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縄文人の俺が弥生人のアイツに土器土器するなんて  ☆連載開始☆第1〜第3章セット(2章まで無料です!)

         
     
第一章 ストーンサークル
     

「歩いて縄文遺跡に行こうとした、僕がバカだった……」

 晩夏の蝉が鳴いている。自分の息が暑苦しく湯気になってまとわりつく。9月末の青森とはいえまだ秋とは呼べない残暑の中、僕は青森の山中にある遺跡を目指して歩いていた。『空港から車で15分』というのは、土地勘のない人間が歩いて一体、何時間かかるんだろうか……。重いナップザックがじっとりと汗で濡れている。畑仕事をしていた地元のじいさんはここから歩いて30分、山道に入ってから20分ぐらいだと言っていたが、「空港から歩いて来た」と言ったら珍しいものを見るような目で見て、
「今時、歩くよんた人間は、よっぽどの貧乏だべ」とさりげなく僕を侮蔑した。


(こ、ここは、縄文王国青森なのに、縄文人のように歩いて移動する人間はいないと言うのか……! だったら何故、バスが一日二本なんだ……!)
 ふいにアスファルトの道路が終わりを迎え、砂利道の先には鬱蒼とした山道が現れた。
「あ……ここから、急に山になるんだ。山の入口みたいな……」
 砂利道が終わり土の感触が靴底を伝わってきた。背の高い木は両脇から影を作り、日陰に入るとむせ返るほどの土と森の匂いに包まれた。空気がひんやりとしている。今まで刺すような日差しの中を歩いていた僕は、急な山道の暗さと涼しさに心細くなっていた。
「落ち着け、縄文遺跡は……いつも、こうだ。」

 見慣れない山菜やウバユリなどの呪術的な形の植物が現れ、この道が縄文遺跡に続いていることを示唆していた。怖い。でも、間違いない。この感じが来ると、遺跡のそばに近づいている証拠なんだ。
 道は本当に合っているのかと心配になった頃、「小牧野遺跡」という、矢印看板が現れた。背の高い木々が作るトンネルの出口が光っている。心臓がバクバクと鳴り、怖いのか嬉しいのかわからない感情が出たり入ったりした。すると急にトンネルが切れるように光の世界に投げ出された。目の前に畑と、青空が広がっている。

「うわ……広い。」
 切り開かれた場所からは遠くの山と海までが見え、山までは果てしなく森が続いている。空が広い。燦燦と照り付ける太陽に導かれるように、僕は走り出した。探してた場所がすぐそばにある! その興奮で砂利道を走り出すと、白い石が目に入った。
「あ……」
 石、石、石。普通の場所とどこが違うのかわからないほど、素朴に並んだ石の数々。

よく見ると石は環状に並べられており、その石の輪が二重になっている。全体を見渡すと、石でエネルギーを閉じ込めた劇場のようにも思える。環状になった石の輪っかの中心に、大きな陽石が立っていた。1メートルほどもある、男根に似た巨石だ。

「ああ……本当に、あったんだ。青森のストーンサークルに、来れたんだ……!」
 僕は走り出して、その陽石に抱き着いていた。男である僕が男根に似た石に抱きつくなんて、気持ちが悪いとは思わないで欲しい。僕は、ずっと青森の山中にこのストーンサークル(環状列石)があるという噂を聞いて、ずっとその情報を探していたんだ。夢に出てくるほどこの石のことを考えていた。本当にあるのか、ないのか、確かめたい。その一心で……!
 
 ふいに2年前に訪れた秋田の大湯ストーンサークルがフラッシュバックした。そこは、まるで宇宙船の離発着基地のような場所だった。
 巨大なストーンサークルが道路を挟んで二つも造られており、それは4千年前の縄文人が作ったものだった。縄文人はそのストーンサークルを造るのに、石英閃緑ひん岩という緑色の石だけを選んで並べた。しかも、わざわざ7キロメートルも離れた川から、重い石を運んで造ったのだ。

 その場所に入ると勝手に心臓がドキドキして、有名な遺跡のはずなのに人は一人もおらず、広大な場所に一人で、「ここは一体、何なんだ?」という疑問だけが僕の身体を駆け巡った。
 「何でこんなもの造ったの? 出来上がるのに百年も二百年もかかるようなものをわざわざクレーン車もない縄文時代に……一体、こんなの造って何ができるの? 二つの広大なストーンサークルの中心の石を直線で結ぶと、夏至の日没と冬至の日の出のラインが浮かび上がるって……何で? ていうか、冬至とか当時から知ってた? 誰が造った? 何のために?


