ママのおまじない(no.36〜no.40)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。

36.赤いほっぺ・続き

昨日、おにいちゃんの担任の先生から電話があった。
ここのところ、友達と、もめて泣いてしまうことが多いとのこと。
どうも先週、クラスの子に「ゆきのほっぺが赤い」ことで、からかわれたことがきっかけで、心が弱くっていて すぐに涙がでてしまうようだ。
もしかしたら、他に原因があるのかもしれないけど・・・

その先生は、新卒の若い先生。
一生懸命、言葉を選んで話してくださった。
「イヤな思いをさせて、すみません。」と。
私は、「イヤな思いなんて、とんでもない! 近くに病気の人がいないとなかなか、わからないことですし、こういうことは、これからたくさんあると思います。自分で折り合いをつけて、乗り越えていくことです。」と思わず強く言ってしまった。
まるで、自分に言い聞かせるように。

先生は、機会をみて、クラスの子に、ゆきのことも含め ひとの身体のことを 言ってはいけないと話すとおっしゃった。
そして最後に「こういうことも いつかプラスになるといいですね。」と。
その通り、いつの日かプラスになる!
いろんな思いを感じ、味わった人ほど人の痛みのわかる深い人間になれるはず。
がんばれ~!おにいちゃん。

でも苦しくて悲しいときは、いつでも話してよ。
いっしょに泣こうね。

37.図書館

私は、図書館が大好きだ。
思えば、高校受験のときも土日は図書館で勉強していた。
(まあ、弟と同じ部屋がイヤだったからかもしれないが・・・)
そして社会人となり、結婚し、しばらく図書館とは縁遠くなっていた。

しかし、ゆきを生んでから私の「図書館熱」が復活した。
自転車で5分のところにある図書館。
夏の暑い日や、冬の寒い日・・・
公園には連れていけなくても 温度管理がなされている図書館には、ゆきとおにいちゃんを連れてよくでかけた。

それぞれ、貸出カードを作り、ひとり10冊まで借りられる。
3人で30冊も借り、自転車のかごいっぱい本を積んで帰ったこともあった。
絵本、紙芝居、雑誌・・・これで家でも しばらく楽しめるとウキウキした。

今は、ふたりの子ども達も図書館に興味がなくなったらしく、 私、ひとりで行くことが多くなった。
あそこに行くと、なんともいえない心地よさに包まれる。
私の大好きな大切な場所だ。

38.時間

私は、今までゆきとどれだけの時間を一緒に過ごしただろうか。
ゆきにどれだけの時間を費やしただろうか。
昨日、養護の先生に言われた。
「お母さん、いつも学校に来ているみたいね。やっぱり、健康な子より手も時間もかかるよね。」と・・・

確かに、今週は毎日学校に行っていた。
先生に話しをする、具合が悪くなり早退、外来で早退・・・などなど
親は子どものために動くのはあたりまえだ。
しかしこの7年間、いつもゆきと一緒にいるか、ゆきのことを考えているか、ゆきのことで誰かと話しているか・・・で占めていた気もする。

毎月の診察、病院の往復、手術や検査のときの付き添い、幼稚園探し、幼稚園の送り迎え、教育委員会との話し合い、養護学校の見学、小学校との話し合い、校外学習の送り迎え、プールの付き添い、毎日の薬の管理・・・(次から次へとでてくる・・・)
小さい頃は家の中でも一日中だっこをしていた。
片手にゆきを抱き、片手でおにいちゃんをシャワーしたこともあった。

このたくさんのゆきとの時間の中で、私はなにを感じたのだろう。
ゆきが生まれていなかったら、私は何をしているんだろう。
ゆきのおかげで、今の私がいるような気がする。
これからも、ひとつひとつを丁寧に味わって過ごしていきたい。

39.大事な検査

24時間ホルター(心電図)をやることになった。
と言うのも、その数日前に、うちでお絵かきをしていたときに急に、「ママ~胸がドキドキする」と言い出し、胸に手をあてて心拍をはかったら、いつもより少し早めだった。
そのことと、体育のあとよく気持ち悪くなることを主治の先生に話したら、そういうことになった。
今回は、ホルターをつけて、登校すること。
そして、できれば体育もやってほしいとのお話だった。

ゆきも聞いていたせいか、渋々、納得してくれた。

何回目のホルターだろうか。
でも学校にそれをつけて行くなんて、できるのだろうか?
友だちに、何か言われないだろうか?からかわれないだろうか?
そんな心配ばかりして、私の方がドキドキしてきた。(笑)
私が不安そうに「ゆき、大丈夫?」と聞くと、笑って、「大丈夫。大事な検査なんでしょ。」と言うゆき。
そう、そう!誰に何を言われても、あなたに必要な大切な検査。。。
やらなければいけないことは、何がなんでもやらなければいけないのだ。
泣いても、わめいても、無駄なのだ。
小さい頃から、そういうことの繰り返しだったもんね。

私よりゆきの方が、病気のことわかっている。。。
ママは、ダメだね・・・心配ばかりして。

40.『死ね』という言葉

今、この言葉が子どもたちの世界に氾濫している。
担任の先生に「死ね」と言う子ども。
友達の持ち物に「死ね」と書く子ども。
うちの子どもたちも、ゲームをやりながら この言葉をつかうことがあり、そのたびに注意はするが、また口から出る。

「どういう意味で使っているの?」
「ただ、ゲームの相手をやっつけろみたいな・・・」
もしかしたら、他の子もそんな感覚で生身の人に向かって言うのか。
おにいちゃんが2年生のとき、友達に「死ね」と言われて泣きながら帰ってきたことがあった。
ただ、ボールがとれなかっただけだと言う。
ただ・・・それだけで、この言葉をつかうのか。

「死ね」・・・というのは、目の前から消えてしまうということ。
というより存在そのものを否定することだ。
「おまえは生きていてもしかたがない」
「消えてしまえ」そんな意味なのだ。

ゆきが生まれて、今にも消えてしまいそうな命の灯が、愛しくて、大切で尊かった。
だから・・・
この言葉を聞くと、悲しく、苦しい気持ちでいっぱいになる。

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