ママのおまじない(no.56〜no.60)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。

56.おにいちゃんのたまご焼き

やっぱり風邪をひいた。
どんなに早く寝かせても、部屋を加湿しても、うがいをさせても 冬は風邪をひくものを決まっているらしい。
この3連休、夫、私そしてゆきと3人でダウン。
おにいちゃん、ひとり元気だった。

ゆきはまったく食欲がなく、「なにか作ろうか?」と言っても「いらない」ばかり。
私も身体がだるかったので、
とりあえず、ゆきにはイオン飲料を飲ませて私も寝ていた。
そうしたら、ゆきが「おにいちゃんのたまご焼き、食べたい!」と寝ながら言った。
おにいちゃんは、お料理が好きで、時々、創作料理を作ってはゆきに食べさせている。
そんな食欲のないゆきにそう言われたおにいちゃんは、はりきって台所へ。
いろんな調味料の入った(笑)たまご焼きが完成!
でも、朝からなにも食べていないゆきは、一口だけ食べて「もういい・・・」と。

そして翌日、まだ食欲がもどらないゆきは、また「おにいちゃんのたまご焼きが食べたい」と。。。
渋々、また作ってくれておにいちゃん。
今度は、全部たいらげたゆき。
え~!!!私のたまご焼きは元気なときでも、一口も食べてくれないのに。
これからもいろんなお料理、覚えてよ、おにいちゃん♪
ありがとう!おにいちゃん。

57.ひとりで・・・

なんとなく、ずっと手を出していた。
できる、できないに関わらず手を貸していた。
というのは、ゆきのことである。
もう1年生なのに?・・・まだ1年生だから?と思いながら、食事にしろ、着替えにしろ、お風呂にしろ・・・気がついたら、すべて手を出す私。
ゆきもあたりまえのようにやってもらっていた。

先日、いっしょにお風呂に入って、
「自分でからだ、洗うから・・・」と言う。
「できるの?」(できないに決まっていると決めつけている私)
「できるよ!パパに教えてもらったもん!」
「うっ・・・いつのまに!」(なんとなく寂しい私)

せっけんを手で泡立て、実に丁寧に洗う。
足の指の間もきちんと洗っている。 頭もなんとか洗う。
な~んだ!自分で洗えるんだ。
少しがっかりする私。

ゆきは、私がいないと何もできない。
ゆきは、私がやってあげないと・・・
そんなことをずっと思っていたんだ。私・・・
でも少しずつ、ひとつずつできることが増えてくるね。
ゆっくり大きくなっているんだね。
ママも少しは、子離れというかゆき離れしないとね。。。

58.もっと、もっと・・・

親ってどうして欲深いのだろう。
子どもをおなかに授かったときは、「健康であれば・・・」と願う。
そしてそれが、さも当たり前に思えてくると、次は「男の子がかわいい」
「女の子の方が話し相手にあるからいい。」なんて勝手なことを言う。

だんだん子どもの年齢が高くなると、
「みんなと仲良くやってほしい」
「運動もよくできる方がいい」
「勉強もガンバッテ!」
「素直な子」「優しい子」・・・いくらでもでてくる。
少しでもわが子のためになればと、いろんな習い事も試したくなる。
学校にも、先生にも「もっと、もっと・・・」を求める。
もっと、もっと・・・の先には何があるんだろうね。

でも、でも・・・一番近くにいる自分は、いったい何をしているのだろう?
まず、親である自分がきちんと暮らすことが大切に思えてくる。
「相手の話しをよく聞く。」
「感謝の気持ちをもつこと。」
そしてなにより「笑っていること。」
親がそうしていることが、子どもにとって一番の勉強になるのだろう。
でもそれができないのだ。
いつも欲ばかり・・・

ゆきの生まれた時のことを、思い出せば「もっと、もっと・・・」は、なくなるのにね。
元気が一番いいのにね。。。

59.もうひとつの誕生日

今年は、3月になっても寒くて雪まで降っている。
確か、4年前の冬もそうだったな・・・

今月7日は、ゆきのもうひとつの誕生日だ。
ずっと目標としていた手術を受けた日。
生まれた時から、主治医の先生から 「ゆきちゃんの場合、フォンタン手術が最終目標で、これを受けてうまくいけば かなり身体も楽になり、生活レベルのあがります。」と言われてから、ずっと私の頭の中で、「手術が受けられますように。。。」と願い続けてきた。

いろいろな条件をクリアしなければならなかった。
手術までの3年半は、本当に長くせつない日々だった。
そしてようやくその手術を受けられる日がやってきた。
ゆきの心臓の状態から、とても難しい手術になることは私たちにも予想がついた。
でもこれを受けなければ、いずれ寝たきりになるかもしれないとも言われた。
「楽になるための手術」「よくなるための手術」そう自分たちに言い聞かせた。

手術室に入るため、
おばあちゃんが用意してくれた風船模様の浴衣に着替えさせた。
ゆきは、「わ~い、おまつり」と言って喜んでいた。
涙がでた。
代わってあげられるものなら代わりたかった。
看護師さんに抱かれて手術室にはいったゆき。
神様、どうか、ゆきをお守りください。。。
また、ゆきの笑顔を見ることができますように。。。
その日が3月7日。
私は、その日のことを一生、忘れない。
ゆき、もうひとつのお誕生日、おめでとう!

60.いつの日か

ゆきは、朝、4人の近所のお友だちと一緒に登校している。
後ろ姿を見ていると、みんなはゆっくり、ゆきは早足で懸命についていっているのがわかる。

うちの学校は、8時5分にならないと門が開かない。
なのに、なぜか、開く前に行って門の前で待っているのがブーム?らしい。
ゆきがのんびりでていくと、みんなは、早く走って学校に行きたい様子。
そして、ほかの4人が顔を見合わせ、「う~ん、どうしよう・・・」と相談している。
おそらく、走って行きたいけど、ゆきと一緒では走れないことは、みんなよくわかっているみたい。
でもその中に1、2人は、「ごめん!先行くね」と全速力で走っていく。
残るメンバーとゆきは、のんびり行く。

親が口を挟んでも・・・と思いながら、
「みんな早く行きたいんでしょ。ゆきは、あとからひとりでのんびり行ったら?」と私が言うと、
「でもゆきちゃん、ひとりになっちゃうし・・・」とお友だち。

そんなことが何日か続いて、ゆきに、
「みんな早く走って学校に行きたいみたいだけど、ゆきは走ると苦しくなちゃうから、どうしようか?みんなに先に行ってもらう?」と聞いてみた。
「いや!みんなと行きたい!」とゆき。
「そうか~じゃあ、みんなに『いっしょにゆっくり行って』とお願いするしかないね。」と私。
ゆきはうれしそうにうなずいた。

こういうことってこれからた~くさんでてくるよね。
その時々で、ひとりになることもあるでしょう。
お願いしても断られることもあるだろう。
いつの日か、みんなと少し違う自分だけど、私は私だから・・・と思ってくれることを、ママは願っているよ。
でも、無理は禁物!ゆっくりゆっくり・・・

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