 それから僕はストーンサークルにハマった。謎を追いかけて追いかけるためにバイトをして、休日になると行ったことのないストーンサークルに出かける。しかし「どうしてここに、この石が置かれたのか?」と考えるとどうにも辻褄の合わない石もあり、謎は深まるばかりで一向に解読できず。ストーンサークルが何のために造られているのかは、わからなくなるばかりだった。僕は石にきつく抱きついて頭をこすりつけた。


「縄文人はなんで、こんな不思議なものを日本中に造ったんですか! こんなの造って、どうするつもりだったんですか! うう……知りたい。墓だった説はわかるけど、来てみるとやっぱり得体のしれない空気を感じるし。こう、石を並べることで一体、何をしようとしたのかが本当に、わかんないっ!
 ああ、本当のことが知りたい。僕を、縄文時代に僕を連れてってくださいっ! 僕は、本当のことが知りたいんですっっ!!!!」

 
 太陽の光が一層強くなり、石の影が濃くなるのを感じた。何か、普段と違う……と思って見上げると、太陽の周りに丸い虹が出ていた。


「あっ……これ、日輪……じゃなくて、ヒガサだ。すごい、こんなにハッキリとした虹になってるの初めて見る……眩しい。目が、つぶれそう……」
 すると、どこからか僕の脳内に直接声が響いて来た。
(ちょっと、一応これ、異界から突き出た形の男根なんで。あまり抱きつかないでくれない? ちょっとならいいよ、ちょっとなら。でもそんなにぎゅうぎゅうやられたらちょっと! 困るっていうか、なんかもう!)
「い……? 石が、喋った~!」

 僕は慄いて抱きついていた石からガバと離れた。
「えっ、何何? 異界から突き出た形の男根って、何? そっちの世界とかあっちの世界とか、そんなの……あるの?」
(あのねえ。一応ここは、生と死の交歓のために造られた場所だから。真ん中にちんちんの形の巨石ドーン置いてるってことは、何表しているかっていうと、セックスだから。ほら、陽石の周りに陰石があるでしょ? 陰石はまあ、ようするに女性器だから!)
「ひいっ……! 卑猥……」
(ちょっと、何言ってくれてるの? セックス一番大事でしょ? 生きる喜びでしょ? 現代人ってバカなの?ていうか、それないと生まれてこれないでしょ!)

「そそそ、それはそうですけど!」
(そこのちんこの石は、こちらの世界からそちらの世界に、突き出た感じのものだね。言うなら、そっちの世界は女体の中であって、生あたたかい。こちらの世界とは違う場所なんだよ。男女だってそうでしょ? 同じ世界にいるのに別物でしょ? 交じり合ってるようで交じり合ってないでしょ? でも一体化するってこういうことでしょ?)
「いや……僕は、人と、付き合ったことがないんでそんなの、わかりません……」
(ええっ……! ごめん……そんな、見た目が大人になってるのにそんな……ふこうな人がいるとは思わなかったから……ごめん)
「ふ、不幸って言った!」

(あー、ごめんごめん。ちょっと何千年か寝てたもんだから。なんかちょっと常識とか変わってんのね? ストーンサークル見て何かわからないなんて。見ただけで普通、わかるっていうか。感じるっていうか。普通、そんなだと思ってたから。)


「いやいやいや、わかんないですよ! 微妙に規則性がない石とか、置かないで下さいよ! なんでここのストーンサークルは、南東を指し示していないんですか! 普通は冬至の日の出の位置、大事でしょ!?」
(ああ、わかんない? そうよね。)
「そのくせ! ここ平地じゃなくて、山の斜面を縄文人が長い年月かけて土木作業で削って、平らにしてから石並べたっていうじゃないですか。なんで? なんでそんなことしたの?」
(うわ、面倒くさ! なにこれ、現代人って頭悪いの? ここが、大事な場所だからに決まってるじゃん。そりゃ、その土地が斜めだったら削るよ。だってここだけが特別な場所なんだからああもう、いいよ。君、縄文時代行きたいって言ってたじゃん? 連れてってやるからそこで話つけてくれる?)


「ええっ……嘘っ、連れて行ってくれるって、本当に? なにこれ、夢? 石が喋ってるし……」
(その代わり……ちょっと大事な役を買ってくれる? 何、簡単なことだけど。縄文人の子どもを作ってほしいんだよね。)

「ええっ! 子ども……!?」
(うん。縄文時代晩期に入って来た弥生人の子どもを作ってもらわないと、今の世の中ができあがらないんだけどさ、ちょっと大陸から来る途中で弥生人死んじゃって。今、向こうで困った困った言ってたからなんとかしたいんだよね。)
「あ……じゃあ、俺が弥生人として、縄文人と……結婚するってことですか?」
(うん。子どもできたらすぐ現代に帰してやるから)
「じゃあそれって、縄文人の暮らしを……、生で見れるってことですか!?」
(まあ、そうだね。生まれてくるまで十月十日は、あの時代で暮らしをしてもらおうかな?)


