旧司法試験平成20年第2問 民事訴訟法 答案例

<平成20年第2問 解答例>
1 設問1について
 補助参加人Zが7月18日に控訴状を第1審裁判所に提出して行った控訴は適法か。
(1) まず、補助参加人ができる行為として「上訴の提起」が挙げられていることから(民事訴訟法(以下法文名省略)45条1項本文)、補助参加人Zも公訴の提起をすることができる。
(2) 次に、控訴は控訴状を第一審裁判所に提出してしなければならない(286条1項)。Zは控訴状を第1審裁判所に提出しているので、この部分は適法である。
(3)ア そして、控訴は控訴期間中(285条本文)にしなければ、その効力を生じない。控訴期間の起算点は判決書の送達を受けた日であり、期間はその日から2週間である。
 ここで、Zは7月5日に判決書の送達を受けていることから、控訴期間満了は7月18日であると考えられる(95条1項、民法140条)。そのため、Zの控訴は適法とも思える。
イ もっとも、当事者Yに判決が送達されたのは7月3日であり、控訴期間は7月16日午後12時に満了している。すなわち、当事者たるYは7月18日時点において控訴権を失っており、控訴をすることができない。
 そのため、補助参加人Zが行った控訴は「訴訟の程度に従いすることができないもの」(45条1項ただし書)にあたり、不適法となるのではないか。
ア) 45条1項ただし書の趣旨は、補助参加人は他人間の訴訟が係属する限りで、当事者を補助することによって訴訟の結果に影響をあたえ、もって自己の利益を保全するものであるから、当事者に従属し、当事者が行うことができない行為はなしえないとする点にある。他方、法は45条1項本文で補助参加人が「一切の行為ができる」とし、自己の利益を保全するために訴訟の結果に影響するあらゆる行為を行えるようにしている。この趣旨は、補助参加人も自己の名と費用で訴訟に参加しているのであるから、訴訟行為を自由に独立して行うことのできる地位にあることを確認する点にある。このように、補助参加人は従属性と独立性の二つの性質を有している。ここで、補助参加人は他人間の訴訟が係属する限りにおいて自己の利益を保全できるという制約を有している。そうすると、条文を解釈する際にも、従属性の範囲内でのみ独立性が認められていることを重視すべきであるといえる。被参加人の控訴権が消滅した場合、判決は確定し、訴訟係属はなくなることになる。そうすると、補助参加人が訴訟行為をする前提がそもそも欠けることになる。
 したがって、従属する他人間の訴訟がないため、補助参加人は訴訟行為たる控訴の提起をすることはできない。
イ) これを本問についてみると、7月18日時点では判決の確定によって訴訟は終了しており、補助参加人は訴訟行為たる控訴の提起を行うことはできない。
(4) 以上より控訴の提起を行うことができないにもかかわらずなされた本件控訴は違法である。
2 設問2について
(1) Zは、YZ間の訴訟において、主債務の存在を争うことはできるか。
 前訴においてZはYの側に補助参加をし、結果、Y敗訴すなわち、主債務が存在することを前提として、保証債務が存在するという判断がなされた。46条柱書によると、「補助参加に係る訴訟の裁判は…補助参加人に対しても効力を生じる」とされている。そこで、前訴Y敗訴判決中、主債務が存在するという判断がされた部分に46条柱書規定の効力が生じ、その効力がZY間に及べば、ZはYZ間の訴訟において、主債務の存在を争うことはできない。
(2)ア では、46条柱書にいう「効力」とは一体どのような効力か。
 46条柱書の趣旨は、前訴において協力しあって訴訟追行を行い、その結果敗訴に至った場合には、その敗訴責任を互いに分担しあうのが公平であるため、当該判決の効力(参加的効力)を発生させる点にある。敗訴のきっかけは訴訟物の存否を判断する前提となった事実の存否にあることからすると、この効力が生ずるのは訴訟物に限られず、訴訟物の存否判断の論理的前提となった判決理由中の判断にも生ずる。また、ともに訴訟を追行したことから、この効力の発生が認められているため、対立当事者間ではなく、補助参加人と被参加人の間に発生する。
イ これを本件についてみると、前訴でYが敗訴するためには、主債務が存在し(民法446条1項)、かつ保証契約が成立していることが必要である。すなわち、主債務が存在しなければそもそもY敗訴判決が出ることはなかったのである。そうすると、主債務の存在は訴訟物たる保証債務の存否を判断する論理的
前提であったいえる。
 したがって、主債務の存在につき、参加的効力が生じている。
 また、ZとYは補助参加人と被参加人として訴訟追行を行っていたのであるから、YZ間に参加的効力が及ぶ。
ウ 以上より、YZ間の訴訟に参加的効力が及び、主債務の存在について争うことはできないとも思える。
(3) しかし、Yは主債務の存在を疑わしめる重要な証拠でかつ、Zがその存在を知らない証拠を持っていたにもかかわらず、その証拠の提出を怠っていた。この事実は、46条4号「被参加人が参加人のできない訴訟行為を故意または過失によってしなかったとき」にあたり、参加的効力は発生しないのではないか。
ア 46条各号を定めた趣旨は、参加的効力の発生を認めた趣旨が協力して訴訟追行にあたった者は、敗訴責任を分担するのが公平という点にかんがみ、その公平さが認められない場合には、参加的効力を発生させないものとした点にある。そして、4号の趣旨は被参加人が参加人のなしえない訴訟行為をしなかったために敗訴した場合には、双方に公平に敗訴責任があるとはいえず、参加的効力が発生する基礎を欠くという点にある。そうだとすると、46条4号にあたるためには、参加人が客観的に前訴においてすることができなかった訴訟行為であり、かつ、被参加人が通常当事者として要求される注意義務を尽くした場合にはその訴訟行為をなすことができたといえることが必要である。
イ これを本問についてみると、Zは当該証拠の存在自体を知らなかったのであるから、証拠申出(180条1項)をすることはできなかったといえる。また、主債務が存在していなければそもそも保証債務は附従性(民法448条)によって消滅するのであるから、これを提出することは当事者として通常のことであるといえる。そうすると、Yは通常当事者として、手持ち証拠を提出するという注意義務を尽くすべきであったにも関わらず、これを怠っている。
ウ したがって、46条4号にあたり、参加的効力は発生しない。
(4) 以上より、ZはYZ間の訴訟において主債務の存在を争うことができる。 以上

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