失割合を乗じるのも、その債権の一部とも考えられる。しかし、このような処理は明示の一部請求を選択した原告の合理的意思にそぐわない。すなわち、原告が明示の一部請求をしたのは、自己の過失割合をも勘案し、そのうえで認められると思わしき金額で請求しようとしたからである。そうすると、原告の訴求額は債権全額から過失割合を自ら控除した後のものであると考えられる。こうした原告の意思からすれば、債権全額から過失相殺するべきといえる。また、債権の一部から控除するという処理では、原告に残額請求をするインセンティブを裁判所が自ら与えることになり、訴訟の一回的解決という要請にこたえられない。さらに、原告が一部請求をしたとしても、裁判所は債権全体の存否について判断するため、債権全額から過失相殺をしたとしても審理の負担になるということはない。
 そこで、一部請求における過失相殺であったとしても、債権全額から過失相殺を行うと考える。
 本問において、債権は全額で1500万円、過失割合は乙が6割と認定されている。したがって、過失相殺後の、請求が認められる額は、1500×6/10=900万円となる。
(3) 以上より、裁判所は「乙は、甲に対し、900万円支払え」との一部認容判決をすることになる。
2 設問2について
 本問においては、設問1と異なり、被害者甲に過失があったことについての主張すら口頭弁論に顕出されていない。
(1) このように過失相殺をする際の基礎となる過失に該当する事実の主張がなく、過失があるとの主張もない場合でも、証拠資料から過失割合を認定できる場合、裁判所は過失相殺をすることができるか。 
ア 前述のように、弁論主義は権利の発生消滅変更を判断するために必要な主要事実にのみ及ぶ。過失相殺において、過失がなければそもそも過失相殺ができないという関係にあるため、少なくとも「過失」があることは主張しなければいけないとも思える。
他方、過失相殺の趣旨が公平にあることからすれば、その趣旨を全うすべく後見的に、裁判所は過失自体についても主張なくして、過失相殺できるとも考えられる。
 過失相殺の趣旨が当事者間の公平にあるとすれば、当事者が過失相殺を望まないと考える場合にまで過失相殺による公平を図る必要はない。また、できるだけ当事者に争点を提示し、自ら攻撃防御方法を提出する機会を設け、手続保障を図るべきである。
 そこで、少なくとも当事者から「過失」について主張があることが、過失相殺を適用するために必要であると考える。
 本問において、当事者から過失についての主張はなされていない。したがって、裁判所は本問において過失相殺をすることはできない。
(2) 裁判所は債権全額で1500万円と認定している。申立られた額は1000万円であるため、1000万円の範囲で請求認容判決をすることになる(民事訴訟法246条)。
 以上より、裁判所は「乙は、甲に対し、1000万円支払え」との判決をすることになる。                             以上

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