 僕の胸は高鳴っていた。だって、18年間、アルバイトと縄文遺跡に行くこと以外、何もない人生だったんだ。
 夢でもいい。いや、むしろ夢なら、今すぐ縄文時代に行って、『あの土器、誰が作ったの?』とか、『土偶って、結局何なの?』って質問を縄文人に浴びせたい。それに、縄文時代の女の子なら……人を見た目で判断しないのではないだろうか。こいつの履いてる靴はナイキだとかプーマだとか、スポルディングだとかで、男を判断したりしないんじゃなかろうか……!


「あの、僕、縄文時代に行けるなら、子どもでも何でも、作ります! だからお願いです、僕を、縄文時代に連れて行って下さい!」
(あ、マジで? あー、こっちとしてはそっちの方がラッキーだわ~。ありがたいわ~。じゃあさ、俺にそのまま掴まっていて? こっちの次元から向こうの次元に、転送するから)


 僕は石にギュッと抱き着いた。(あん……)と、石が少し喘ぐのを聞いた。やめてほしい。石のくせに。太陽はは眩暈がするほど光を強く発し、丸い虹は激しく青空に浮かび上がっていく。僕はビュッと、体を大地に投げ出された。陰石に頭をぶつけたらしい。「イタタタタ……」
 頭を押さえながら周りを見渡すと、さっきと同じ場所なのに恐ろしく空気が濃密なのに気が付いた。

「ああっ!」
 周りを見渡すと、木々が先ほどの樹とは比べ物にならないほど背が高く、一本一本の樹の幹が直径1メートル以上ある、巨木の森の中に僕はいた。
「こ……、これ、縄文時代……?」
 石にしがみつくと、先ほどの石よりも大きくなった気がした。
「あれ? おかしい……」
 そう思って自分の手を見ると、なぜか指先が細く、華奢な腕をしていた。下を向くと、胸がある。胸……これは、オッパイ……?
「なんじゃこりゃーーーーーー!?」

 石がこっちを見ている。
(あー、いいんじゃない? いい、いい! 弥生人の女子って、ミステリアスでカワイイじゃん。それじゃがんばって、縄文人の子ども作っておいで!)
「僕が、産む方!?」
 突然の縄文時代。巨木だらけの世界に投げ出され、しかも女の格好をしていた僕はこれから、縄文人の子どもを産まなきゃいけないというのか?
「そんなの、あるか!」
 石が笑っているのが伝わってくる。何アイツ、何楽しそうにしてんの? 濃密な空気の縄文世界に、僕は身一つで投げ出されていた。
 
 
            第二章 弥生人として嫁に行く
 
 「おお……石の言うことは本当じゃったんじゃ……! 娘が生き返った! これで我が部族は新しい部族と交わり、世界にわしらの子孫が広まることとなろう!」
 白い髪に白いヒゲ、アイボリーの麻の服を着たヨボヨボのじいさんの足元には、草を編んだと思われる草履。一瞬で僕は思った。「弥生人、靴履いてる!」と。
 縄文時代の靴は発見されていないから、縄文人は裸足だったと言うヤツもいるけど、縄文人はきっと、動物の皮とか、草とか、自然に還りやすい素材の靴を履いていたと僕は思っていたんだ。だから遺物として発見されてないだけなんだと。この人は大陸から来た弥生人みたいだけどこれなら、縄文人も靴を履いていそうだ……! 
 じいさんは僕に駆け寄って抱きついた。


「よかった~! よかった~! 友好の印であるお前が、死んでしまったら一体何を貢いでいけばいいのか、途方に暮れておったわい!」
「ぼ……僕、貢ぎ物なんですか!?」
「ああ~、そうじゃ。お前さんと妹、そのまた妹の3人を連れてきたが、道中で妹2人が亡くなったのは、本当にすまんことだった~」
「ていうか、僕もさっきまで死んでたんだよね!?」
「やっぱり、普段から神様は大事にするもんだ~。今晩は祝言じゃ! いや~、さっきまで娘は死んでない寝てるだけって言い訳してたのすっごい、苦しかった~!」
「いやいやいやいや、ちょっと待って! 娘、僕一人だけって……相手は、男なの!?」
「なんじゃあ? 当たり前じゃあ。お前さんは、女じゃからして。」
「いや、見た目はそうだろうけど、違うんだって! 僕は、生まれた時から女子しか好きになったことがない、普通の……男子だから!」
「ああ~。さっきまで息してなかったから……混乱しておるんじゃの。大丈夫。なかなかの、イケメンじゃったぞ」

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